主人公・平山昇太（25歳）が「ネクスト西日本」を狙うという、さらにスケールの大きな（そして珍な）野望を抱く第一話本編を作成します。

小説「ネクストポジション！～平山昇太の果てしなき野望～」

第一話：平社員、ネクスト西日本を夢見る

株式会社ネクストステップ、本社ビル。その一室、営業三課の片隅で、平山昇太（25歳、独身、彼女なし、貯金ほぼなし）は、壮大な夢を見ていた。それは、同期が「ネクスト主任」の噂で一喜一憂し、先輩たちが「ネクスト課長」の椅子取りゲームに血道を上げる中、彼だけが遥か高みを見据えている夢だった。

「…ネクスト西日本…」

昇太は、モニターに映る日本地図の西日本エリアを、うっとりと眺めながら呟いた。彼のデスクトップには、なぜか西日本の名産品や観光地の写真フォルダがぎっしりと詰まっている。

「平山君、また地図見てニヤニヤしてる。仕事してる？」

隣の席の先輩、田中さん（35歳、ネクストマイホームローン返済に喘ぐ）が、呆れたように声をかけた。

「田中さん！聞いてくださいよ！俺、ネクスト西日本を掌握しようと思ってるんです！」

昇太は、目をキラキラさせながら振り返った。その顔は、まるで天下統一を目前にした戦国武将のよう…いや、どちらかと言えば、現実逃避中のダメ社員のそれに近い。

「は？ネクスト西日本？何それ、新しいゲーム？」

田中さんは、昇太の突拍子もない発言に眉をひそめた。株式会社ネクストステップに西日本支社はあるが、それを一介の平社員が「掌握」するとは、一体どういうことなのか。

昇太は、興奮気味に語り始めた。

「違うんですよ、ゲームじゃなくて、リアルな話です！うちの会社、西日本エリアの業績、最近ちょっと伸び悩んでるじゃないですか。そこに俺が乗り込んで、テコ入れして、西日本エリア全体を一大マーケットに成長させるんです！そしてゆくゆくは、ネクストステップ西日本支社長…いや、ネクストステップ・ウェスト・ジャパン・ホールディングスCEOですよ！」

そのあまりにも壮大すぎる野望に、田中さんはコーヒーを吹き出しそうになった。

「…平山君、君、まだ入社3年目のペーペーだよね？しかも、今の担当エリア、東京23区のほんの一部じゃなかったっけ？」

そうなのだ。平山昇太の現在の担当エリアは、都内でも特に地味な地区の、さらに細分化された一角。一日の平均訪問件数は3件、うち契約に繋がるのは月に1件あれば御の字という、まさに「ネクスト窓際」予備軍のような成績だった。

しかし、昇太の心は既に西へ飛んでいた。

「大丈夫です！俺には秘策があるんです！」

そう言って昇太が取り出したのは、手作りの分厚いファイルだった。表紙にはマジックで大きく「ネクスト西日本攻略計画書～浪速商人魂で天下を獲る！～」と書かれている。なぜか関西弁。

中をパラパラとめくると、そこには、

「たこ焼き型営業戦略～アツアツの情熱で顧客の心を掴む～」

「お好み焼き式チームビルディング～多様な個性を混ぜ合わせて最強の組織を～」

「なんでやねん！で課題解決～常識を疑うツッコミ精神～」

など、珍妙な見出しが並んでいた。全て、彼が週末に大阪や京都へ「現地調査」と称して旅行に行き、B級グルメを堪能しながら思いついた（というより、こじつけた）アイデアらしい。

「…平山君、君の情熱は買うけど、まずは目の前の仕事をだな…」

田中さんが諭そうとしたその時、営業三課の木村課長がフロアにやってきた。先日の「ワールドネクストカップ」の騒動を経て、若干やつれたようにも見えるが、その眼光は鋭い。

「平山君、ちょっといいかな」

木村課長に呼び出され、昇太は「いよいよ俺のネクスト西日本計画が認められる時が来たか！」と胸を高鳴らせた。

しかし、課長室で告げられたのは、予想とは全く異なる内容だった。

「平山君、君に来月から、九州支社へ応援に行ってもらいたい」

「きゅ、九州ですか！？」

昇太は目を丸くした。西日本ではあるが、彼が夢見ていた「ネクスト西日本攻略」の拠点とは、少々、いや、かなり毛色が違う。彼の計画書には、九州に関する記述は申し訳程度にしか存在しなかった。どちらかと言えば、彼の頭の中の西日本は、大阪・京都・神戸あたりで完結していたのだ。

木村課長は淡々と続ける。

「ああ。九州支社は現在、人手不足でね。君には、主に新規開拓と既存顧客のフォローアップをお願いしたい。期間は…まあ、当面の間だ」

「と、当面の間…それは、つまり…」

昇太の頭の中で、壮大な「ネクスト西日本攻略計画」がガラガラと音を立てて崩れ始めた。浪速商人魂はどこへやら。

「何か問題でも？」

木村課長が訝しげに昇太を見た。

「い、いえ！問題ありません！やらせてください！九州から、ネクスト西日本を…いや、ネクスト九州を盛り上げてみせます！」

昇太は、咄嗟にそう叫んでいた。彼の「ネクスト」の対象は、いとも簡単に縮小された。しかし、彼の目には、まだ諦めきれない野望の炎が微かに灯っていた。

（…そうか、まずは九州だ。九州を制するものは西日本を制す…とは言わないが、足掛かりにはなるはずだ！ネクスト九州支社長…いや、ネクスト九州エリア統括マネージャー…うん、悪くない！）

昇太の脳内では、既に新たな肩書と、九州名物（もつ鍋、明太子、馬刺し…）を組み合わせた斬新な営業戦略が構築され始めていた。

こうして、平山昇太の「ネクスト」を巡る珍道中は、思いがけない形で、しかし彼らしいポジティブさ（あるいは、ただの現実逃避）と共に、新たなステージへと突入したのだった。

彼が本当に「ネクスト九州」、そしてその先の「ネクスト西日本」を掴むことができるのか。それとも、ただの「ネクスト出張貧乏」に終わるのか。

それは、まだ誰も知らない。

ただ一つ言えるのは、彼が株式会社ネクストステップにおいて、最も「珍な野望を抱く平社員」であるということだけだ。

第一話考察：

主人公・平山昇太の「珍」性：

壮大すぎる目標設定：平社員でありながら、いきなり「ネクスト西日本掌握」という、常人では考えつかないスケールの目標を掲げる。

現実離れした計画：その計画内容は、B級グルメにこじつけたような、およそビジネスとは言い難いもの。

驚異的なポジティブさ（あるいは鈍感力）：九州への異動という、ある意味「左遷」とも取れる辞令を、新たなステップと瞬時に捉え直す思考の柔軟性（？）。

「ネクスト〇〇」への異常な執着：目標が状況によって「ネクスト西日本」から「ネクスト九州」へと容易に変化するあたり、具体的な目標よりも「ネクスト」という言葉自体に酔っている可能性も。

「ネクスト西日本」という野望の珍妙さ：

一企業の平社員が、特定の地域ブロック全体を「掌握」しようとすること自体が、まず現実的ではない。

その動機が、個人的な旅行体験やB級グルメに基づいている点が、ビジネスパーソンとしては異質。

「ネクスト西日本」という言葉の響きに酔いしれている節があり、具体的な戦略や実現可能性は二の次になっている。

周囲の反応：

先輩社員（田中さん）は、昇太の奇行に呆れつつも、どこか憎めないキャラクターとして彼を見守っている（あるいは、諦めている）。

上司（木村課長）は、昇太の奇行には気づいていないか、あるいは意図的に無視し、実務的な判断を下している。このギャップが、物語のコミカルさを生む。

今後の展開への布石：

九州への異動が、昇太の「ネクスト」への挑戦にどのような影響を与えるのか。

彼の珍妙な計画が、九州という新たな土地でどのように展開（あるいは迷走）するのか。

「ネクスト西日本」という壮大な夢は、いつか実現する日が来るのか、それとも永遠に夢物語で終わるのか。

平山昇太は、ある意味で「ネクスト」という言葉の魔力に取り憑かれた、現代のドン・キホーテと言えるかもしれない。彼の珍な野望が、株式会社ネクストステップにどんな波乱を巻き起こすのか、乞うご期待。

第一話、いかがでしたでしょうか？主人公・平山昇太のキャラクターと、彼の「ネクスト西日本」という壮大な（そして珍な）野望を描いてみました。を夢見る