作戦開始!
(今日は冷やし中華か。最近結構暑いし、ちょうどいいよね。何より作るの楽だし!うん、楽しみだなあ)
歯磨きを終えて席に戻りつつ、妹からのメッセージを眺めながらそんなことを考えた。
とっても元気なクラスメイトたちは全員校庭に出ていて(ハジメ先生とバレーかサッカーでもしているんだろう)、大人しい子たちは図書室に行っているため、教室は静まり返っている。
野次馬も落ち着いたみたいだ。なんか、転入初日にできたファンクラブの子たちが、「抜け駆けは禁止よ!朝霧さまを困らせないで!」って規制してるらしい。
私は、静かな教室の隅に位置する机で本を読んでいる朝霧くんに声をかけた。
「朝霧くん、何の本読んでるの?」
「……解剖学」
「へえ、すごいね!」
(ん?死神だから、人を殺すときに必要な知識……ってこと!?ひえー!)
相変わらず感情の読めない無表情の朝霧くん。
昼の太陽に照らされて、ツヤツヤの黒髪は神々しい輝きを帯びている。それなりに美容に気を使っている身としては、素直にうらやましい。
眠そうにとろんとした瞳には真剣な光が宿っていて、真面目に本の文面に目を落とす朝霧くんは、中学生と言われても違和感のない童顔と相まって、(男子高校生に向ける感想じゃないのは百も承知なんだけど)とてもかわいかった。
さすが推しのシオンくんにそっくりなだけある。国宝級の顔面は、もはや美の暴力だ。
「ねえ朝霧くん。本読んでるとこ悪いんだけど、ちょっと話さない?クラスメイトになったんだし、仲良くなりたいんだ」
「……ん」
嘘は言っていない、たぶん。私がにこっと笑いかけると、朝霧くんは本を閉じてこくりと控えめにうなずいた。
「私、恋塚ヒスイ!妹と甘い物が大好きで、趣味はアニメを見ること!勉強が得意で、運動は苦手かなあ。あ、歌を聴くことも好き!朝霧くんは?」
「……朝霧シオン。好きな物も、嫌いな物も、趣味も、特技も、苦手なこともない」
「あ、そ、そうなんだ……」
(ワア、なんか気まずいよー!何か話すこと、話すこと……!)
「えーっと、私、本を読むのも好きなんだよね!迷惑じゃなければ、色々オススメ教えるよ!ここの図書室で借りられるやつ!」
机の中をごそごそ探って、メモ帳を取り出す。そこに箇条書きで五冊ほどオススメの本のタイトルを書き出して、朝霧くんに手渡した。
「はい、これ。気になった本があったら借りて読んでみて!私の折り紙付きだよ!あ、字、汚いかな?読みにくかったらごめんね」
「……別に。ありがと」
普通にメモを受け取ってくれた朝霧くんにほっと胸をなでおろす。
朝霧くんはメモをていねいに折りたたみ、ポケットにしまった。
(……なんか、私の命を狙う死神だって警戒してたけど、全然普通の男の子だな。この分なら、すんなり私を殺すことを思い直してくれるんじゃ?)
考えていたより低そうな難易度に、私は内心で小躍りする。これなら、意外と簡単かも?
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響いた。
私は「廊下掃除行ってくるね!」と朝霧くんに笑いかけ、足早に教室を後にした。
◇ ◇ ◇
今日も併せて、朝霧くんと親密になるための時間は四日(金曜日はお出かけに誘う日なので除外)。超絶タイトなスケジュールだ。
美人なお姉さんから言い寄られることにも慣れていそうな朝霧くんを二人きりのお出かけに誘うなんて、無理なのでは……。
そう弱気になり、思わず深いため息が漏れた。
(たった一週間足らずでアイドルよりかっこかわいい男の子とデートみたいなものに行けるくらい仲良くなるなんてできっこないよお……)
何かいいアイデアないかなあ、と再度ため息をつくと、心配顔のアキに肩をたたかれた。
「ちょっとヒスイ、大丈夫?なんか今日、元気なくない?」
「うん……今、人生最大の危機に瀕してて」
暗い顔で机に突っ伏すと、アキに頭をよしよしと撫でられた。
「あ、もしかして、推しになんかあった?無理しちゃだめだよ」
「んー……」
(……そうだよね。このまま行動を起こさなかったら朝霧くんに殺されることはほぼ確定しているんだし。ダメだったらその時はその時。やらないで後悔するよりやって後悔しよう!)
私は体を起こし、力こぶを作った。
「よし、復活!もう大丈夫、ありがとうアキ」
「そう。それならよかった」
しょぼん状態から完全復活した私は、いつもより真剣に授業を受けた。
その日は、久しぶりにアキと寄り道して帰った。
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