第2話 魔法の常識をぶっ壊す! 賢者、魔力理論を語る

ラーナ王国辺境、グレイヴ村。

ここでは魔法すら「使える者はいない」と言われていた。けれど、それは単に「教え方」が間違っているだけだった――俺はそう確信していた。


「魔法は“才能”じゃない。理屈だ」


そう断言した時、村人たちはぽかんと口を開けた。


「尚人さん、魔法が理屈って、どういう……」


「例えば“火の玉”を出す魔法ファイアボルト、これは炎を空気中の酸素と魔力で発生させて、形を制御して飛ばすって原理だ。ようは“燃焼”と“弾道制御”だな」


「……???」


完全に理解されてない。


だが、それでいい。分からなければ、俺が教えればいいだけのことだ。



■ 錬魔式:魔力制御の新理論


魔法を使えない村の子供たちに、俺は基礎から魔力の扱いを教え始めた。


・呼吸と瞑想による魔力感知

・手のひらで魔力を温める感覚

・“熱”と“方向”を意識した魔力の流し方


現代でいう“ヨガ”と“イメージトレーニング”の応用だ。


最初に魔力を扱えるようになったのは、あの少女――リナだった。


「で、できた! 手のひらが……あったかいっ!」


手のひらの上に、小さな光の球が浮かぶ。


「よし、次はその球に“回転”を加えてみろ。そうすれば、弾になる」


「回転?」


「エネルギーは形にすると効率が上がる。回すんだよ、左回りに」


リナが集中すると、光の球がくるくると回転を始めた。


「よし、投げてみろ」


彼女が手を伸ばすと――


ボンッ!


土くれが舞い、的にしていた木の板が砕け飛んだ。


村人たちがどよめく。


「な、なおとさん……! ま、魔法を教えるなんて、あなた、いったい何者……」


「ただの元・ブラック企業勤めです。あと、元・科学オタク」



■ 王国からの影


その夜。俺が魔力理論のノートをまとめていると、村の門に一人の訪問者が現れた。


フードを深く被った、若い女性。腰には一本の細身の剣。


「あなたが“異端の賢者”……尚人ね?」


「……そっちは?」


「ラーナ王国第一王女、ミリア=ラーナ。あなたを連行しに来たわ」


「へぇ。ずいぶん直球なご挨拶で」


「魔法理論を覆す行為は、王国にとっては“反逆”にもなり得る。でも……あなたを敵にしたくない。協力して。私の改革に」


俺はゆっくりと立ち上がり、にやりと笑った。


「王女様が俺を迎えに来るとはね。面白い。ならまず、こうしよう」


俺はノートを渡した。そこには俺が再構築した魔法理論の基礎式が書かれていた。


「この理論で、王国を変えられるなら、協力してもいい。だけど条件がある」


「条件?」


「俺に“研究所”をくれ。あと、“実験対象”と“予算”もな」


王女は一瞬きょとんとしたが、すぐに口角を上げて笑った。


「交渉成立よ、賢者様」

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