『有罪、とAIは告げた』の被告人に事前救済の可能性はあったか
オカモト弁護士の法的考察
第126回
『有罪、とAIは告げた』の被告人に事前救済の可能性はあったか
岡本馬路
※ネタばれ注意 本エッセイでは、中山七里『有罪、とAIは告げた』小学館文庫・2025年について、アマゾンのあおりや出版社の宣伝記事からすこしふみこんだネタがれがあります。ミステリとしての根幹に踏み込むようなことはしていませんが、ネタばれなしで愉しみたいかたは、本エッセイを読み飛ばし下さい。
1 小説のあらすじ
中山七里『有罪、とAIは告げた』は2025年12月に緊急文庫化された。2026年のドラマ化前やAIの緊急な発展を受けてのものであろう。
出版社の宣伝では、
東京地方裁判所の新人裁判官・高遠寺円は、日々の業務に忙殺されていた。公判、証人尋問、証拠や鑑定書の読み込み、判例等の抽出、判決文作成と徹夜が続く。
東京高裁総括判事の寺脇に呼び出された円は、ある任務を命じられる。中国から提供された「AI裁判官」を検証するというものだ。〈法神2号〉と名付けられたその筐体に過去の裁判記録を入力する。果たして、〈法神〉が一瞬で作成した判決文は、裁判官が苦労して書き上げたものと遜色なく、判決もまた、全く同じものだった。業務の目覚ましい効率化は、全国の裁判官の福音となった。しかし円は〈法神〉の導入に懐疑的だった。周囲が絶賛すればするほどAI裁判官に対する警戒心が増す。
アルコール中毒
そんなある日、円は18歳少年が父親を刺殺した事件を担当することになる。年齢、犯行様態から判断の難しい裁判が予想された。裁判長の檜葉は、公判前に〈法神〉にシミュレートさせるという。データを入力し、出力された判決は――「死刑」。ついに、その審理が始まる。
罪は、数値化できるのか。裁判官の英知と経験はデータ化できるのか。連載、即緊急出版!
目前に迫るあり得る未来に、人間としての倫理と本質を問う法廷ミステリー。
このなかで、酒乱の父親を殺したという公訴事実で公訴された被告人Xが登場する。
Xの量刑に悩む、それにAIを使うかどうか、から物語は進展していく。
2 被告人を助ける手段はあったのではないか
酒乱の父親には家族は何年も悩まされており、暴行設けており、騒音については近所迷惑になるほどだったことなどから、この父親はアウルコール依存症を超えてアルコール中毒だったと思われる。
措置入院ができる状態にあったと思われ、少なくとも家族にとっては、父親が失業した段階で精神科の閉鎖病棟へ入院させ、配偶者及び未成年の子供を避難させれおくべきだったと思われる。
措置入院手続において警察沙汰になって警察が入院申請をする場合が多いが。実はだれでも保健所に申出をすることはできる。
書式等難しいことがあれば、弁護士に相談すればいい。
人権保護の観点からも、DV案件として性質からしても、高校生や中学生が相談した場合に料金は無料(法律扶助による扶助がある)ので金銭負担もない。
なお、ストーリーが展開してわかることとしての補導歴の内容がある。本職がみるに、これは前歴ではすまないだろという内容であった。補導ですまず、警察沙汰になって鑑別所にいれられ、弁護士との接点ができていれば、弁護士との接点ができ、ある程度の経験のある弁護士であれば児童相談所とか人権派弁護士につながりをつけて、保護手段を講じていたと思われる。もっとも中山先生のミステリだと刑事訴訟法等の法律は現行法とはかなり違っていることが多く。本書でも、裁判官の職権調査活動が度を越していないかとか、本来回避すべきではないかとか、いろいろつっこみどころもあるのであるが、そのへんは面白さ優先ということで大衆文藝としては許容範囲であろう。)
3 裁判官の悩みどころの不自然性
3-1 いろいろあるがAIが日本国以外のものであるのは、領事裁判権ににた司法権の国家独占を侵害するところがあり、かなり不自然とは思われる。
3-2 量刑 死刑になるのか
殺人事件の弁護を複数ある人間としては、この事件で、死刑か無期がで悩むのは不自然に思えた。有期懲役の限度で何年かに悩むところである。参考判例は平成20年代のものではあるが、5年以上10年以下である。
量刑というのは量的なものであって連続性があり、17歳と18歳とで劇的に差異がでてくるものではない。
参考条文
措置入院は、精神保健福祉法29条に定める、精神障害者の入院形態の1つである。
精神保健衛生法29条
(都道府県知事による入院措置)
第29条 都道府県知事は、第27条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、その指定する2人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
3 都道府県知事は、第1項の規定による措置を採る場合においては、当該精神障害者に対し、当該入院措置を採る旨、第38条の4の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
4 国等の設置した精神科病院及び指定病院の管理者は、病床(病院の一部について第19条の8の指定を受けている指定病院にあつてはその指定に係る病床)に既に第1項又は次条第1項の規定により入院をさせた者がいるため余裕がない場合のほかは、第1項の精神障害者を入院させなければならない。
第29条の2 都道府県知事は、前条第1項の要件に該当すると認められる精神障害者又はその疑いのある者について、急速を要し、第27条、第28条及び前条の規定による手続を採ることができない場合において、その指定する指定医をして診察をさせた結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しいと認めたときは、その者を前条第1項に規定する精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
2 都道府県知事は、前項の措置をとつたときは、すみやかに、その者につき、前条第1項の規定による入院措置をとるかどうかを決定しなければならない。
3 第1項の規定による入院の期間は、72時間を超えることができない。
参考判例
殺人被告事件
【事件番号】 奈良地方裁判所判決/平成20年(わ)第488号
【判決日付】 平成21年11月13日
【判示事項】 少年(当時17歳)が実父を殺害した殺人の事案で,弁護人は,特定不能の広汎性発達障害と診断されており,保護処分が相当と主張したが,事前に凶器を購入し計画的であり,何の落ち度もない父親を殺害した結果は重大であるとして,懲役5年以上10年以下の不定期刑を言い渡した事例
【掲載誌】 LLI/DB 判例秘書登載
主 文
1 被告人を懲役5年以上10年以下に処する。
2 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。
3 略。
理 由
(罪となるべき事実)
省略
(被告人の処分に関する判断)
1 事案概要及び処分選択上の争点
(1) 本件は,犯行時17歳11か月であった被告人が,自らが生きる意味を見いだすには同居の実父(以下「被害者」という。)を殺すほかはないなどとの考えから,凶器となる斧やサバイバルナイフを用意した上,深夜,自宅において,就寝中の被害者の頭部等を斧で殴打したり,その頸部をサバイバルナイフで刺したりして殺害したという事案であり,家庭裁判所の検察官送致決定を経て,公訴が提起されたものである。
4 被告人に対する処分について
そこで,被告人に対する処分及びその内容について検討する。
前記認定のとおり,本件の犯行動機は,被告人が有する特定不能の広汎性発達障害の影響があるとはいえ,身勝手極まりなく,それ自体に酌量すべき余地は全くない。被告人は,被害者を確実に殺害するためとして斧やサバイバルナイフ等をあらかじめ準備し,日取りを決めるなどしていて,その計画性は高く,前記認定のように,犯行態様は執ようで,かつ残虐といわざるを得ないものである。
被害者は,男手のみで被告人らを養育し,被告人との情緒的かかわりに乏しいところはあったとしても落ち度とみるべきものはないのに,就寝中の無抵抗な状態で前記の激しい暴行を受け,その一命を奪われたのであり,その被害結果は重大であるし,第一発見者として惨状を目の当たりにした被害者の二男の精神的衝撃も看過することができない。そして,前記発達障害による点を考慮しても,家庭裁判所における審判手続から本件公判を通じ,被告人には十分な反省を欠く状態が続いている。
以上の諸事情に,被告人の年齢(犯行時は17歳11か月,弁論終結時は19歳3か月)を総合すると,被告人については,家庭裁判所に移送した上で保護処分に付するのが相当であるとは認め難く,刑事処分を科し,その責任を厳しく自覚させる必要があるものというべきである。この点に関する弁護人の主張は採用することができない(なお,処遇施設における矯正処遇の在り方に係るものではあるが,被告人については前記発達障害等を踏まえた処遇が必要と考えられ,A鑑定人も,鑑定書(弁23)及び当公判廷において,安定した大人の存在と熱心に取り組む何らかの作業があれば,一定の安定が得られていたという過去の経過からすれば,モデルとなり得る,信頼に足る安定した成人を見いだし,自己や他者,社会に対する認知が変化して,自己の特性を踏まえながら継続的サポートを受け,社会適応に向けて取り組んでいける場合には,十分な適応を期待することができるとし,そのような内容の処遇が望まれると指摘している。そして,関係証拠によれば,少年院と異なり,少年刑務所及び医療刑務所では,発達障害を有する受刑者対象の特別のプログラム等は実施されていないものの,個々の受刑者の資質・環境に関する調査に基づき作成した処遇要領により,問題性に応じた処遇を行っていること,刑の執行開始時に20歳に満たない受刑者については,個別担任を指名し,継続的な個別面接等による処遇を実施していることが認められるから,被告人の抱える資質上の問題性には相応の対処が可能と考えられる。)。
以上によれば,被告人に対しては,有期懲役刑を選択し,少年法52条1項所定の不定期刑を科すべきところ,本件の罪質,態様及び被害結果等にかんがみれば,本件の犯行経緯や犯行後の被告人の態度には,被告人が有する生来的な特定不能の広汎性発達障害という資質上の問題性が大きく影響していること,遺族となる被告人の姉弟及び被害者の実母(被告人の祖母)は,複雑な心境を抱えながらも厳罰までは望んでいないこと,犯行後自ら警察署に出向いたこと,前科前歴がないこと等被告人のために組むべき事情を十分考慮しても,不定期刑の上限を引き下げるのは相当とはいえず,主文掲記の刑を科すべきである。
5 よって,主文のとおり判決する。
平成21年11月13日
奈良地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 石川恭司
裁判官 畑口泰成
裁判官 岩佐圭祐
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