無限の剣 ~時代遅れの最強剣技~ ド田舎に引きこもっていたアラフォーおじさんは、失われた剣技を操る最強の剣士だった?
之雪
第1話 失われた剣技の伝承者
俺の名は、グランド・リーク。
中央大陸の中心にある大国、メルガリア王国の郊外、人里を遠く離れたド田舎に住む、中年で独身の世捨て人だ。
一応、剣士であり、先祖代々継承している、由緒正しい剣技の伝承者でもある。
俺の一族が継承している剣技は、かつて……気が遠くなるほど大昔においては、この世界最強の剣技だったらしいのだが……今現在、使い手は俺の家系のみとなっている。
どうやら、平和な時代が続いたせいで落ちぶれてしまったらしいな。
『無限』を冠するこの剣技は、戦いを司る神である闘神が編み出したもの、と言われていて、かつてはいくつもの流派が存在していたと聞いている。
その中でも俺が継承しているのは本家本元の流派であり、その使い手は世界を制するとまで言われていたらしいのだが。
今現在においては、同門の他流派は途絶えてしまい、技を伝えているのは俺の家系のみになってしまった。
この世に生を受けてからこれまでずっと、俺は自分の一族が受け継いでいる剣技の修行に従事してきた。
それがうちの家系では当たり前の事だったので、特に疑問を抱く事もなく、修練を続けた。
剣の修行は子供の頃から続けている日課であり、他にする事もなかったので、自然と上達してしまった。
四〇をすぎた今では、そこそこの腕前になっているのではないかと自負している。
師匠である俺の爺ちゃん……数年前に他界した祖父からは、一応、免許皆伝を言い渡されてはいる。
まあ、衰退しまくっている大昔の剣技だからな。いくら極めたところで大したものではないだろう。伝承している一族の人間としては悲しい限りだが。
さて、そんな俺だが、人里離れた山奥で、それなりに平和な生活を送っていた。
食料は、山に棲息する獣やモンスターを狩ったり、川で魚を釣ったり、山菜を採ったりして得ていた。
生活する事自体が修行みたいなものだ。狩りを行う事で、剣の修行にもなった。
話し相手などいない、孤独な生活ではあったが、特に不自由な事はなかった。少し離れた場所に小さな村があったので、そこへ行けば狩りでは得られない生活必需品が手に入ったし、他人と会話をする機会も得る事ができた。
そのような感じで、俺なりに平和な生活を送っていたのだが。
とある日の早朝、夜が明けて間もない頃。俺の平和な生活を脅かす、招かれざる客ってやつが現れた。
そいつは、闇よりも黒い鱗で全身を覆った、巨大で邪悪で禍々しい、暗黒のドラゴンだった。
巨大な黒き竜は、地響きと共に俺の家の前に降り立ち、長い首をもたげて天を仰ぎ、咆哮を上げた。
まるで、俺を潰すために降臨したかのごとく。
『グォオオオオオオオオオオ!』
「!?」
家の庭先で日課の素振りをしていた俺は、あまりの事に仰天し、声も出せなかった。
考えてみてほしい。朝、いつものごとく夜明けと共に起きて、眠い目をこすりながら庭先に出て、日課である剣の素振りをやっていたら、いきなり小山みたいに大きなドラゴンが空から降りてきて、あたり一帯に響き渡るような咆哮を上げたんだ。
我ながら、腰を抜かさなかっただけでも偉いんじゃないかと思う。下手すりゃショック死するわ。
硬直してしまった俺を見下ろし、巨大な暗黒竜は血のような色をした瞳を妖しく輝かせ、ギロリとにらみ付けてきた。
『貴様が、「無限の剣士」かァアアアアアア! 殺す殺す殺す殺す殺すゥウウウウウウウウウウウウ!』
「!?」
頭に直接、目の前にいる暗黒竜が発したと思われる言葉が聞こえてきた。念話ってヤツか?
いや、ちょっと待て。
俺にはドラゴンの知り合いなんかいないし、恨まれる覚えもないぞ?
なのになんでこの黒い竜は、俺を殺すとか言ってるんだ?
「お、おい、待て。俺には、あんたから殺すとか言われる理由が分からないんだが……」
『問答無用だ、「無限の剣士」ィ! 死ね死ね死ね死ね死ねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!』
「くっ……!」
めちゃくちゃだな。なんなんだ、コイツは。
誰かと間違えてるんじゃないのかと思ったが、『無限の剣士』って言ったのが気になるな。
それは俺が先祖代々継承している剣技を指しているのか? 『無限覇王剣』を。
だとしたら、人違いでも勘違いでもない事になるが……それでも、こんなヤバそうなドラゴンが襲ってくる理由が分からないな。
しかし、相手がやる気だというのなら、やるしかない、か。
さすがにドラゴンが相手では、俺も自身が持つ能力をすべて絞り出さなければならない。
俺なりにがんばって、先祖代々継承している剣技を……『無限覇王剣』を全力で使ってみる事にする。
そう、全力だ。最強クラスのモンスターであるドラゴンを前にして、余裕なんかあるはずもない。
『死ねえ、無限の剣士ィィィィイイイイイイイ!』
「うるせえ! 殺されてたまるかあ!」
漆黒の竜が吠え、すさまじく邪悪な気配をその巨体にみなぎらせ、襲い掛かってくる。
俺は剣を握り締め、先祖代々継承している剣技を……『無限覇王剣』の技を振るい、迎え撃った。
「覇王剣、奥義……」
『殺す殺す殺すゥ! 人間の剣技など通じるものかァ! 死ねや、このハゲェエエエエエエエ!』
「俺はまだハゲてねえよ! お前なんかぶっ殺してやるぜ! うおおおおおおおおお!」
それから、どれほどの時がすぎたのか。
俺は肩で息をしながら、構えを解き、剣を下ろした。
目の前には、巨大な黒い竜……だったモノが、倒れ伏している。
「はあ、はあ、はあ……ど、どうにか勝てたな……って、家が! 俺の家が燃えてるよ!? うわあああああああああああああああ!」
激闘の果てに、俺自身はどうにか無事で、凶悪極まりない暗黒の竜を屠る事ができたのだが。
先祖代々受け継いできた、俺の家が……竜が口から吐いた暗黒の炎をモロに受けてしまい、屋根が吹き飛び、壁が崩れ、黒き炎に包まれて、なにもかもが焼き尽くされてしまった。
招かれざる難敵をどうにか退けたものの、俺は住んでいる家を失ってしまったのだった……。
ああ、なんてこったい。
ボロい家ではあったが、生まれてからずっと暮らしてきた、思い出深い家だったというのに。
完全に焼き尽くされ、消し炭になってしまった。
俺の衣服や、食糧なんかも焼かれてしまったわけで……これからどうすりゃいいんだ。
いや、考えるまでもないか。家を建て直すにしても、当面の寝床をどうにかしないといけないよな。
「仕方ない、行くか。都会へ」
長い間、山奥で生活していた俺としては、一大決心だったわけだが。
家を失った俺は、ほとんどその身一つの状態で、山奥を離れて、都会へ……王都へと向かったのだった。
普段着に、庭先に干していて無事だったマントを羽織り、愛用の剣と、廃墟と化した家から掘り出した、わずかなコインのみを手にして――。
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