スキップ

六角

スキップ

 スキップなんてもう恥ずかしくてできないや。こんな年齢になって、それは幼稚すぎやしないかと懸念する。

 カラスの鳴き声で目覚めると世界はほんのりと赤く染まっていた。硬いベンチで寝てしまい、背中と首が若干痛い。遠くの方から救急車の音がして、あの音で起きたのかもしれないなとも思った。

 瞼が重くて、しばらく目を閉じたまま背中をさすっていると、ボールのバウンド音と走る音が近づいてくる事に気づく。

 サッカーボールくらいの大きさのボールを追いかけて男の子が私の方に向かって走っていた。私の足元に転がってきたボールは少し湿った草と泥がついて汚らしく見えた。

これは本当になんとなく。寝ぼけていたからかもしれない。ボールを持ち上げると、泥と草を手で払い落として、近づいてきた少年に手渡した。少年はありがとうございますとだけ言ってそのボールを地面に置き友達の方へおもっきり蹴り上げた。

 これもなんとなく。綺麗にした甲斐があったなと思った。

 帰り道、背中をさすりながら二歩分だけスキップをして、家に向かう。そして、なんとなく、なんとなく、泣いていた気がする。

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スキップ 六角 @Benz_mushi

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