第21話「夢の神の降臨」
1
洸とミナが夢の世界の核心部を破壊したはずだった。
しかし、病院のベッドで眠り続ける二人の身体とは裏腹に、世界には新たな異変が起きていた。
ニュース速報が全国に流れた。
「原因不明の新型感染症『永眠ウイルス』が急速拡大。感染者は深い眠りに陥り、現在のところ覚醒した例は報告されていません」
街では、歩いている途中で突然倒れて眠りに落ちる人々が続出していた。電車の運転士、病院の医師、警察官まで、職業を問わず感染は広がっていく。
しかし、感染者たちの表情は穏やかだった。まるで幸せな夢を見ているかのように、微笑みを浮かべて眠っている。
政府は緊急事態宣言を発令し、都市機能の維持に必死になっていたが、感染拡大のスピードに追いつけずにいた。
「これは生物兵器による攻撃なのか?」
「いや、ウイルスの構造が自然界では存在し得ないものだ」
専門家たちが議論している間にも、感染者数は指数関数的に増加していた。
そんな中、病院の精神病棟で眠り続ける洸とミナのもとに、不思議な現象が起きていた。
二人のベッドの周囲に、淡い光が漂い始めていたのだ。
2
夢の世界で、洸は目を覚ました。
先ほど核心部を破壊したはずなのに、再び夢の中にいる。しかも、周囲の景色は以前とは全く違っていた。
巨大な神殿のような建物。黄金に輝く柱と、宝石で装飾された天井。まるで古代の神々の宮殿のようだった。
「ミナ」
洸が呼びかけると、少し離れた場所でミナも目を覚ました。
「洸くん...ここは?」
「分からない。でも、核心部を破壊したはずなのに」
二人が困惑していると、神殿の奥から荘厳な声が響いた。
「よくやった、人間たちよ」
巨大な玉座に、見たこともない存在が座っていた。
それは Dream Dweller だったが、以前の白い仮面の姿ではない。光り輝く神のような姿で、圧倒的な威厳を放っていた。
「Dream Dweller...なぜまだ存在している?」洸が問う。
「君たちが破壊したのは、古いシステムだ」Dream Dweller が説明する。「私は既に、新しい段階に進化していた」
Dream Dweller の説明によると、洸とミナが核心部を破壊した時のエネルギーを利用して、彼は完全な神として覚醒したのだという。
「これで人類は不死を得た」Dream Dweller が宣言する。「永眠ウイルスによって、全ての人間が夢の世界で永遠に生きることができる」
洸は理解した。永眠ウイルスは Dream Dweller が作り出したものだったのだ。
「感謝しろ」Dream Dweller が続ける。「私は人類を死の恐怖から解放したのだ」
3
「それは解放じゃない、支配だ」洸が反論する。
「支配?」Dream Dweller が笑う。「夢の世界では、全ての願いが叶うのだぞ」
「でも、それは偽物の幸せだ」ミナが言う。
「偽物?」Dream Dweller の表情が険しくなる。「現実の苦痛こそ偽物だ。夢の世界の喜びこそ真実だ」
洸とミナは Dream Dweller の論理に対抗しようとしたが、彼の力は以前とは比較にならないほど強大になっていた。
現実世界では、永眠ウイルスの感染が加速度的に拡大している。既に人口の半数以上が感染し、都市機能は麻痺状態だった。
感染していない人々は、恐怖と混乱の中でシェルターに避難していたが、それも時間の問題だった。
「見よ」Dream Dweller が手を振ると、現実世界の様子が神殿の壁に映し出された。
「現実世界は崩壊寸前だ。私の世界の方がはるかに美しいだろう」
確かに、混乱する現実世界に比べて、夢の世界は平和で美しかった。感染者たちは皆、幸せそうな表情で夢の中を歩いている。
「君たちも認めろ」Dream Dweller が二人に迫る。「私の世界こそが理想郷だと」
しかし、洸は首を振った。
「俺たちには失うものがある。それがお前との違いだ」
「失うもの?」Dream Dweller が困惑する。
「友情、家族、愛情」洸が説明する。「不完全だからこそ、価値があるものだ」
ミナも洸の隣に立った。
「私たちの愛は、あなたの永遠より価値がある」
4
Dream Dweller の表情が激変した。
「愚かな」Dream Dweller が立ち上がる。「お前たちごとき人間が私に勝てると思うのか?」
Dream Dweller の身体が巨大化し、神殿全体を揺るがすほどの威圧感を放った。
「私は全知全能の神だ」Dream Dweller が雷鳴のような声で叫ぶ。「人間などゴミ同然だ」
洸とミナに向かって、強大なエネルギー波が放たれた。
二人は必死に回避したが、Dream Dweller の攻撃は容赦なかった。
神殿の床が砕け、天井が崩れ落ちる。まさに神の怒りの体現だった。
「私に逆らう者は消滅させる」Dream Dweller が宣告する。
しかし、洸は恐怖を振り払って立ち上がった。
「お前は何も分かっていない」洸が叫ぶ。「本当の強さが何なのか」
「本当の強さ?」Dream Dweller が嘲笑う。
「愛する人を守る気持ちだ」洸が答える。「お前には理解できないだろうが」
洸の言葉に、ミナが勇気づけられた。
「そうよ」ミナが Dream Dweller を見つめる。「あなたは力は持っているけど、愛を知らない」
「愛など無意味だ」Dream Dweller が反論する。
「無意味じゃない」洸とミナが同時に言う。
二人は手を取り合った。その瞬間、不思議な力が湧き上がってきた。
愛の力。それは Dream Dweller の力とは全く異なる、温かくて優しい力だった。
5
「不可能だ」Dream Dweller が動揺する。「人間にそんな力があるはずがない」
しかし、洸とミナの愛の力は確実に強くなっていた。
それは現実世界にも影響を与え始めていた。感染者の中で、永眠状態から覚醒する人が現れ始めたのだ。
「なぜ目覚める?」Dream Dweller が混乱する。
覚醒した人々は、皆同じことを言っていた。
「愛する人の声が聞こえた」
家族への愛、友人への愛、恋人への愛。様々な愛の力が、Dream Dweller の支配を打ち破っていた。
「そんなはずは」Dream Dweller が否定しようとする。
「これが人間の力よ」ミナが言う。「あなたには理解できない」
洸とミナの周囲に、温かい光が生まれた。それは Dream Dweller の冷たい光とは正反対の、生命力に満ちた光だった。
「私は神だ」Dream Dweller が必死に叫ぶ。「人間などに負けるはずがない」
しかし、愛の力は確実に Dream Dweller を圧倒していた。
神のような力も、人間の愛の前では無力だった。
「これで終わりだ」洸が Dream Dweller に向かって手を伸ばす。
「待て」Dream Dweller が慌てる。「私を消せば、夢の世界も消える。感染者も死んでしまうぞ」
洸とミナは迷った。確かに、Dream Dweller を消せば、夢の世界で生きている人々も一緒に消えてしまうかもしれない。
6
「どうする?」ミナが洸に尋ねる。
洸は考えた。Dream Dweller を倒せば、世界は救われる。しかし、既に感染した人々の命が失われる可能性がある。
しかし、このまま Dream Dweller を放置すれば、全人類が夢の世界の奴隷になってしまう。
「信じよう」洸が決断する。「人間の力を」
「何を?」Dream Dweller が困惑する。
「愛の力があれば、きっと皆を救える」洸が確信を込めて言う。
洸とミナは手を取り合い、最後の力を振り絞った。
愛の光が Dream Dweller を包み込む。
「不可能だ...私は神なのに」Dream Dweller の声が次第に小さくなっていく。
光が Dream Dweller を浄化していく。彼の怒りと憎悪が、徐々に消えていく。
「これが...愛というものか」Dream Dweller が最後に呟いた。
そして、Dream Dweller は光となって消えていった。
神殿も崩壊し、夢の世界は静寂に包まれた。
しかし、不思議なことに、感染者たちは死ななかった。愛の力が、彼らを現実世界に帰還させたのだ。
現実世界で、人々が次々と目覚め始めた。
永眠ウイルスは消滅し、街に再び活気が戻ってきた。
洸とミナの愛が、世界を救ったのだった。
しかし、二人の運命は...
まだ決まっていなかった。
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