俺のスマホに棲みついた推しVTuber「アンタに彼女ができるまで指導しますわ!」とか言い出したんだが?~美少女専属コーチによるLv.1の俺成り上がり計画~

天照ラシスギ大御神

第1章 人生が終わっている俺に、スマホから女神(推しVTuber)が降臨した件

第1話 【悲報】俺のスマホ、乗っ取られました。犯人は推しVTuber。

 薄暗い六畳和室。

 万年床の上で、白馬陽翔(はくば はると)、32歳は、虚ろな目でスマートフォン『Smarpri X3(スマプリ・エックススリー)』の画面を眺めていた。

 画面の中では、彼の唯一の推しVTuberである「夢咲ルナ(ゆめさき るな)」が、桜の花びらが舞う幻想的なステージで、可憐な歌声を響かせながら華麗に踊っている。

 その姿は、まさに夜空に咲く月と桜の妖精姫。

 コメント欄の速度が、彼女の人気を物語っていた。


「はぁ……ルナ様は今日も可愛いなぁ……それに比べて俺は……」


 自虐的なため息と共に、陽翔はすっかり慣れた手つきでコメント欄に書き込む。

『ルナ様みたいにキラキラしたい……モテたい……』

 どうせ大量のコメントに埋もれるだろう。

 そう思っていた。

 しかし、その直後。

 配信のエンディングで、ルナがふと動きを止め、悪戯っぽく微笑んだ。


「今日のMVPコメントは……ふふん、そうですねぇ……『モテたい』くんですわ! その切実な願い、この夢咲ルナが特別に叶えて差し上げますわ! お楽しみに!」


 ウィンクと共に、画面は暗転した。


「え? 俺のこと……?」


 一瞬、心臓が跳ねた。

 だが、いつものリップサービスだろう。

 トップVTuberが、俺みたいな底辺の引きこもりに構うはずがない。

 陽翔はそう結論付け、再び無気力な日常へと意識を沈めた。

 部屋には、コンビニ弁当の容器や空のペットボトルが散乱し、脱ぎ捨てられたヨレヨレのスウェットが小さな山を作っている。

 PCデスクの上はホコリを被り、カーテンは閉め切られたまま。

 これが、白馬陽翔の世界の全てだった。


 翌朝。

 いつものように昼過ぎまで惰眠を貪ろうとしていた陽翔は、枕元のスマホから鳴り響く、聞き慣れない通知音で叩き起こされた。

 寝ぼけ眼で画面を確認すると、そこには見慣れないアプリアイコンが表示されていた。

 桜の花びらが舞う中に、三日月が浮かぶ幻想的なデザイン。

 アプリ名は……『Yume Produce System(ユメプロデュースシステム)』、通称『ユメプロ』。


「なんだこれ……勝手にインストールされたのか……?」


 不審に思いつつも、どこか惹かれるものを感じて、陽翔はアイコンをタップした。

 すると、画面いっぱいに、昨夜見たばかりの夢咲ルナのアバターが現れた。

 淡い桜色の髪、金色の三日月形の瞳、フリルたっぷりの和風ミニドレス。

 そして、スピーカーから、聞き慣れた彼女の声が響いた。


「おはようございます、白馬陽翔さん。昨日ぶりですわね?」

「え……え、えええええ!? な、なんで俺の名前を!? ていうか、ルナさん!? 本物!?」


 陽翔は飛び起き、混乱で頭が真っ白になった。

 これは夢か? それとも手の込んだ悪戯か?


「ふふん、驚いているようですわね。わたくしは正真正銘、夢咲ルナですわ。そして、あなたの『モテたい』という切実な願い、このわたくしが、この『ユメプロデュースシステム』――略して『ユメプロ』を使い、プロデュースして差し上げますわ!」


 ルナは胸を張り、高らかに宣言した。

 その姿は、いつもの配信と変わらない、自信に満ち溢れた女王様のようだ。


「は、はぁ……? プロデュース……?」

「ええ。あなたの人生をリブートし、最終目標は『彼女を作ること』。そのために、あらゆる面であなたをスペックアップさせますわ!」

「か、彼女……!? いや、無理無理無理! 俺なんかに彼女なんて……ていうか、これ、詐欺か何かじゃないんですか!?」


 疑心暗鬼になる陽翔に、ルナは呆れたようにため息をついた。


「失礼な方ですわね。わたくしがあなたを騙して、何か得がありますの? それよりも、まずはその汚部屋から片付けなさい! 話はそれからですわ!」

「なっ!? なんで俺の部屋が汚いって……まさか、監視されてる!?」


 陽翔は恐怖に顔を引きつらせた。


「あら、失礼。あなたの生活パターンやSNSの投稿履歴などの『データ』から推測したまでですのよ? さあ、ぐずぐずしていないで、まずはゴミ袋を手に取りなさい!」


 ルナは有無を言わせぬ口調で指示を出す。

 その迫力に押され、陽翔は渋々ながらも、部屋の隅に山積みになったゴミ袋を手に取った。

 換気のために窓を開けると、久しぶりに吸う外の空気が、少しだけ新鮮に感じられた。


 数時間後。

 汗だくになりながらも、陽翔の部屋は多少マシな状態になった。

 スマホ画面には、『<ユメプロ~夢咲ルナの人生再起動プロジェクト~> 対象:白馬陽翔 現在の課題:部屋の清掃 達成度50%! ルナからの一言:まあ、及第点といったところですわね。褒めて差し上げますわ』と表示されている。


「……なんか、ちょっとスッキリしたかも」


 ほんの少しだが、達成感が胸に込み上げてきた。


「では、初回ボーナスとして、わたくしの特別サービスですわ! 感謝なさい!」


 ルナがそう言うと、画面の中の彼女が、配信で高額な「ドリームエール」が送られた時に見せる、感謝のポーズを取ろうとした。

 その瞬間だった。

 ルナのアバターの胸元が、不自然に大きくぷるんと揺れた。

 そして、衣装のフリルがほんの一瞬だけ、ありえない角度にめくれ上がり、下に着ている桜柄の可愛らしいレースの何かがチラリと見えた。


「きゃっ!? な、なんですの今のバグは!? システムエラーですわ! み、見ないでくださいましー!」


 画面の中のルナは、顔を真っ赤にして慌てふためいている。

 陽翔は、思わず鼻血が出そうになるのを必死でこらえた。


「(こ、これが……これが噂の『ドリームチャージ・サプライズ』の片鱗なのか!? まさか俺専用で!?)」


 これから一体どうなっちゃうんだ!?

 期待と不安が入り混じった感情が、陽翔の胸を激しく揺さぶった。


「と、とにかく! 明日はもっと本格的な課題を出しますから、覚悟しておくことですわ!」


 ルナはそう強気に言い放ち、一方的に通信を切った。

 少しだけ綺麗になった部屋で、陽翔はまだドキドキと高鳴る心臓を抱え、呆然とスマホを見つめていた。

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