洒落怖の最終章。
- ★★★ Excellent!!!
くねくねや八尺様はもはやIPで、きさらぎ駅は観光地の現代において、ネットロアが恐怖をもたらすことはもう、あり得ない……と、思っていました。これを、読むまでは。
ここにあるのは脈々と続いてきたネットロアの最新作であり……そして、おそらく、実話です。いえ、そんな、自称霊感ありの人を見るような目で見ないでください。ちゃんと説明します。
人が虚構を信じるには、なにかしらの真実性が必要です……と書くと仰々しいですが、単純に、嘘くさい話には人間、心を動かされません。いきなり宝くじが当たってすべて解決したり、脈絡なく空を飛べるようになる話はあまり、人の心を打たないでしょう。しかしこの問題を考えていくと、おかしなことに突き当たります。
体がゴムのように伸びる海賊や、コウモリをモチーフにした衣装で犯罪と戦う大金持ち、二本足で歩くネズミの国に、世界中が熱狂しているじゃないか、と。そう考えると上記の文言には、こういう付け足しが入ります。
人が虚構を信じるには、作中世界のルールに則った真実性が必要である。言い換えれば、嘘の中にも一定のルールがあれば、人はそれを信じる、となるでしょうか。
さて、ではこの作品はどうなのか、と考えた場合……まず……
そもそも、虚構である、と思うのが非常に、難しいんです。いや、不可能に近い。少なくとも、私にはそうでした。
だって……こんな風におかしな書き込み、投稿、絶対にどこかで、見た記憶があるんです。誰かに呪われてるという悩み相談、地元のおかしな場所、昔のおぼろげな記憶、こんな風な語り口で、こんな風に語る人たちを自分は絶対、知ってる気がするんです。いえ、オカルト板に出入りしてたり、怪談系のイベントに行ったりしたことなんてありません。それにどのお話もどのお話も、アレに似てる、とか、これが元ネタ、とか思えないほど新しく、新鮮です。けど、でも、絶対どっかで……私は……たしかに……
それはひとえに、作者さまの精緻極まる文体模写技術のなせる技なのですが……それだけでは、説明がつきません。なのでここで作者さまに問いたいのですが……あの……こういうことを、こういう風に聞くのは失礼かもしれませんが……
あの……人間…………です、よね………………?
違います違いますAIだとか言ってるんじゃないんですごめんなさいほんとごめんなさい、言葉を変えます。
あなたが、怪異じゃ……ないです…………よね……?
でも、だって、おかしいんです。おかしいんですよ。怖い話を作ってたら絶対、絶対に、怖くしたくなるんです。カクヨムのホラージャンルを読み漁ったり、自分でも創作怪談をやったりする方ならわかると思いますが、印象的なワードを盛り込みたくなるし、伏線を張りたくなるし、キャラクターを作りたくなるし、知識も混ぜたいし、切り口を一風変わったものにしたくなるんです。なによりも、多くの人に伝わるように分かりやすくしたくなる。だから、作中で指摘されていたような洒落怖のくっそサブイ要素が生まれる。もうこれは、人間が書いているお話である以上、しょうがないんです。それを元データとしているAIにだって、絶対に無理な芸当なんです。
このお話には、そういう要素がほとんどないんです。なのに、なのに、なによりも分かりやすいし、印象的だし、新しいし、幾人かの登場人物はきっと、生涯忘れられない。
ここにあるのは、絶対にあり得ない話なんです。呪いで人は死なないし、異界に行ってしまうスーパーもあるわけない。
なのにどう読んでも、絶対に、それを体験した人がいる。
それなのに何回読んでも、人間が書いているように思えない。
まるで怖い話を求めネット上をうろつくなにかの怪異が、なんの感情もなくただ、己のルールに従って収集しただけの話がぽつん、ぽつん、と道端に置かれているだけのような、そんなお話ばかり。なんの変わったところもない市井の人々が、日々の中で出会った恐怖が、ただむき出しのまま、ほったらかされている。
作為が、なさすぎる。
それはやはり、ひとえに、作者さまの卓絶した技術と精神性のなせるものなのでしょうが……不安が、本当に、拭いきれない。
ひょっとしたら本当に、作者なんていなくて、ネット上の怪異が、カクヨムにたどり着いただけなんじゃないのか……? だって、だって私は、絶対、こんな書き込みをどこかで読んだこと……いや、あるわけない……こんなお話、今までどこにもなかった、でも……これはたしかに誰かが……いや人間には……
怖い。
本当に、怖い。
ねえ、だから、あの……お願いです。
人間……ですよね…………?
あなたが怪異じゃ、ない、ですよね……?