最終章:あたたかい無音
誰にも触れられない夜が、いちばん安心する。
何も言わなくていい、何も演じなくていい夜。
その静けさの中に、初めて「わたし」がいた。
部屋の窓を開けると、遠くで電車の音がした。
風がカーテンを揺らし、肌をなぞる。
何も起こらない時間に、深く息を吐く。
こんなふうに、何も求められない時間が、
こんなにも優しいなんて知らなかった。
誰かとわかりあうことを、あきらめたわけじゃない。
ただ、わかってもらえない前提で、生きていけるようになっただけ。
それは孤独じゃなかった。
むしろ、最初の本当の「自分との和解」だった。
「あなたはどうしたい?」
かつて誰かに問われて、答えられなかった言葉。
今なら言える。
「自分のままで、静かに生きたい」って。
誰かの期待を満たすためでもなく、
理解してもらうためでもなく、
自分が心地よいリズムで、心地よい言葉で、日々を紡ぎたい。
小さな声が、胸の奥で囁く。
「あなたの感じた痛みも、違和感も、無意味じゃない」
それはわたしを守るためにあったし、
わたしがわたしでいるための、確かな証だった。
世界は、まだ騒がしい。
性別で分け、恋愛で縛り、枠にはめようとする。
だけど、わたしの中には、
ひとつの静けさが生まれていた。
それは、孤独ではない。
あたたかい、無音。
誰にも干渉されない、誰にも定義されない、
「わたし」だけの世界。
その静けさの中で、
初めて「生きていてよかった」と思えた。
わたしは、わたしのままで、
これからも生きていく。
『あたたかい無音』 rinna @rinna_
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