第18話 オッサンが異世界から帰ってきたらチートスキルが身についた件
ついに『私』は壊れてしまった。
無理をして限界まで動き続けた当然の結果だ。
よく頑張ったよ。この最低の『異世界』で諦めることなく生き続けたんだ。
結局、『現実世界』の『普通の人』にはなれなかった。
俺が私がたどり着いたところは『普通よりちょっと下の人』だった。
デバフを受けている状態で、必死にステータスを上げてこの結果だ。
世の中は不公平だ。やはり間違っている。
『普通の人』達は目的を持って幸せそうに生きている。生きがいを持っている。
だが、俺には私には向上心がなく、生きがいもなく、目的もなく、希望も無い。
兎にも角にも『時間』が無い。時間さえあれば・・・・。
楽しみといえばゲームとネットしか無かった。それだけしかなかった。
それだけの人生だった。
「睡眠」という誰でも出来るあたり前のことができなくなった。
寝るという概念がなくなってしまった。眠り方を忘れてしまった。
概念がないのだ。『自己催眠』では命令できない。
どうやら俺は私は『異世界』で死んでしまったようだ。なさけない。
まあ、世の中の役に立てたんだ。こんな出来損ないのポンコツでも。
「神に祈りは届かない。悪魔だって手を貸さない」
「自分でやるしか無いんだ」
「大丈夫、なんとかなるよ。なんとかするから。なんとかしてみせる!」
これが『自己催眠』の正体だ。
切望しか無い『異世界』で戦うための俺が私が唱え続けた『強化魔法』。
やってできないことはないんだ。嫌でもやるしか無いのなら。
病院に行き、睡眠薬を処方してもらった。
これを飲めば『睡眠』のスイッチをONに出来る。
恐らく一生飲み続けることになるだろう。まあ、どうでもいい。
全てを忘れていつも通り夢を見よう。夢の中なら自由になれる。
この理不尽な『異世界』から『現実世界』に戻れる。
時間の流れが違う俺に私にとっては『夢の世界』が『現実世界』なんだ。
夢の中なら誰でも『主人公』になれるだろ?
俺は私は主人公だ。世界の中心になれる。死んでしまっても生きている。
悪夢じゃなければご都合主義が通用する、可能性に満ち溢れた『異世界』だ。
睡眠薬を使い続け数ヶ月、ある日を境に体の調子が・・・・
『ポンコツロボット』の『私』の性能が上がり始めた。『俺』の命令以上に動いてしまう。『俺』とのタイミングが合わない。足がもつれる。
『俺』の調子も悪くなった。気分が悪い。グラグラと揺れるような、浮いているような感覚がある。それに・・・・
あれだけ楽しかったゲームもネットも心に響かなくなった。つまらないのだ。
人生最大の楽しみを失ってしまった。
俺は私はこれから何を楽しみに生きればいいんだ?
新しい趣味でも探せばいいのか?
今更?ゲームとネットしかしてこなかったオッサンだぞ?
薬で眠っているせいもあるのか、夢を見なくなった。
『現実世界』から逃げる方法も無くなった。俺は私は『主人公』ではなくなった。
そして、ある日の朝、『障害の異世界』が、崩壊した。
デバフから開放されたのだ。
時間の流れが遅くなった。『異世界』の半分の時間で流れていた。
集中力が倍加。周囲が遅く感じる。
筋力増加。筋力が正常に動き始めた。ものすごい力が出る。体力も倍になってる。
記憶領域拡大。物忘れがなくなったし記憶を削除する必要がなくなった。
情報処理能力も上がった。思考速度が早くなった。
俺は私は『異世界』での最終ステータスは『普通よりちょっと下の人』だ。
なら、デバフが解除された今の状態は・・・・
これが『現実世界』?
面白いじゃないか『現実世界』は。
やっと『普通』がわかった。あなた達はこの世界に生きていたのか。
この世は不思議に満ちている。こんな奇跡があってもいいじゃないか!
大空に声を大にして叫びたい。声がかすれるくらい、気を失うくらい!
「帰ってきた!!帰ってきたんだ『現実世界』に!!!」
さあ、何をしよう!やってみたいことがたくさん出来たぞ!
実行者の『私』は運動ができる、鍛錬ができる。
脚本家の『俺』は学習ができる、物語も書ける!
時間はあるんだ。ああ、たくさんあるんだ。余裕が、余裕がある。
これが『現実世界』か!
何でも出来る。この『自己催眠』があれば!
『神に祈りは届かない。悪魔だって手を貸さない』
『自分でやるしか無いんだ』
『大丈夫、なんとかなるよ。なんとかするから。なんとかしてみせる!』
『異世界』で使い続けた『魔法』。これが解けない限り能力は続くはずだ!
これは『チートスキル』だ!
俺が私が決めた!夢が現実になったんだ!
俺は私はこの力で人生をやり直す!
これから笑いながら新しい人生を送る!
この素晴らしい『現実世界』で!!
話をしたい。もっと『普通の人』と話したい。
そして笑いたい。『普通でしょ?』と。
俺は私はずっと上を見上げてた。どん底で、指をくわえながら。
最低の『異世界』から『現実世界』の『普通の人』に憧れてた。
せめて横に立とうと進み続けた。
倒れても、這ってでも、前へ、前へ、ひたすらに前へ。
やる気が出なくても立ち止まりたくなかった。じっとしていられなったから。
ズルをしてでも気が狂っても世の中の役に立ちたかったから。
努力が報われてこうなったのかもしれない。電源スイッチを切らなくてよかった。
『異世界』の記憶を持ったまま、『現実世界』でコンティニューだ。
俺の私の心は決して折れない。あの『異世界』にはもう行きたくない。
あそこは、この世の地獄だ・・・・
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