第7話 主婦
遊が学校にいったあと、風香はいつも一人で家事をこなす。
風香の家事の手際は、それはもうプロといえるほどだった。
普通の主婦なら2時間かかる作業を、たったの30分で終わらせてしまう。
まさに彼女は生活魔法の達人だ。
火炎魔法を何段階にも強さを調節し、適切な温度で料理をこなす。
しかも、なんと風香は多重に魔法を詠唱できる。
そのため、こっちで卵を焼きながら、こっちで肉を焼くといったことが可能なのだ。
火種を何個も用意するばあい、普通の主婦なら魔道具に頼ってしまう。
そこを彼女はいくつも火種を起こすことができる。
また、冷蔵庫についても同じだった。
普通、多くの家庭では、冷蔵庫に関しては魔力会社と契約して、コンセントから魔力を送ってもらっている。
しかし、なんと風香は、冷蔵庫の魔力を自前の生活魔法で補っていた。
冷蔵庫の魔道具としての機能を使うことなく、直接氷魔法を使い、冷蔵しているのだ。
あらゆる魔道具の中で、冷蔵庫は24時間稼働しているものだ。
だから、少し気を抜けば、冷蔵庫はその効果を失う。
それゆえに、多くの家庭では冷蔵庫は生活魔法でやるのをあきらめて、魔力をコンセントから常に供給する。
だが、風香は常に氷魔法を冷蔵庫の中に発生させ続けていたのだ。
風香にとって、氷魔法を常に展開しておくのは、無意識でできることだった。
それゆえ、寝ているあいだであっても冷蔵庫の中は冷たいままだ。
風香の冷蔵魔法は、しかも遠隔でもその効果が衰えることなく発動し続ける。
これはとんでもないほどの魔力量と、魔力制御が必要だった。
まさに風香は生活魔法の達人と言えた。
洗濯をするのにも、水魔法を駆使すれば一瞬だった。
風香は水魔法をただ使うだけじゃなく、その方向を自在に操り、水で渦を起こす。
そして普通の洗濯機と変わらないほどの効率で洗濯をするのだった。
他の家庭では、洗濯は、洗濯機を使ってやるものだ。
洗濯機も、冷蔵庫同様、コンセントに刺して、魔力を供給して動かす。
しかし、ほとんどの魔道具は風香には必要がなかった。
それよりも自前の生活魔法でやったほうが、いくらかはやいし、効率的だった。
洗濯ものは風魔法で一瞬で乾かす。
そして風呂を貯めるのにも水魔法を使う。
普通の家庭では、少し料理に水を使うくらいであれば、生活魔法で行うものもいるだろう。
風呂に水をいっぱいはるには、それなりの水量が必要だ。
つまりは、それなりに魔力がいる。
普通の主婦には、それほどの魔力はなかった。
一般的には、風呂やシャワー、トイレの水道はさすがに水道水を使う。
しかし風香はもったいないからと、それも生活魔法でおぎなっていた。
これは驚異的なことである。
風呂の掃除がおわり、昼前になる。
そろそろ買い物にいく時間だった。
風香は買い物へ出かけることにした。
スーパーにいくと、他の見知った主婦仲間から声を掛けられる。
「美園さん、あなた。テレビみたわよ~。すごかったわねぇ。あなたって、なんでもできたのね。あんなに強いなんて知らなかったわ~」
「テレビ……? なんのことですか……?」
風香はまだテレビで自分の姿を見ておらず、なんのことを言われているのかわからない。
「あなた、ニュースで映ってたじゃないのよ!」
「そうですか……? 人違いではなくて……?」
「いえ、あれはどうみてもあなただったわ。テレビの取材とかきてないの? あー、謎の主婦とかいってたから、きてないのかしらね。でもそのうちくるわよ! きっとあなた美人だから、芸能人になれるわよ!」
「そ、そうなんですか……? ちょっとよくわからないですけど……」
風香はきっとなにかの勘違いだろうと思った。
しかし、どうやらそうでもないらしい。
さっきから、買い物する風香に、さまざまな方向から視線が向けられる。
なにかがあったことは確実だった。
「わたし……なにかしちゃったのかしら……」
家に帰り、風香は気になってテレビをつけてみることにした。
すると、ちょうどニュースがやっていた。
『謎の主婦あらわる……! ダンジョンに突如あらわれたのは、謎の主婦です! この主婦は、深層に一人で潜って、遭難した息子さんをたすけます……! しかも、なんと生活魔法でです……! ありえません! 意味が分からないですね……! 我々テレビクルーは、この謎の主婦の動向を調べました。そして、なんと東京都にお住いの、ある主婦の方だと突き止めたのです……! では、生放送でその主婦のおうちにお邪魔してみましょう。ありました。それでは、チャイムを鳴らしてみましょう』
「え…………?」
そのときだった。
美園家のチャイムが鳴らされる。
どきどきしながらも、風香は家の扉を開けに、玄関へ。
「はぁい……」
(どうしよう……私、テレビデビューしちゃうのかしら……!)
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