魔法狂いでF級探索者の俺、ダンジョンで配信者を助けたら世間が注目してくるんだが〜フェイク動画だと叩かれても、魔法と戦闘しか興味ないから無視してダンジョンに潜ります〜

きのこすーぷ🍄🥣

第1話 気の触れた男


 物心ついた頃には、俺はもう『魔法』に憧れていた。


 きっかけが何だったかは覚えていない。

 マンガか、アニメか、ゲームか小説か──まあ、そんなところだろう。理由なんてどうだっていい。

 とにかく俺は、物語の向こうで繰り広げられる魔法の煌めきに、心を撃ち抜かれていたのだ。


「……かっけぇ。俺も、魔法使いになりてぇ……!」


 子供の妄想? 確かにそうだ。

 けど、俺は本気だったんだ。


 それからというもの、俺の生活は魔法一色になった。

 詠唱の練習に、構えの研究。『気』とか『オーラ』とか、それっぽい言葉をノートに書き殴って、寝る前には真剣に魔力の練り方を模索してた。


 ……当然、何かが起こることはなかったが。


 火なんて出なかったし、空も飛べない。

 家の裏で気合い入れて呪文を叫んでも、出てくるのは近所のおじさんだけだった。


 それでも俺は諦めなかった。

 そして、一つの仮説に辿り着いたのだ。


『人は死を目の前にした時、火事場の馬鹿力を発揮する。ならば、魔力もまた――死の淵で覚醒するのではないか?』と。


 俺は訓練の内容を切り替えた。追い込むことにすべてを賭けた。


 壁に頭を打ちつけ、意識が遠のくまで拳を握りしめ自分を殴った。

 真冬の夜の川に裸で飛び込み、心拍が止まりかけるまで詠唱を続ける。

 屋上から飛び降り、骨を砕きながらも「いま魔力が覚醒していれば、無傷で着地できたのに」ってな。


 気が付くと、周囲から人は居なくなっていた。

 いつの間にか誰も俺に寄り付かなくなったのだ。


 まぁ、人間関係なんかどうでもいいし、元々理解を得ようとしていない。

 これは俺だけの修行。俺だけの探求だった。

 笑われたって構わない。俺は魔法を信じていた。


 ──そして、ある日。運命は俺に微笑んだ。


 世界に『魔力』が現れたのだ。

 空から降り注いだ光の粒子が、地上の常識を塗り替えた。

 【ダンジョン】と呼ばれる異空間が生まれ、魔物がその中を跋扈し、人々は【探索者】となった。


 魔法が――現実になったのだ。


 俺は確信した。「やっぱり、俺は間違ってなかった」と。


 ……だが、現実は再び、俺を嘲笑った。


 ・魔力量:F

 ・魔力属性:無し


 ──なんだそれは?


 俺はすべてを捧げた。命すらも魔法に賭けた。

 それなのに、『魔力』すらまともに宿らない?


 冗談じゃない。

 俺は拒んだ。否定された現実ごと、拒絶した。


 そして、思いついた。


 魔力量とは、己が魔力を溜め込める器の大きさを数値化したものだという。

 ならば、器に漂う微弱な魔力を極限まで圧縮し、無理やり詰め込んでしまえばいい。


「あぁ、これが……魔力かっ! 最っっ高に気持ちいいなぁっ!」


 代償は、痛みだった。


 臓腑が焼け、血が逆流し、骨が軋み、全身を刃で裂かれるような苦痛が、永遠に続いた。

 当たり前だ。気体ですら鉄塊の中で圧縮し続ければ、やがて破裂する。人間の身体ならば尚更だ。


 だが、それで構わなかった。

 俺はそれだけ魔法に憧れていたから。


 そして、初めてダンジョンに潜った夜。

 俺は一体の魔物を、その心臓を――己の力で貫いた。


 血飛沫が舞い、魔力が燃え上がる。

 全身が、悦びに震えた。


 ──ああ、これが……俺の《魔法》だ。


 その瞬間から、俺は知ってしまった。

 戦闘こそが、魔法を最も輝かせるという真理を。

 殺し合いこそが、魔法の最上の舞台だという答えを。


 俺は、魔法を信じている。

 誰よりも、何よりも。常軌を逸して。


 たとえ世界に否定されようと。

 魔力量がFだろうと、炎や雷が使えなかろうと構いやしない。

 俺は自分の手で魔法使いになる。


 これは俺の物語だ。

 誰もが否定した魔法を信じ抜いた――俺だけの物語。

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