第二話:本社炎上!嵐を呼ぶネクスト・チャレンジャー



小説「ネクストポジション! ~平山昇太の果てしなき野望~」


第二話:本社炎上!嵐を呼ぶネクスト・チャレンジャー


その頃、九州支社に飛ばされ…いや、応援に派遣された平山昇太は、早速「もつ鍋式顧客開拓術~煮詰めるほどに深まる信頼関係~」なる珍戦略を引っ提げ、慣れない博多弁を操りながら(主に「~とっと?」「~ばい!」を連発するだけだが)、暑苦しいほどの情熱で新規顧客の元を訪れていた。成果は…まあ、まだ出ていない。


一方、東京の株式会社ネクストステップ本社ビル。営業三課は、昇太という名のトルネードが去った後の、束の間の平穏を享受していた。

「…はぁ、平山君がいないと静かだけど、なんか物足りないような…いや、これでいいんだ、これが普通なんだ」

田中さんは、昇太の空席を見つめ、呟きとも溜息ともつかない息を漏らした。彼のデスクトップには、昇太が置いていった「ネクスト西日本攻略計画書」のコピーが、なぜか戒めのように置かれている。


そんな、ある意味で平和ボケしかけていたネクストステップ本社に、新たな嵐の予兆が近づいていた。

それは、隣のビル、株式会社アップステージ(社員のモチベーションアップ研修とかを主な事業としている、若干意識高い系の会社だ)からやってきた。


昼下がり、ネクストステップ本社一階の受付に、一人の男が現れた。歳は30歳前後。ビシッと決めた安物のスーツに、妙に気合の入った七三分け。手には「俺のネクスト・キャリアプランver.3.2」とデカデカ書かれたクリアファイルを持っている。


「株式会社ネクストステップの人事部、いや、経営企画室のトップにアポイントを取ってくれ!俺は嵐山(あらしやま)!ネクストステップに、ネクストレベルの風を吹かしに来た男だ!」

男──嵐山剛(あらしやま ごう)は、受付嬢にそう言い放った。その声のデカさと自信過剰な態度に、受付嬢は若干引き気味だ。


「あ、あの…アポイントはおありでしょうか?」

「アポ?ハッ!俺の存在自体が、ネクストステップにとってビッグなアポイントメントだろうが!いいか、俺はな、一階したのアップステージから、ネクストステップの階級上げを狙いに来たんだよ!」


嵐山の言葉に、受付嬢は首を傾げた。

(一階下のアップステージ…って、隣のビルよね?うちの会社の一階下って、駐車場だけど…?階級上げ…?)

彼女の頭の中は疑問符でいっぱいになったが、嵐山はお構いなしに続ける。


「俺の『嵐山式ネクスト・イノベーション理論』を聞けば、ネクストステップの株価はストップ高間違いなし!さあ、早くネクスト社長か、最低でもネクスト役員を呼んでこい!」

あまりの剣幕と珍妙な理論の名称に、受付嬢は困り果て、内線で人事部に助けを求めた。


結局、この珍客の対応に駆り出されたのは、営業三課の木村課長だった。先日の「ワールドネクストカップ」の件に加え、昇太の九州送り、そして今回の嵐山…木村課長の眉間の皺は深まる一方だ。


応接室に通された嵐山は、木村課長を前に、持参した「俺のネクスト・キャリアプランver.3.2」をバン!とテーブルに叩きつけた。

「木村課長、だったかな?まあ、いい。俺がネクストステップに入社したら、君は俺の部下だ。今のうちに顔を売っておくといい」

開口一番、この男はそう言い放った。


木村課長は、こめかみをピクピクさせながらも、冷静に対応しようと努めた。

「…嵐山さんとおっしゃいましたか。本日はどのようなご要件で?」


「決まってるだろう!ネクストステップに、俺という『ネクスト・エース』を獲得するチャンスをやりに来たんだ!俺の要求はシンプルだ。ネクスト事業開発部長、いや、ネクスト執行役員待遇!年俸は最低でも…」

嵐山は、およそ現実的とは言えない要求を滔々と語り始めた。その内容は、昇太の「ネクスト西日本掌握」とはまた別のベクトルで、ぶっ飛んでいた。


曰く、「俺の朝のルーティンを全社員に導入すれば生産性300%アップ!」(内容は毎朝滝に打たれることらしい)

曰く、「ネクストステップのロゴを、もっと上昇気流を感じるデザインに変えるべき!」(彼が描いてきたラフ画は、どう見ても怪しい新興宗教のシンボルだった)

曰く、「俺を中心とした『チーム嵐』を結成し、業界にネクスト旋風を巻き起こす!」(メンバーは彼が勝手に選ぶらしい)


木村課長は、小一時間ほど嵐山の「ネクスト」な妄言に付き合わされた後、丁重に(しかし断固として)お引き取り願った。

しかし、嵐山は諦めなかった。


「フン、ネクストステップもまだ俺の真価を理解できないか…ならば実力行使までだ!」

そう捨て台詞を残して去った嵐山は、その日の夕方、自身のSNSアカウントで「ネクストステップ社に俺のネクストプランを提示したが、旧体制の抵抗に遭う!だが諦めん!ネクスト・ジェネレーションは俺が創る! #ネクストステップ #嵐を呼ぶ男 #2階級制覇目前 」などと投稿。ご丁寧にネクストステップ社の公式アカウントまてタグ付けする始末。

案の定、この投稿は一部の好事家たちの間で面白がられ、ネクストステップ社には「あの面白い人、採用しないんですか?」「嵐山さんの滝行セミナー、参加したいです!」などという、ふざけた問い合わせが数件寄せられるという、小規模ながらも確実に「炎上」の様相を呈し始めたのだった。


この騒動は、当然、九州の昇太の耳にも届いた。田中さんが「平山君の比じゃないヤバいやつが現れたぞ…」という件名で、嵐山のSNS投稿のスクショ付きメールを送ってきたのだ。


メールを読んだ昇太は、博多の屋台で一人、豚骨ラーメンをすすりながら呟いた。

「…ふっ、まだまだだな、嵐山とやら。俺の『ネクスト西日本攻略計画』のスケールとロマンには遠く及ばん。それに、真のネクストは、もっとこう…地道な努力と、地元愛に根差した…そう、例えばこの豚骨ラーメンのように、じっくり煮込んだ深い味わいが…」

昇太は、なぜか嵐山に対して謎の上から目線で、勝手にライバル意識を燃やし始めた。そして、彼の脳内では「豚骨ラーメン式本社逆襲プラン」なる新たな構想が、モワモワと湯気を立てていた。


一方、ネクストステップ本社では、木村課長が胃薬を飲みながら、新たな頭痛の種に頭を抱えていた。

「平山君も大概だが、この嵐山君は…種類が違う面倒さだな…」

そして、彼の脳裏には、最近チラホラと噂で耳にする「ネクスト東日本」や「ネクスト中日本」といったキーワードが、不吉な予感と共に渦巻き始めていた。


ネクストステップ社を巡る「ネクスト」な野望の狂騒曲は、まだ始まったばかり。

嵐を呼ぶ男・嵐山剛の襲来は、これから巻き起こるであろう更なる大騒動の、ほんの序章に過ぎないのかもしれない。

そして、平山昇太のネクスト西日本への道も、まだまだ遠い。

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小説「ネクストポジション! ~ワールドネクストカップ狂騒曲~」 志乃原七海 @09093495732p

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