第10話 今日の夜は長くなりそうだ
時計の針はすでに十一時を回っている。
明日の朝も早い事から、さっさと休もうと思った。そう決めて、リモコンを使って部屋の電気を消す。
真司はベッドにドサリと倒れ込むと、シーツのひんやりした感触に身を委ねる。真っ暗な部屋に、スマホの画面だけがぼんやりと光っていた。
真司はSNSのアプリを起動すると画面をスクロールしたり、動画をチラ見したりと、なんとなく時間を潰していたのだ。
休もうと思っても、ついついスマホ画面を見てしまう。
少し瞼が重くなり始めた頃合い、そろそろ寝ようかとスマホをベッドのシーツの上に置いた、その瞬間だった。
パタン……ゴソゴソ――
……ん……?
妙な音が耳に飛び込んできた。次の瞬間、ベッドの布団が微妙に動いた。
真司は一瞬、凍りついた。
刹那、心臓がドクンと高鳴る。
まさか……幽霊とか?
そんなはずはと自分を落ち着けようとしたが、布団の違和感は消えない。布団の中には誰かがいる。
怖かったが、心臓を震わせて恐る恐る布団をめくると、暗闇の中でキラリと光る目と合う。
「わ、若菜⁉ な、なんで俺の布団にッ‼」
真司は驚き、ベッドの上で尻餅をついた状態になって、体を震わせながら大きな声を出していた。
「えー、だって。今日は一緒に過ごしたかったの」
そこにはニコニコと無邪気な笑顔を浮かべる妹――
真司は、その正体がわかった瞬間から胸を撫でおろすが、頭を抱えた。
「はあぁ……急に部屋に入ってくるとビックリするだろ」
「ごめんね、真司。でも、今日は一緒に休んでもいいでしょ?」
若菜はベッドで正座をしており、小首を傾げて子猫のような上目遣いで訴えてくるのだ。真司も妹と向き合うように正座し、言葉に詰まりつつも、内心可愛いなと一瞬思っていた。
「で、でも、一人で休んだ方がいいんじゃないか」
真司は念の為に、そう言った。
妹と同じベッドで一夜を過ごした日には、色々な意味で緊張してちゃんと休めないと思ったからだ。
「えー、いいじゃん、別に! 真司は冷たいなぁ」
若菜はふくれっ面で抗議しつつ、ベッドの上で子猫のような仕草を見せる。その無防備な姿に、真司は頬を紅潮させながらも、思わずため息をついた。
「はぁ……まあ、いいよ。今日だけはな」
「やった! 真司ってやっぱり優しいね」
若菜はパッと顔を輝かせ、勝利宣言でもするかのように満面の笑みを浮かべていた。
真司は苦笑しつつ、ベッドの端へ移動して腰を下ろした。
すると、若菜の方も真司の隣にやって来て座る。
妹のシャンプーの香りがふんわりと漂ってきて妙にドキドキしてしまう。
「お兄ちゃん、今週末ってなんか予定ある?」
突然の質問に、真司は若菜の方を見た。
「今週末か?」
「うん。だって、せっかく付き合い始めたんだから、どこか行きたいなって!」
若菜の瞳が暗闇の中でキラキラと輝いている。
真司は少し考え込み、顎に手をやった。
しかし、どこに行くかとなると、急に迷う。
「えっと……じゃあさ、隣街とかどう?」
「隣街? いいね! 真司的に面白い場所があるとか?」
「んー、そうだな、例えば映画館とか……いや、待てよ」
真司はふと思い出した。今日、ファミレスでクラスメイトの
「映画館は、ちょっとやめとこうか」
「問題があるなら、映画館じゃなくてもいいよ」
若菜はあっさりとした口調で言い、ニコッと笑う。その屈託のない笑顔に、真司はホッと胸を撫でおろす。
「じゃあ、隣街のショッピングモールとかでブラブラするか。なんか面白い店とかが見つかるかもしれないし。多分、基本はウインドウショッピング的な感じになると思うけどね」
「うん、それでもいいよ! 真司と一緒なら。でも、当日はちゃんと私をエスコートしてよね」
「わかったよ」
真司は簡易的に返答すると、瞼を擦る。
「真司、もう休む?」
「そうだな」
二人は横に並んでベッドに横になった。
真司の右隣では若菜が楽しそうに鼻歌を歌っている。
今日は特別な日だと思った。
高校生になって、若菜と一緒に休む事になるとは思わず、緊張を体で感じながらも真司は瞼を閉じる。
すると、隣にいた妹が優しく手を握ってきたのだ。
真司は、それには気づいていたが、余計な事は言わずに妹の行為を受け入れるのだった。
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