降魔の翼 〜荒鷲は舞う・空を人類の領域とせんが為に〜
無名 陸兵
プロローグ
空は満点の星空。
今、僕達がかろうじて浮かんでいる海は暗い。
でも地面とは違って柔らかに僕達を受け止めた。
ゆらゆらと波にゆられる気密化されているジュラルミン製のゆりかご。いや、棺桶という方が近いだろうか。
目を瞑れば先程の戦闘が頭を流れる。
編隊がブレイクしたあと、最初はこちらの優位に進んでいた。群れる大鷲族達に一撃を浴びせ、速度に物を言わせて離脱する。
「行ける!」そう誰もが確信していた筈だ。
だが、1体の竜が突っ込んできた。
青白い炎に、凄まじい風圧。味方は呆気なく鉄屑に変わって行った。
......逢坂さんはしっかり帰投したのだろうか。
竜は撃退出来たのだろうか。
いや、既にもう僕には関係のない事か......
死ぬという実感が僕を徐々に蝕んで、体の震えが止まらなくなる。
いざ覚悟はしていたのに終わりを迎える時になると生きている人が羨ましくなる。
最後に、彼女に会いたかった。ひと目でも彼女の笑顔を見たかった。
「さようなら、愛しい空、愛しい人。僕はついぞ自由な空を見れずに死ぬんだ。さようなら、さようなら...」
口を開けば思いとは裏腹に、別れの言葉ばかりが出てきてしまった。
きっと、みっともなく死にたくない、手放したくないなんて言ってしまえば涙が止まらなくなることを僕は知っていた。
「さようなら。さようなら」
僕はうわ言のようにつぶやき続けながら、ゆりかごに揺られて深い眠りへと墜ちていった。
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