scene.5

「マードレイ、マモル殿を部屋までお守りいたせ」

「はっ」

 ……一人になれるかな。それなら有り難いんだが。

 と思ったら、隣からがしゃんと金属音。

 騎士さんが立ち上がったらしく、上の方から声が聞こえてくる。

「……トウドウ様、お疲れのようでしたら私の手をお取りください」

 そう言われて、ありがたく差し出された手を借りることにした。

 体はあんまり疲れてなくても、精神的に疲れると相対的に体の動きも鈍くなるからな……。

 というわけで、俺はその手を借りて立ち上がる。

「……ありがとうございます」

 そう言いながら、俺は手の主を見た。

 ……改めて見なくても、イケメンだ。

 正直、彼をこうしてきちんと視界に納めたのは始めてだったので、ちょっとドキッとしてしまう。

 何故なら白い鎧も相まって、妙にきらきらしい容姿をしているからだ。

 歩いてるときの目測で俺より背が高いのは分かってたが、全身鎧を着込んでいても分かる、みっちり筋肉体型。

 顔はクール系で彫りの深いイケメン。一本縛りにして肩から流しているウェーブ金髪に碧眼。おまけに漂わせている青系と緑系の光が、まるで少女マンガのキラキラ演出のよう。

 日本人がイメージする西洋男性の美が詰まっているような人。これが、俺の抱いた第一印象だ。

 それに、この冷静そうな感じがちょっとだけ、俺がハイパー戦隊にハマったきっかけの作品のブルー、つまり最初の推し戦士に似てるな、って思ったのもある。

 でも勘違いするな。決して恋愛的に好きになったとかじゃあない。

 アレだよ、彫像とかに性的興奮を抱くか? ってことだよ。俺は違う。タイプの女の子と恋愛したいし結婚したい。

「……トウドウ様?」

 凝視しすぎたかな。騎士さんが訝しがってるっぽい。

 ……ここはちょっと誤魔化しておくか。

「……いや、不躾にじっと見てしまって申し訳ないです。よく鍛えておいでなのだろうな、と思いまして」

 そう言ってみると、オッサン共がヒソヒソ話し始めた。

 とは言っても、嘲るような感じじゃない。むしろ、感心している……ような感じだ。

(……ファン心理と研究心が過ぎて、戦隊やジョッキー作品を新旧問わず見過ぎたせいで、スーツ越しでも体型を推し量れる特技持ちになっちまってるからなぁ……)

 自分の目に内心苦笑していると、騎士さんが咳払いし始めた。

 ……ん? 騎士さん、ちょっと照れてる? なんで?

「……それは、褒め言葉として受け取っておきます」

 言い終わると、騎士さんはまた表情を戻した。

 まあ、ぶっちゃけ褒め言葉なのは違いない。遠慮無く受け取っておいてほしい。

 ……ついでに、俺の代わりに魔王とやらと戦ってくれると嬉しいんだけど。

「では、こちらへ」

「……はい」

 先導するように歩き始めた騎士さん。

 今度はおとなしく、騎士さんの後をついていくことにしよう。

 ……あの謁見の間にいた人の中では、多分唯一、信用出来そうだからだ。

「あ」

「どうされました?」

 玉座の間を出て、階段を降りてるときに、俺は声をあげてしまった。

 前を歩いている騎士さんと、道案内役のメイドさんが振り返る。

「いえ」

 俺は騎士さんと同じ段に立った。この階段は大人10人は余裕で並べるのだ。

「あなたの名前を伺っていないと思いまして」

 自己紹介することは、人間関係の第一歩だ。

 この人は王様直々に俺のお守りを命じられている。なら、これから付き合いが発生するだろうしな。

 すると、騎士さんが右手を自分の胸に当てた。

「失礼いたしました。我が名はアルディス・マードレイ、王国の第一騎士団団長を拝命しております」

「えっ」

 く、国の騎士団団長って、それは騎士の中ではとっても偉い人のことでは!?

「ちょ、止めてくださいマードレイさん! 人の上に立つ人が、俺みたいな一般市民に敬語なんて!」

「ですが、あなたは召喚に応じてくださった勇者、国王陛下に次ぐ貴人なのです。慣れていただきたい」

 い、いやいや貴人って……。俺はそんなガラじゃねえぞ。

「……マードレイ様」

 メイドさんが控えめに声をかけてきた。

 彼女にちらっと目を向けたマードレイさんは、胸に当てていた手を階段の下に向けた。

「トウドウ様、まずは部屋にご案内いたします」

 ……まあ、道の真ん中で長々と話をするのも迷惑だしな。

「……分かりました」

 俺は頷いて、再開した案内を受けることにした。

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