説得デート
「恋塚さんには、この淡いピンクのワンピースが似合うと思います!」
「いいえ、ここは水色のスカートと白のシャツですわよ!」
「恋塚さんならビビット系もいけると思いますわ!」
「趣向を変えて深い色も案外ありではなくて?」
あーだこーだ私のファッションについて議論を交わす五人を、遠い目で見つめる私。
(なんで『朝霧さまを守る会』の五人が私の部屋で私のコーディネート論争を繰り広げているんだろう……。今世紀最大の謎だ……)
西園寺さんに、「そこから動かないで!」と厳命された私は、あーでもないこーでもないと頭を悩ませる五人を、下着状態のままぼーっと眺めていた。
最終的に、胸元にピンクの小さなリボンがついたふんわりしたアイボリーブラウス、ラベンダーのひざ丈フレアスカート、ゆったりしたくすみピンクのカーディガン、赤茶のローファー、ペールピンクの小さめショルダーバッグという組み合わせに落ち着いた。
いつの間にかアキとザクロも加わって、私は物を言わない着せ替え人形となり果てた。
「ヒスイは素材がいいからね。コーデにも合うし、ナチュラルメイクにしよう」
「わー、西園寺さん、天才!三つ編みのカチューシャ、かわいいー!」
「ふふっ、ザクロさんはよくお分かりですこと」
「この二条が直々に髪を巻いて差し上げますわ!泣いて喜びなさい、恋塚さん!」
「ふわっとした感じで、あくまで自然なかわいさを演出できていますわね!まあ、京極財閥の娘であるわたくしが手を施してやったのです、及第点というところですの!」
「橘のスカート、かわいいでしょう?よく着こなせていますわ。わたくしほどではないけれど!」
「伊集院家は香水やボディミストなども手掛けているのです。どうです、このふわっとしたローズの香り!女の子らしさをアピールしつつ、きつくない……。素晴らしい塩梅ですわ!」
(いつまで続くんだろう、これ……)
わいわい言いながら好き勝手私を飾り立てるみんなを見て、若干の疲労感を覚えつつ、みんなが楽しそうだし、まあいいかと思い直した。
アキに「メイクするから目を閉じて」と指示され、無心になること十数分。
言われるがまま微動だにしなかった私は、西園寺さんに「もういいですわよ」と声を掛けられ、目を開けた。
「ふう……完成ですわ!」
「すごい!お姉ちゃん、めっちゃかわいいよ!」
「うんうん、これにはあの朝霧くんも驚くんじゃない?」
「わたくしたちが手伝ったんです、当然でしてよ!」
二条さんに手渡された鏡をのぞき込んだ私は、目を見開いた。
「これが、私……?」
上品なかわいさを持つコーデに身を包み、横髪を編んで作った三つ編みをカチューシャのようにして、胸くらいまである髪は緩く巻いておろしている。
メイクは最低限だけど、それがかえって自然なかわいいを演出していた。
感想を言ったりメイクの手伝いをしたり、そばでにこにこしていた余所行きモードのザクロが口角を上げる。
「自信持って、お姉ちゃん!今日のお姉ちゃんは最っ高にかわいいよ!」
「せっかく『朝霧さまを守る会』のわたくしたちが協力して差し上げたのです、失敗なんて許されませんことよ?」
「楽しんでおいでね、ヒスイ。行ってらっしゃい!」
ザクロ、『朝霧さまを守る会』のみんな、アキに見送られ、私は満面の笑みで応じた。
「……うん!行ってきます!」
空はどこまでも青く晴れ渡っていて、私は笑みをこぼした。
◇ ◇ ◇
(駅前に十時の約束だけど、今の時刻は九時半過ぎ……。家から駅まで徒歩五分だから、着くのは遅く見積もっても九時四十分かあ。ちょっと早すぎたかも……。スマホで適当に時間つぶそうっと)
歩きながら考える。動きにくいという理由でヒール靴は却下になり、代わりにローファーが選ばれた。ヒール靴って一度履いたことがあるけど、大人っぽいおしゃれさんに見えるかわりに、足が痛くなるから長時間履けないし、無理するとマメができちゃうからちょっと苦手なんだよね。その点ローファーは履き心地がいいし歩きやすいから好きだ。スニーカーなんかも好き。機能性って大事だよね。
「あ、朝霧くん!?まだ約束の時間まで二十分以上あるよ、早くない?」
駅に着くと、まさかの朝霧くんの姿が見えた。時間的にてっきりまだ来ていないと思っていたから、驚いて駆け寄る。
「……遅刻したら大変だし、早起きした。暇だったから、早めに来た」
「そうだったんだ!ごめんね、待った?」
「全然、大丈夫。……ちょっと早いけど、行こうか」
うなずいて、朝霧くんの隣を歩く。
(朝霧くんの私服、初めて見たけど……カッコいいー!さすがシオンくんにそっくりのビジュの良さ、何でも似合うなあ)
朝霧くんは、シンプルなライトグレーのロングTシャツにオリーブグリーンのジョガーパンツ、黒のワンポイントが入った白いローカットスニーカーにベージュのキャップを被っている。
自然な都会のおしゃれな男の子って感じで、ちょっとドキドキする、かも?
私は不自然にならないように、明るい笑顔を作った。
「あのさ、これからどこに行くの?」
「……映画館。嫌?」
「え、全然、うれしい!見たい映画とかあるの?」
「……恋塚さんがくれたおすすめの本のメモに書いてあった本が映画化するって聞いて、気になってる」
「あ、私もそれ、気になってたんだよねー!楽しみだなあ」
確かにこの道は、近くの映画館への道だなあと思いながら、笑顔で歩く。
色々な話をしながら歩いていた時、不意に朝霧くんが振り返って、口を開いた。
「……服、似合ってる。……かわいいよ」
「へっ!?あ、ありがとっ!妹と友達がやってくれたの。朝霧くんも、その……似合ってるよ。か、カッコいい」
お互い顔を赤に染めながら褒め合うと、なんだかむずがゆい空気が漂い始めた。甘酸っぱい雰囲気に耐えきれなくなった私は、「え、映画気になるなあ。早く行こう!」と朝霧くんを急かした。
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