最終話 笑顔

「う、うぅ……」


 時間を戻った後の気持ち悪さは、何度ループしても慣れない。


 こめかみを抑えていると、少しずつめまいが遠のいていく。


「ノビーがあんなに頑張ってくれたんだ――わたしも後一歩、頑張らないと」


 前回のループでは、初めて川越に行き、そこでノビーの師匠と出会った。

 これがきっかけで、ノビーのスキルは飛躍的に強くなったのだ。


「今回はショッピングモールで発見したオーブも集めないといけないけど……距離があるからオーブ集めの順番が大事だなぁ」


 わたした頭の中の地図で道順を考えながらダンジョンバギーに跨った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 想定していた全てのオーブを集めた後、ノビーの蘇生は無事成功した。

 今回は東京ではなく、最後にオーブを拾ったショッピングモール。

 その3階にあったカフェの広場のような場所で蘇生を行った。


 広場から少し離れたところでお気に入りの服と靴に着替えて、ノビーが起きるのを待つこと10分ほど。

 ノビーが目を覚ましたようだ。


 わたしは音を立てないように移動して、湖の中から誘導してきたブルースライムの下敷きになる。


 ノビーが動き始めた音を聞いて、わたしは悲鳴をあげる。


 すぐに駆けつけたノビーの手には絶対の矛が握られていて、ブルースライムを一撃で倒し切る。

 矛を振り払うような動きと同時に、実在していたはずの矛が光の粒子となって消えていった。

 ノビーは自分の手を見て、グーパーしながら不思議そうな顔をしていた。


 いつも通りだ。


 わたしはノビーに向かってお礼を言う。


「あ、あの……助けてくれて、ありがとう!」


「あぁ――ん? あれ?」


 え?

 何十回も聞いて、もう覚えてしまった第一声はそうじゃない。

 『お礼はいい。教えてくれ、ここは何処で、なんでこんな状況になってるんだ?』のはずだ。


 わたしが次の言葉を待っていると、ノビーが頭をかきながらこう言った。


「なんだか、変なこと聞くけど、どこかで、踊ったりしてなかったか?」


 前のループの記憶が少しだけ残っている!?

 

 鼓動が高鳴る。


「いや、でも、気のせいかな……? さっき目が覚めたばかりで、なんだかよく思い出せなくて……」


 何が影響したのかは分からないが、状況が少しずつ変わってきているのだ。


 わたしは嬉しさのあまり涙ぐみそうになって、後ろを向く。

 すると、足元に落ちていった什器に引っかかって尻もちをついてしまう。


「いててて……」


「大丈夫か? ここはモンスターもいたし、危なそうだからとりあえず外に出てみようか」


 そういってノビーはわたしに手を差し出した。


 いつも、わたしが手を差し出してループの旅が始まっていたのが、今回は逆だ。


 まるで、ノビーとわたしが出会った、あの日のようだった。


 わたしは、ゆっくりとノビーの手を取った。


「うん!!」


 わたしは心からの笑顔で答えた。


 いつもの旅ではない、新しい旅が始まった。


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記憶喪失の俺、どうも世界最強のダンジョン探索者だったらしいので、とりあえずラスボスを倒しに行く 逢正和 @tomo

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