第7話 地下労働施設を作ろう!


 俺はハラスに宣言してしまったから、地下労働施設を作らなくてはならなくなった。

 首が回らなくなった債務者や、スラムの貧民を連れてきて強制労働させるための施設だ。

 非人道的な行為だろう……?

 俺はさっそく、臣下に命令して、施設を作らせた。

 地下に巨大な迷路のような施設をつくり上げた。何人たりと、ここから出ることはできないだろう。まるで刑務所だ。


「よし、あとはここに人を詰め込めば、悪事完了だな……!」


 俺は領地中の債務者やスラムの貧民層を捕まえて、施設に放り込んだ。

 債務者たちをとっつかまえてくるのには、悪の軍団『深淵の騎士団』のみんなが役に立った。

 メンバーは元盗賊とかだから、恫喝や人さらいはお手の物だ。

 ますます俺の悪事にも磨きがかかっているな!


 あと、この前俺がお金を貸したやつらがいたが、その中の何割かは大成功を収めたものの、やはり何人かは俺の思惑通り、借金が膨らんで首が回らなくなったやつもいる。

 そいつらもついでに放り込んでやった。

 さあ、お前らは死ぬまでこの労働施設から出られないぞ……!

 まあ、借金を返せば出られるんだけどね……。

 だが、それには途方もない時間、超過酷な労働環境に耐えなければならないのだ!


 俺ならこんなの、耐えられないね。

 ていうか、ブラック企業で使い潰された俺が、今じゃこんな施設を経営しているなんてな……。

 ブラック企業での過酷な労働、その恨みを、今度は俺が民に強いる番がきたってことだ。

 やはり、搾取されるよりもする側がいい!

 悪しか勝たん……!


 俺は、毎日15時間の労働を施設のやつらに課した。

 しかも、睡眠時間はたったの6時間だし、食料も最低限だ。

 地下の労働施設にはろくな遊びもないし、普通なら気がおかしくなるだろうな。


 なのに……。


「なんでこうなったんだ…………!?!?」


 俺は地下労働施設で過酷な労働を強いた。

 それなのに、なぜか労働者たちは、俺に感謝してくるのだ。

 意味が分からない。

 債務者たちは、こんなことを言っている。


「いやぁ、借金で死ぬしかないと思ってたところに、こんな仕事を与えてもらえて……俺ってラッキーだなぁ……」

「お金を貸してもらった上に、失敗まで救済してもらえるんなんて! 領主さまは神か!?」

「仕事をもらえるなんて本当にありがたい! 今はどこも就職難だというのに……。しかも環境も悪くない!」

「住み込みで働けるなんて! 家賃も食費もいらないし最高だ!」

「領主さま、ありがとうございます……! 我々貧民のために、労働施設を建ててくださったのですね……!」


 と、みんな笑顔でイキイキと働いている。

 ちがあああああああああああう!!!!

 これじゃあ、ただの福祉施設じゃねえか!!!!

 こいつら、なんでこんな環境で喜べるんだ……????

 今までどんな暮らしをしてきたっていうんだよ…………。


 くそ、俺は労働者たちを搾取するという悪行をするつもりだったのに……。

 みんな喜んでるし、これじゃあただの善行だ。


「おいお前ら……! おかしいだろ……!? なんでそんなにうれしそうなんだよ!!!!」


 俺は労働者たちに直接きいてみることにした。

 水色の長い髪に、ガリガリの細い体の少女がいた。

 そいつの名前はカレリーナというらしい。

 カレリーナは孤児で、スラム出身。行く当てがなくて、この施設に自分からきたらしい。

 俺はカレリーナに話をきいた。

 すると、


「ここの暮らしは、スラムでの暮らしに比べたら100倍いいですよ! だって、寝るところもあるし、食事も出るし……!」

「食事って……あんな最低限のパンとスープだけだぞ……!?」

「十分です! 前は食べられない日のほうが多かったですから……。それに、もうゴミ箱やドブを漁らなくても食べ物が手に入るなんて、ここは天国ですね……!」

「えぇ…………そんなことをしていたのか…………。で、でも……! 15時間労働だぞ!? 睡眠時間は6時間しかないんだぞ……!?」


 さすがに食べ物が食べれても、過酷な労働に耐えなければならないのだから、ここの暮らしはそれなりに辛いはずだ。

 そりゃあスラムに比べればいくらかましかもしれんが、ベッドもパンも硬いし、ろくな場所じゃないだろ!?

 俺が尋ねると、カレリーナはまるで俺がおかしなことを言っているかのような、そんな目つきで見てきた。


「15時間労働でいいんですから、良心的ですよ! 仕事がない頃は、一日中なにか食べ物を探したり仕事を探したりしてましたからね……! それに、鉱山奴隷なんかは20時間労働だともききますし……」

「えぇ…………で、でも…………! 6時間睡眠で眠たくないのか……!?」

「大丈夫ですよ。スラムにいたころは、夜寝ていて襲われるのが怖くて、ろくに寝れませんでしたから。寝不足には慣れっこです。ここなら、安心してぐっすり眠れますしね! ネズミにもかじられません!」

「そ、そうなのか…………」


 やばい、もうなにを聞いても、こっちの常識と違いすぎる。

 まさか、いくら中世ファンタジー異世界だといっても、スラム街での暮らしがそんなにつらいものだとは想像もしていなかった……。

 貴族って……俺って、すごく恵まれているんだな……。

 それなのに、俺はこんな人たちからも搾取しようとしていたなんて……。俺、ものすごく悪い奴じゃんか……。


 いやいや、なにを気にする必要があるんだ……!

 それこそ、俺のなりたかった悪じゃないか……!

 今更、悪になるのをやめるのか!?

 いや、俺は悪になると決めたんだから。

 自分のために! そのためには、他人のことなんか知ったことじゃない!

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