冷めていくことに彼女は気づかない

夕緋

冷めていくことに彼女は気づかない

 彼女の希望で行列のできるラーメン店に来た。列には彼女と同世代くらいの女性が多く並んでいる。皆一様にスマホを操作し、まだ店に入ってもいないのに「次はここ行こうよ」と話している。

 順番が来て店内を見渡すと皆同じものを頼んでいるようだった。俺が昔ながらの醤油ラーメンを頼むと「ここまで来たのに?」と彼女に言われた。彼女は店内のほとんど全員と同じものを頼むらしい。

 彼女の目の前に置かれたラーメンは透き通ったスープに薄ピンクの麺が沈んでいるものだ。トッピングの卵もどうやっているのか黄身がハートの形になっている。俺が醤油ラーメンを啜っている横で彼女は写真を撮る。「冷めるぞ」と言っても、彼女は「んー」と気のない返事をしてSNSに夢中になっている。

 彼女の視界はスマホに表示される数字でいっぱいで、俺のことも、目的のはずのラーメンすら見えていない。

 俺は自分が存在する意味はあるのかと考える。冷めていくラーメンを可哀想に思う。そして、彼女が数字を集めて幸せから遠のいているように見えて、悲しくなった。

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冷めていくことに彼女は気づかない 夕緋 @yuhi_333

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