冷めていくことに彼女は気づかない
夕緋
冷めていくことに彼女は気づかない
彼女の希望で行列のできるラーメン店に来た。列には彼女と同世代くらいの女性が多く並んでいる。皆一様にスマホを操作し、まだ店に入ってもいないのに「次はここ行こうよ」と話している。
順番が来て店内を見渡すと皆同じものを頼んでいるようだった。俺が昔ながらの醤油ラーメンを頼むと「ここまで来たのに?」と彼女に言われた。彼女は店内のほとんど全員と同じものを頼むらしい。
彼女の目の前に置かれたラーメンは透き通ったスープに薄ピンクの麺が沈んでいるものだ。トッピングの卵もどうやっているのか黄身がハートの形になっている。俺が醤油ラーメンを啜っている横で彼女は写真を撮る。「冷めるぞ」と言っても、彼女は「んー」と気のない返事をしてSNSに夢中になっている。
彼女の視界はスマホに表示される数字でいっぱいで、俺のことも、目的のはずのラーメンすら見えていない。
俺は自分が存在する意味はあるのかと考える。冷めていくラーメンを可哀想に思う。そして、彼女が数字を集めて幸せから遠のいているように見えて、悲しくなった。
冷めていくことに彼女は気づかない 夕緋 @yuhi_333
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます