第4話 警察
風香と遊がダンジョンから戻ってくると、既に時刻は11時を回っていた。
すっかり冷めてしまった夕飯を温め直す風香。
「チキン、冷めちゃったわね……。今温め直すわね」
「ごめん、ママ……」
「いいのよ、それよりも、ゆうくんが無事でよかったわ」
そのときだった、突然、家のチャイムが鳴る。
「ゆうくん、出てもらえる?」
「うん」
遊が玄関に出ると、そこには警察がいた。
一瞬、自分がなにかしてしまったのではないかと、遊の心臓が早鐘をうつ。
しかし、なにも後ろめたいようなことをした記憶はない。
「あの……なんですか?」
「この家のダンジョンで、遭難者が出たと通報が」
「あ……」
ふと遊が警察官のうしろを見ると、そこにはダンジョン捜索隊の制服を来たチームが待機してくれていた。
おそらく、自分の配信をみた誰かが通報したのだと理解する。
もしかしたら、親友のタカが通報してくれたのかもしれない。
というか、おそらくそうだ。
明日学校へ行ったら、タカにお礼を言わないとなと思う遊だった。
「それなら、もう大丈夫です。母が助けにきてくれましたから」
「そうか……。それはよかった。無事に済んだなら、それに越したことはない。それにしても……母……? 君のお母さんが……?」
「あ、はい。なぜだか僕にもわかりませんが……。うちの母が生活魔法で……」
「ははは。それはありえないよ。通報にあったのは、深層での遭難だときいてきたぞ? それを生活魔法で助けるなんて、不可能さ」
「まあ、そうですよね……」
警察は遊の言葉を信じなかった。
もちろん、遊もそのこと自体に不思議はないと思っている。
その目で見た遊自身、さっきの出来事は夢なのではなかったかと、いまだに信じられないでいるほどだ。
生活魔法で深層を乗り切ったなどという話、誰も信じないのが普通だろう。
「はは、君は冗談が好きなんだな」
「あ、いえ。冗談ではないんですけど……」
「まあいい。もしかしたら、通報自体誰かのいたずらだったのかもしれないな。まあ。けが人がいないのなら、それでいい。私たちはこれで失礼するよ」
「あ、はい。お騒がせしました……」
遊が扉を閉めると、警察たちは去って行った。
「なんだったの?」
「警察」
「まあ、きっと誰か親切な人が通報してくれたのね」
「そうだね。明日タカにお礼をいっておくよ」
「そうね」
それから二人は、再び暖かくなった夕飯を食べた。
ご飯を食べ終わって、遊が二階に行くと――。
――ブブブブブブ。
スマホの通知が鳴っていることに気づく。
それどころか、通知は鳴りやまない。
「なんだ……!?」
遊はスマホを持ち上げて、画面を覗く。
【○○さんを含む1000+人がチャンネル登録しました――】
【○○さんを含む1000+人があなたをフォローしました――】
【100件のメッセージが届いています――】
【○○さんを含む1000+人がいいねしました――】
【○○さんを含む1000+人がリツイートしました――】
「うわぁ……!?」
いきなりのことに、驚いてスマホを落としてしまった。
遊のチャンネル登録者はこれまでに15人、通知なんて、めったにくるものではなかった。
それに遊にはさして友達もいない。
これまで遊のスマホの通知は、凪だった。
だが、遊のスマホは鳴りやまない。
「ど、どういうことなんだ……?」
遊は自分のTwitterアカウントを確認する。
すると、大勢の見知らぬ人からメッセージが届いていた。
【配信からきました……!】
【チャンネル登録しました!】
【すごいお母さんですね!】
【次の配信いつですか……!?】
【とんでもないママですね!】
【ママさんを僕にください!】
【また配信にママさんでますよね?】
「あああああああ……!? そういうことか……!?」
ここで、遊は理解する。
そう、配信を切り忘れていたのだ。
そして、そこにあの母親の動きである。
遊自身、自分の母親がとんでもない存在であると認識していた。
「まあ、あれを配信に乗せれば、こうなるわな……」
そんなとんでもない母親が全国に知れ渡ると、こうなるのも無理はない。
生活魔法でダンジョンを攻略したような人間などこれまでに存在しないのだ。
「それにしても……そうか……配信ついたまんまだったか……しまったな……」
まさか自分ではなく、自分の母親がバズるとは夢にも思っていなかった遊。
だけど、おかげで遊のチャンネル登録者はうなぎのぼりだ。
「ひえ……チャンネル登録者すでに10万人超えてる……」
夕方まで底辺配信者だったのに、一気に有名ダンチューバーの仲間入りだ。
これで収益化もできるし、有名人になれる。
ほんらいなら喜ばしいことのはずだ。
遊が望んでも手に入らなかったもの、それが今目の前にある。
しかし――。
「でもこれ、ママがバズっただけなんだよなぁ……。ママになんて言おう……」
さすがにあなたバズってますよと、母親に言ってもどうしようもない。
遊の認識では、風香はなんの変哲もない、そこらにいくらでもいる、ただの専業主婦だ。
まあ、少し人と違うところがあるとすれば、それは家事の達人であるということくらいだ。
そんな風香が突然全国の有名人になったとなれば、風香はどう思うだろうか。
「そもそも、僕が遭難したせいでこんなことに……」
なんだか風香に申し訳ない気分もあった。
普通の主婦である風香はバズなんて望んでいないはずだ。
このことをなんと話せばいいか、遊は悩んでいた。
「ど、どうしよう……」
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