第2話 桜木夫妻の試練と仲間の支え

穣司と恵梨奈はお互い休みの日、西東京大学附属医療センターへ行く。


泌尿器科医 森先生を訪ねた2人。

紹介状の診断結果を見た森先生はこう始める。


森先生

「穣司くん、検査結果なんだがキミのカラダ自体の異常はないんだ。


今のところは外科的な治療や手術も必要ない。


強いて言うなら…


過去にショックな出来事による強いストレス

或いは抑うつ病の経験はあったかい?」


穣司は壮絶な過去の出来事を先生に話す。


彼の過去、新潟での凄惨な出来事…。


火災事故により母(菜々)や沢山の人々が亡くなる現場に遭遇)から消防士を辞め、事故の救助で大怪我をおった狼人間の父(豊)の介護をしながら介護福祉士の道に行った経緯。


また父が亡くなる前に交わした言葉や、以前までは狼人間の血の暴走があったこと…


これら全て森先生に包み隠さず話した。


森先生

「中々の辛い出来事だったね…よく乗り越えられた。」


穣司

「俺1人では乗り越えられていないです。


恵梨奈さんがそばにいてくれたから乗り越えられたんです。でもまだ時々フラッシュバックはするんです。」 


恵梨奈

「叔父さん…検査内容の詳細はわかった。穣司に今出来ることは何?」  


森先生

「泌尿器科医の立場上は、今は様子見としか言えない。今すぐに投薬治療を開始するには時期尚早すぎる。


ただ…そのありきたりな言葉なら、誰にだって言える言葉だ。


話変わるが恵梨奈ちゃんは幸せそうにしているが、穣司くん、今キミは幸せなのかい?」


穣司

「…。



勿論です…。」 


森先生

「…。


うん…今の言葉が嘘ではないのはわかる。


ただ、言葉に迷いがある…。

これは医者というより男の勘だ…。」


穣司

「っっ!」


恵梨奈

「穣司…。昔から叔父さんの勘は鋭いの。


正直な気持ち聞かせて。」


穣司

「その…俺のせいで…


恵梨奈さんを…


不幸にしないかが…不安なんです…。」


恵梨奈

「えっ?」


穣司

「頭ではわかってはいても…


恵梨奈さんを愛するため以外にも、やっぱり家族を増やしたい、子供が欲しいから、恵梨奈さんを抱いている…


俺は家族がもう1人欲しい。

両親を喪ってからは家族を渇望してる自分がいました…。


でも実際は家族増やすために大切な命を守り産むのは恵梨奈さんなのに…


俺、こんな考え持っていて…あまりにも自分勝手すぎます…。」


森先生

「恵梨奈ちゃん。


姉貴(恵梨奈母 千尋)に頼んで、実は産婦人科でキミも不妊検査してたんだよね?」



穣司

「えっ?」 


恵梨奈

「…。


うん…。


だって妊娠って2人の問題でしょう?

穣司だけ背負うのは違う。


ちなみに私のカラダには今のところは異常は無かった。」


穣司

「良かった。じゃあやっぱり俺が原因…」


恵梨奈

「違う!


私が言いたいのはそういうことじゃない!


今の発言で分かった。穣司は何もかも背負いすぎなの!私以上に責任を感じすぎだよ!


あなたは昔そう、利他的すぎるの!

確かに妊娠できたら産むのは私だよ!

でも私だってそれを望んでいるの!!


それを自分勝手とか…決めつけないで!


私にも、もっと甘えてよ!

不安や恐怖を隠さないで!

怒ったって、泣いたって良いんだから!」


恵梨奈は涙声ながら穣司に伝える。


穣司

「恵梨奈さん…」


森先生

「ふふっ相変わらず芯が強いのは変わらないな、恵梨奈ちゃん。なあ姉貴♪」


診察室にノックして入る女性、恵梨奈の母 千尋だ。 


千尋

「まあ〜ね〜

そこが我が娘の良いトコでもあるんだけどね〜♪」


恵梨奈

「お母さん!えっ夜勤明けでしょ!


帰らなくて平気?」


千尋

「娘と息子の一大事に帰ってスヤスヤと寝ていられますかっての!


ひとまず琉人の診察は、以上かな?」


森先生

「あぁ、ひとまず以上だね。おっと急患連絡だ。すまない、ちょっと行かないと。


これは私の連絡先、穣司くん、個人的な悩みなら非番の時になら乗れるよ。男同士でしか分からないこともあろう。


返事遅くなっちゃうかもしれないけど、私のことも医師としても親族としても頼って欲しい。」


森先生はメモを渡す。


穣司

「先生、ありがとうございます。」


診察を終え、千尋は2人を家に招待し一緒に夕飯を食べる。


千尋

「琉人を紹介した、あの泌尿器科のおじいちゃん先生、内田 吉洋先生は私達姉弟の大学時代の恩師よ。


穣司くん、吉洋先生はきっとあなたには、男同士でしか分からないデリケートな悩みを気軽に話せる人が必要だと思って琉人の事を紹介したんだと思う。


こうゆうデリケートな問題は1人では抱えてはダメよ。

琉人はね、泌尿器科、腎臓内科の医師資格免許以外にも上級カウンセラーの資格持ってるから、安心して相談しなさい。」


恵梨奈の様子を見た千尋はこう続ける。


千尋

「ふふっ恵梨奈…


な〜んか、さっきからずっと口膨らせてない?

まるで小学生だった時のあなた達見てるみたい…。


いじめに反撃しない泣くだけだった穣司くんに毎回怒っていた時とおんなじ顔よ。ふふふっ」


恵梨奈

「ん〜だって…


昔の泣き虫だった時の穣司を見ているみたいで…何かすっごい、もどかしかった。」


千尋

「あっはっは〜 やっぱり根っこは変わらないね〜 穣司くんも恵梨奈も。」



楽しく歓談しながら夕食を終え、千尋と別れ帰宅後、2人は疲れた体を癒やすため、一緒にお風呂へ。



恵梨奈は穣司の胸にもたれかかっている。


穣司は小学生の時に恵梨奈に恋心が芽生えた時を思い出し、彼は恵梨奈を抱きしめる。


穣司

「恵梨奈さん…。


今日はありかとう。恵梨奈さんの気持ち、言葉がなんかグサっと刺さった…はあ…


変わらないね…。相変わらず強いままだ。

すごいよ……。」


恵梨奈

「…。


あなたには弱さも見せるよ…


だから穣司ももっと甘えて、もっと頼って…」


小学生の頃、彼女に恋心を抱いた瞬間がフラッシュバックし、穣司の胸が熱くなる。


穣司

「恵梨奈さん…。


小学生のあの時、いじめられて泣いてた俺を…いつも守ってくれた。


貴之とは和解したし、もう個人的な恨みはないけど…


あの時に恵梨奈さんが怒りながらも俺を守ってくれた思い出、嬉しかった気持ちはまだずっと残っているんだ…」


穣司の瞳に涙が滲み恵梨奈に優しいキスをする


恵梨奈

「んっ…穣司…」


穣司

「のぼせそう…じっくり愛したい…」


恵梨奈

「ふふっ良いよ。」


お風呂から上がり着替えた2人。

穣司は恵梨奈をお姫様抱っこで寝室へ運ぶ。


満月の光がカーテン越しに差し込み、シーツが銀色に輝く。


恵梨奈

「穣司…。


あなたのふかふかな温もりが欲しい…。


私…あなたの弱さも、不安、恐怖も全部、受け止めるよ。」


穣司の頭に、両親の死、火災事故、子供時代の記憶がチラつく。


穣司の体が月光に震え、静かに狼人間化。

漆黒の体毛が全身を覆い、筋肉質な輪郭が野性味を帯びる。


恵梨奈は狼人間穣司のふかふか胸に飛び込み温かな体毛に顔を埋める。


彼は恵梨奈の頬をそっと撫で、大粒の涙を一滴こぼす。


穣司

「恵梨奈…。


俺…昔は泣いてばかりだったな。いや、今もそうだな。


でも恵梨奈が…そばにいてくれた…。

今、キミを幸せにしたいのに…俺何やってんだ。」


恵梨奈は狼人間の穣司の大粒な涙を指で拭う。


恵梨奈

「穣司…まだ背負いすぎ…その荷物、私だって荷物持ちたいの。あなたは優しすぎるの。


ふふっ…ふかふか…あなたがそばにいるだけで、私は幸せだよ…。


だから私もあなたを幸せにする、だから私をもっと頼って、もっと甘えて欲しい。」  


穣司

「うぐっ…恵梨奈…。


俺も幸せだ、ありがとう

俺だって恵梨奈を幸せにする!


幸せにしたい!うぅっ…」


その言葉に胸が熱くなった穣司は、狼人間の姿でも人間の姿でも丁寧に愛し続けた。


穣司

「恵梨奈さん…ありがとう、大好きだ…。」


恵梨奈

「穣司…あなたの弱さも…強さも…


全部、大好き。一緒に幸せ作ろう。」


二人は抱き合って眠りについた。


穣司は仕事の合間に繊細な相談を森先生にしていくうちに、だんだん自身を客観視できるようになっていた。


そして、何故だがその話し合いの仲間に孝太も混じっていた。孝太は穣司の異変を真っ先に感じていた。


孝太

「穣司!その話し合い俺も混ぜて!

俺だって将来結婚して葵ちゃんとの間に子供欲しい!」


トークに孝太も混ざり、不妊治療や将来の話、育児、男同士の熱い話し合いを展開。


3人は休みの日の午後、駅前のカフェで男子会をする事に。


孝太

「森先生、はじめまして。

穣司の仕事仲間、筋トレ仲間、親友の松山孝太です!穣司がすっごくお世話になってます!親友代表でお礼言わせてもらいます!


穣司

「あははっ、どんな自己紹介だ。」


森先生

「ふふっ…改めまして、森琉人です。


松山?聞いたことあるような…もしかして、孝太くんのお姉さん、産婦人科医の瑠奈先生?」


孝太

「はい、そうです。研修医時代に森先生には沢山お世話になったって言ってました。」


穣司

「えっ?あのLUNAレディースクリニックの瑠奈先生って孝太のお姉さん?


先月葵ちゃんが子宮内膜症見つけて入院治療した、あの院長先生だよね?


恵梨奈さんとお見舞い行ったら目を輝かせて俺の事見てきた。」


孝太

「そうそう、姉ちゃん、目をキラキラさせて穣司が狼人間の末裔なのすぐ見抜いた。


なんか匂いでわかるって言ってた。」


森先生

「あははっ瑠奈先生は相変わらずカンが鋭いな。」


穣司

「ええ、ホントにびっくりしましたよ。」


孝太

「まあ、穣司が狼人間であろうが、なかろうが親友なのは変わらないです。


姉ちゃんからも都市伝説的な存在が実在したんだからむしろ凄い大事にしろって。」


穣司

「いや正直、引かれるとは思ったよ。


そしたら孝太も葵ちゃんも

『へぇ…そうなんだ。んでどんな姿?』って聞いてきて。まったく拍子抜けですっ!」


森先生

「あははっ、まあそういう反応で良かったな。


ところで孝太くん、穣司くんの異変には前から気づいていたんだな。」


孝太

「はい、最近、穣司また元気なくなったかと思ったら…


不妊治療の話って聞いて、そういう事だったのかよ。まったく、自分責めすぎだよ!

穣司1人のせいじゃないだろっ!

てか誰のせいでもないよ!


俺が親友の異変に気づかないと思ったか?」


穣司

「ふふっありがとう。」


森先生

「孝太くんのように身近にいる友は大事だ。


もし逆に、孝太くんが同じ不妊の原因は自分だって事をキミ話したら、穣司くんはどう話す?」


穣司

「そりゃ…同じ言葉かけるかもしれないです。」


孝太

「そうだろ?

穣司が思う以上に、職場の仲間達は穣司も恵梨奈さんの事も気にかけてくれるんだよ。


先生、おれも近々不妊治療検査は受けたい。


葵ちゃんには相談済み。だって家族って介護の現場とおなじでチームだろ?

チームの仲間に助けが必要だったり異常があったらサポートしないと。」


森先生

「まあ孝太くんの言う通りだ。こうやって悩みを共有する、話す。

あとは散歩したり、好きな事に没頭する。これも治療の一つだよ。


まあこれは病気の治療というより予防の観点でもあるんだな。」


穣司

「おぉ〜 俺より若いのに孝太のその心意気すごい…見直したよ。すごい漢だな孝太は。」


孝太

「へへっ!今更おれの凄さに気づいたか…




…。




まあ今の言葉は、元カノに振られて号泣した俺をみた瑠奈姉ちゃんと父ちゃんからかけてもらった言葉だ。だはははっ!」


ズッコける穣司。森先生は爆笑する。


穣司

「なんだそりゃっ!体験談かいっ!」


森先生

「あっはっはっは。瑠奈先生とお父様の金言が今活かせてるなら、それで良いじゃないか。


話は変わるが、2人は今したいことは何だい?


恵梨奈ちゃんと、葵ちゃんの事は抜きにして、自分自身でやりたい事だ。」


孝太

「うーん、俺は、まず体脂肪率15%以下にするのに筋トレを頑張ること。

穣司は10%前半維持できているのがすげぇなって思って。


あとは、推しの海外アーティストの来日コンサートに行くことかな。

このアーティストは葵ちゃんも好きだから一緒に行く。


あとは〜」


穣司

「おっ、どんどん出るな…


えっと…俺は…まず筋トレ…



あとはバスケ観戦…?(恵梨奈さんも一緒に)


他には…


…。


うーん…




んー……。


(ダメだ、まいったな…俺の頭の中には恵梨奈さんが常にいる…。いやダメじゃない。

一番は彼女を楽しませるか幸せにするかだ…。1人の趣味…無いな…)」


穣司、眉をひそめ考えながら困惑する。

彼の頭には常に恵梨奈がいる。

ひとりの時間=筋トレ以外の方法が浮かばない。


孝太と森先生は穣司のその顔に吹き出す。


孝太

「あははっ なんつー顔してんだ!穣司。」


森先生

「あっはっはっ!無いなら無理に新しい趣味を作る必要もないよ。


なぜ、1人に限定したか?


簡単に言うと自分自身のやりたい事を考えられなくなったり、相手の事ばかり考えすぎて拗らせると共依存になってしまうんだよ。


今日やりたい事はなにか、それを徐々に意識するだけでメンタルも安定してくる。

あと、大好きな人の事は常に頭で考えるのは全く悪い事ではないよ。


それを、彼女がいないとダメなんだ!

みたいに、依存や必要にするのではなく彼女への感謝に変えるんだ。そうすれば幸福を自然と作れるようになる。


『いつもいてくれて、ありがとう』

『今日も1日楽しくなりそうだ』とね。」


医者でもあり上級カウンセラーの森先生の回答に大きく頷く2人。


沢山会話をしてあっという間に夜になり男子会はお開きに。


穣司

「楽しかった。孝太じゃあまた明日。

森先生もありがとうございました。」


孝太

「おう、また明日。」


森先生

「こちらこそありがとう。じゃあね。」


駅でわかれる3人。


穣司

「うん、まずは俺がしたい事をする、頭の中に常にいる、恵梨奈さんに感謝か。


すごいな、森先生も孝太も…本当に尊敬するよ。



うん?着信だ。


あっじーちゃんだ、もしもし。」


文男

「おう、じーちゃんだ、穣司!元気か?


いきなりだが、バスケチームのアイビス新潟に興味あるか?


9月にえっと…FINAL ふぃなる?」


穣司 

「ファイナルな。あははっ、とはいえ俺も英語は苦手だわ。」


文男

「だはははっ ふぁいなる、だな!


チケット2枚もらったんだが、その日地区の祭りがあってワシ行けないんだ。


穣司と恵梨奈さん、新潟帰郷する予定あるならこの日にずらさんか?」


穣司

「えっ!そのチケット取ろうと思っていたんだ!


恵梨奈さんも俺もアイビス新潟大好きだから行くよ!ありがとう!じーちゃん。チケット郵送して!」


文男

「おうよ。新潟来る日決まったら教えてくれ。ワシも穣司と恵梨奈さんの顔が見たいからな、じゃあな。」


穣司は帰宅した恵梨奈に9月の敬老会後の弾丸旅行を提案する。


恵梨奈

「嬉しい!帰郷とバスケ観戦が一緒に出来るなんて…。文男さんにもお礼しなきゃだね!」


穣司

「よし、きまりだね。

宿は…行きたい場所があるんだ。


今回は俺が決めて良い?」


恵梨奈

「えっ?穣司から提案なんて、珍しい。


ふふっ、じゃあお任せしちゃおうかな♪」


穣司

「お任せくださいっ!よし、時期と場所


っと…。よしっ空いてる。」


時は戻り9月後半。


恵梨奈

「はぁ~美味しかった。お寿司最高。」


穣司

「はぁ~やっぱり寿司の味は違うね。

新潟に帰ってきた感じするよ。


もちろん東京の寿司もうまいけど、やっぱり日本海の海の幸は最高!よし宿に行こうか。」


美味しいお寿司を食べたあとレンタカーに乗り、今日明日と宿泊する温泉旅館「月雪夜」に行く2人。


穣司

「こんばんは。

今日明日とお世話になる桜木です。」


フロント

「はい、桜木様2名様ですね。お待ちしてました。」


穣司は手続きを済ませ、観光地図のパンプレットをいくつか持って行く。


宿泊する部屋は露天風呂つきの広い部屋。

2人の濃厚な夜が始まる。


続く。


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