普通の主婦が生活魔法でダンジョン配信者になったら強すぎてバズってる
みんと
第1話 イレギュラー
平凡な男子高校生である
この世界にダンジョンが現れて5年になる。
もともとゲームや異世界ものの漫画が大好きだった遊は、ダンジョンにのめりこんだ。
しかし、残念なことに、遊にはダンジョン探索者や配信者としての才能はなかった。
好きこそものの上手なれとは言うが、好きでもどうしようもないこともあるのだ。
だけど、好きなものは好きなのである。
遊はつたないながらも、ダンジョン探索者としてダンジョンに毎日潜り続けた。
そして、あくまでこれも趣味であるが、ダンジョン配信者をやっていた。
チャンネル登録者はほんの15人である。
だが、毎日の配信はかかさない。
配信を毎日見てくれるのなんて、親友のタカくらいなものだったが、それでも遊にとっては大事な趣味だった。
「やったぁ……! ダンジョンを買ってもらった……!」
15歳の誕生日、遊は母親から、ダンジョンを買ってもらった。
正確にいうと、ダンジョン培養キットだ。
装置に種をまいて育てると、ダンジョンになる。
どんなダンジョンに育つかは、その育て方や運によって変わる。
今ではダンジョンの生成メカニズムは完全に分析されており、このようなダンジョン培養キットなるものまで売り出されている。
子供の自由研究にとても人気の商品だった。
それに子供だけでなく、一般のダンジョン探索者にも、培養キットは人気だ。
なにせ、自宅にダンジョンを作れるのだから。
街のダンジョンは、人気の狩場は、有名なクランが支配している。
人気のダンジョンは人も多くて、順番待ちや略奪も多い。
だから、みんなゆっくり潜れる自分だけのダンジョンを欲しがるのだ。
それにうまくいけば、レアなダンジョンを独り占めできる。
ダンジョン培養キットは飛ぶように売れた。
遊は自室にダンジョン培養キットでダンジョンを生成した。
毎日水やりと魔力を食わせるのを欠かさなかった。
遊が16になるころには、ダンジョンは立派なものに成長していた。
ダンジョンが成長する様子は、いつもダンカメで記録し、自分のダンチューブチャンネルにあげていた。
しかし、それで登録者が増えるようなことはなかったが……。
ダンジョン培養キットの成長記録なんか、世界中のみんながやっていることだ。
よほど珍しいダンジョンでも生まれない限り、そんな動画にそれほど需要はない。
完成したダンジョンに、遊は毎日潜り続けた。
学校から帰ってきて、ダンジョンに潜ることだけが生きがいだった。
内気な遊には彼女もいなく、友達も少ない。
アウトドア派でもないから、知らないダンジョンに出かけていって、知らない人たちと狩りをしたいとも思わない。
自部屋のダンジョンでのびのびと楽しむのが、遊のスタイルだった。
事件が起こったのは、そんなある日のことである――。
その日も遊は、普段通りに自部屋のダンジョンに潜っていた。
「今日は少し奥までいってみようか……」
遊が探索できるのは、せいぜいが中層までだった。
しかし、なにを思ったのか、この日は少し下層に足を踏み入れてみようと思ったのだ。
なにせ、このダンジョンは自分で丹精込めて作ったダンジョンである。
そんなダンジョンに、どんなモンスターがいて、どんなものがあるのか、自分の目で確かめてみたいと思うのは当然のことだった。
今まで下層のようすはみたことがなかったので、一度見てみたいと思っていたのだ。
下層まで降りてきた遊はモンスターにばれないように、探索をすすめる。
もし下層のモンスターに見つかれば、かなりの苦戦が強いられる。
遊は戦闘をさけ、少し見学して帰るつもりでいた。
しかし、少し油断をしたときである。
遊は石を踏んで、その場に倒れてしまった。
「いて……あ、やば……」
転んでしまった遊の上に、真っ黒な影が差す。
遊が顔を上げると、なんとそこには、いるはずのない生物がいた。
そこにいたのは、本来深層に存在するはずの、シュトラールドラゴンである。
「グオオオオ……」
「な、なんで……!?」
本来深層に存在するモンスターが、稀に下層に現れることがある。
イレギュラーモンスターだ。
下層のモンスターでさえ苦戦する遊に、当然深層のモンスターなど倒せるはずもない。
深層のモンスターと戦えば、間違いなくそこには死が待っている。
遊は咄嗟に思った。
「逃げなきゃ……」
立ち上がり踵を返すと、遊は走り出した。
しかし、足音からするに、ドラゴンは追いかけてきている。
振り向く余裕はない。
「ひいいいいいいいい殺される……!」
わきめもふらずに、やみくもに走る遊。
しばらく走って逃げていると、またなにかに躓いてしまう。
いや、躓いたのではなかった。
急に、足場が消えたのだ。
「は……? え……? ちょ……!? うわああああああああ!!!!」
遊は垂直に、真っ逆さまに落ちる。
そしてそこは深層だった。
「いててて……これ、詰んだ……?」
◆
遊には、母親がいる。
名前は
年齢を感じさせない若々しい肌と、豊満な胸を持つ、近所でも評判の主婦だ。
母親といっても、実際に血がつながっているわけではなかった。
遊の本当の母親は、幼いころに亡くなっている。
そして遊の父親が再婚した相手が、風香だった。
しかし、遊の父親と風香の間に恋愛関係はなかった。
当然、肉体関係もなかった。
二人は、ただ形式上の結婚をしたにすぎなかった。
遊の父親は、若くして死んだ母の代わりを探していたのだ。
これでは幼い遊があまりにもかわいそうだと思ったのだった。
父は母をものすごく愛していた。
だから、新しい母親に恋愛感情を持つことはなかった。
遊の父にとって、死んだ母だけが唯一の愛する人だったのだ。
遊の父は資産家で、金は有り余っていた。
当時の風香にはお金が必要だった。
二人のニーズが合致して、風香は遊の母親になった。
そんな遊の母親、風香は、専業主婦をしていた。
遊の父親が大量に稼いでいるので、風香が働きに出る必要はなかった。
普段は遊と風香、二人でこの一軒家に暮らしている。
遊はいつも、帰ってくるとすぐに自部屋のダンジョンにこもってしまう。
風香は、そのことを少し寂しく思っていた。
「まあ、思春期だからしょうがないのかもしれないわねぇ……もっと小さいときは、お母さんといっしょに遊んでくれたものだけれど……」
いつもなら、遊は夕飯の時間になると、呼ばれなくてもリビングに降りてくる。
しかし、その日は遊は一向に現れなかった。
まあ、そういう日もあるかと、楽観的に思っていた風香だったが、さすがに9時になっても反応がないと、心配にもなってくる。
風香は二階へとあがり、遊の部屋と扉をノックした。
「ゆうくん、開けるわよ……?」
中へ入ると、遊の部屋にあったのは、ぽっかりと入り口を開いたダンジョンポータルだけである。
ダンジョンポータルが開いたままになっている、ということは、遊はまだダンジョンの中にいるということである。
「まさか……ゆうくん、まだダンジョンの中にいるの……!?」
いくら夢中になっていても、遊は時間を忘れるような子ではなかった。
時間になれば、きちんと降りてくる、出来た息子だ。
不審に思った風香は、ある可能性に思い当たる。
「は……! もしかして、ダンジョンの中でなにか危険なことに……!? こうしちゃいられないわ……。ダンジョン捜索隊……? いや、それじゃ間に合わないわ……! よし。ゆうくん、今行くから、まっててね……!」
風香は、遊を呼び戻すために、一人ダンジョンの中へと入る――。
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