機械撲滅・穏健派
雨笠 心音
AI撲滅・穏健派
ここはAIが人間の仕事の9割を奪った未来。
「鳩場さん、ほんとに組織に戻ってこないんでスカ?」
「しつこいな〜、たかちゃん」
鳩場と鷹原は深夜のコンビニにいた。彼女ら以外に客おろか店員すらもいない。
「ほれスコーン買ったげるから、帰った帰った」
「いやッス。納得いく説明、聞けるまで帰らないッスよ」
鳩場は困ったように笑い、生スコーンを2袋、かごに入れた。
「もらったって帰らないッスよ!」
「声、でかいよ〜。お姉さんの鼓膜壊さないで〜」
「⋯⋯すみません」
鷹原はシュンとして、肩をすくめた。
「あ〜、もうほれほれ元気出せ、生スコーンもう1袋つけたるから」
鷹原のショートの髪がふぁさと広がるくらい勢いよく彼女は首を振った。
「……生スコーン、嫌いだからイイっす」
「え。スコーン好きだって言ってたじゃん」
「生ってところが嫌いです」
「なんで?」
「だってこれ、ちゃんと焼いてあるんッスよ。なのに生ってところがなんかキモいんで」
「あぁ。……分からん」
2人はそんな他愛も無い会話をしながらレジへ。
これが2人の日常。
だが、冗談混じりの色を待っていた鷹原の甘えた声が、凍りつく。
「ココ、AI搭載のレジ、ッスよ」
「あぁ、うん」
「壊さないんスカ」
「うん」
返事と同時にレジの液晶画面が砕けた。それを鷹原の拳が破壊したのだ。
「どうして、ッスカ?」
「やめたんだ。AI壊すの」
「鳩場さんはもう鳩場さんじゃない」
「ん~~、かもね。でも――」
つんざくようなサイレンが鳴り響く。ガラガラと出入り口のシャッターが閉じ始めた。
「捕まっちゃうよ〜。さっ、逃げよ? たかちゃん」
「……」
「お~い。お姉さん、お縄に掛かりたくないよ〜」
「……はい」
「やったー」
言い終わらぬうち、鳩場はレジを両手で掴んだ。
「んっしょ!!」
ごっそりとレジをカウンターから捻りとり、もう半分以上締まりかけたシャッターの下に投げ込んだ。金属が軋む音と共に少しの間、下降が遅れる。
「行こ!」
鳩場は鷹原の手を取る。そして、シャッターと床の間に滑り込んだ。
◆ ◆ ◆
「はー、楽しかった! ね? たかちゃん?」
「まあ……はい」
「さ。家、あがって。ん〜、どしたの?」
「いや、楽しかったのはホントなんでスけど」
「うん」
「鳩場さんも楽しかったんスすね」
「うんうん」
「じゃあなんで、」
やめちゃったんでスか?
「あぁ、んとね。お姉さんもうちょいで死ぬのね?」
「は?」
「でさ、考えたんよ」
鳩場は窓の方にゆったりと歩き、そのまま生スコーンを千切って窓の外に投げた。
「私たちがどれだけAI搭載の機械を壊しても意味ないじゃん? だって、AIがどんどん私たちを貧しくしていくのは変わらない」
「そうとは……限らないスよ」
「いや、限るよ。第一次ラダイトだって終わっんだ」
だからね、と鳩場さんは続けた。
「自然に任せることにした」
夜に溶けてしまいそうな弱々しい笑顔を浮かべた彼女はゆっくり外を指さした。
そこでは朝焼けに照らされた生スコーンのカスを鳩がついばんでいた。
「これがホントの鳩派、なんつって」
なんだこの人。
私はニカッとした顔で泣いた。
機械撲滅・穏健派 雨笠 心音 @tyoudoiioyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます