ひねくれたふたりはラブコメができない~大人らしくない青春の終わらせ方〜
遠藤孝祐
プロローグ 優美で優雅な優等生との出会い Don't start a love comedy.
プロローグ 空き部屋と優等生の秘密①
高校の同級生、
優美で優雅な優等生。物腰は柔らかで誰に対しても丁寧な態度。
柔らかみを感じる目尻に、感情をかきたてられる真ん丸な瞳。
規律正しいストレートロング。吹き抜ける風が彼女を揺らす。ふわりと広がりなびく姿に、人は天使を見るらしい。
そんな漫画の世界から飛び出したような彼女とは、なんの接点もない。
関りがないから、特に興味もない。ただ単に目立ってすごいというだけの同級生。
これから大きな関りもなく、このまま卒業するだろう。
そして将来、友達と話している時なんかに、ふと話題に出る。思い出の花みたいな存在。
人生そんなもんだ。
そう思っていた。
けれど、俺は――見てしまった。
奴が全然、優等生でも天使でもない。
そんな一面を。
ある日の放課後。
快晴にさらされた高校生たちは、今日も元気に青春をしている。
グラウンドから響く歓声。連続するホイッスル。同級生たちのガヤガヤから逃げ出すように、俺は廊下をひっそりと歩く。
すれ違う同級生の顔は様々だ。
街中にオープンしたオシャレカフェに行こうと、はしゃぎだす女子たち。
なんとなく群れて、青春の光を少しでも受けようとする男子たち。
いいことないかなと言いつつも、その口元は緩んでいる。
誰もがきっと、青春の一ページを現在進行形で刻んでいる。
キラキラしている集まり。そこから外れている俺には、ちょっぴり眩しい。
古ぼけた校舎は、端に行くほど静寂が増していく。
目指す場所は旧資料室。新設された資料室が日の目を浴びているため、ほぼ放置されている。
鍵が閉め忘れられていることを発見して以来、そこは俺の隠れ家となった。
俺だけが知っている。普段は誰も訪れない。青春の輝きに照らされない、唯一の場所。落ち着く。
ちょっとだけワクワクしながら進む。ほどなくして、旧資料室に辿り着いた。
「ん?」
そこで、異変に気付いた。
くすんだ白色の扉が、開け放たれていた。
おかしい。開けっ放しにしていると、教師に気づかれて施錠される恐れがあるから、毎回きちんと閉じていたはずだ。
無断使用がバレたかと思い、恐る恐る中を覗いた。
埃っぽさが鼻につく。過去に使われていた古本や丸めた垂れ幕。よくわからないガラクタなども雑多に詰め込まれている。いつもの風景。
その中心を見据えた時、息が止まった。
窓から吹く風が、柔らかく髪を揺らす。伸びた背筋は、育ちの良さがうかがえる。後ろ姿だけでも、その人物がわかってしまう。
思わず幻覚じゃないかとすら思った。
だって、普通に考えてありえないだろ。
優美で優雅な優等生――水崎千夏がこんなところにいるなんて。
声が出そうになるのを、口に手を当てて抑えた。
え? え? あの水崎千夏が、なんでこんなとこに? ってか何してんの? なんでここを知ってんの?
混乱で頭がグルグルしている中、水崎千夏に動きがあった。
わずかに首がそれる。見えないが、おそらく息を吸い込んでいる。窓の外に向かって、何かを言おうとしているのかもしれない。
俺はちょっとだけ、ワクワクしていた。
まともに話したことはないが、水崎は品行方正で通っている。
そんな彼女が、誰もいない空き部屋で何か言おうとしている。
普段は人に言えない、ささやかな秘密を放ってしまおうという魂胆なんだ。きっと。
優等生が普段言えない悩みの種は、いったいどんなものなんだ。
下世話だとは知りながらも、俺は耳をすませた。
水崎千夏は、予想外の大声を放つ。
「恥を知りなさいあのメスブ〇――!」
俺はずっこけた。
ビリビリと空気を震わせる内容は、口汚い悪口だった。
水崎千夏が抱えていたものは、全然ささやかじゃなさそうだった。
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