01レ トワイライト・リミテッド
「2年1組、下山和知君、2年1組、下山和知君、宮前先生がお呼びです。至急職員室まで来てください。繰り返します。2年1組下山君。至急職員室まで来てください」
大津市安土区八幡上田町。どこにでもある公立中学校に、当たり前のように響く校内放送。それが、自分のその後の人生を大きく変えるきっかけになるとは思いもよらなかった。
午後の校舎を足速に職員室へ向かう。
俺は下山和知(しもやま・かずとも)。典型的な陰キャ。そして学校では隠しているが、鉄道オタク、それも撮り鉄だ。
小6ですでにその正体を知っている「サンタさん」とやらに一眼レフカメラを“買って”もらって以来、地元の嵯峨野線や嵐電、湖西線、石山坂本線を中心に、ずいぶんいろんな路線で鉄道写真を撮ってきた。専門は最もオーソドックスで、そして奥が深い・・・と思う編成写真。沿線でカメラを構え、列車の先頭から最後尾までを確実に構図に入れて撮る。単純なように見えて個性を出しづらいため、もろに撮影技術のみが評価対象になるシビアな世界だ。休みの日は友人もつくらず、とにかく撮影一筋で、俗に「お立ち台」と呼ばれる沿線の開けた撮影地か、そこへ行くための交通費稼ぎのアルバイトに全力投球してきた。早い奴になれば彼女の一人ぐらいいてもおかしくない年頃だが、俺には興味はないし、鉄オタと聞いた瞬間に同世代の女の子がどういう反応をするかなんてある程度想像がつく。学校で鉄オタカミングアウトしていない理由もそれだ。それに、変に色恋沙汰に首を突っ込んだら、撮り鉄の邪魔にしかならない。
が、リア充にも陰キャにも平等に訪れるものがある。受験。そして進路。
今の超・就職難の時代に中卒で学歴を終える人間は、よほど稼げる家業があるか、あるいは相当なコネがある人間でもない限り自殺行為とも言える冒険であった。とはいえ、人生安泰が約束されるような高校へ進学するには相当な学力か親の経済力、もしくはその両方が要求されるのも事実であった。俺はどちらも欠いているとは言い難いが、いずれもずば抜けて高いわけでもない。そして、受験に向けて勉学一筋に頑張るのも何やら性に合わない気がした。とにかく、月に2~3回はカメラをいじらないと気が済まない。
「あ、宮前先生おらはりますか?」
職員室の扉をガラガラと開けて、呼び主を訪ねた。
「おう、下山。早よ来てくれておおきにな。まあええ。進路の話や。こっち来て座れや」
数学教師の宮前坊太郎(みやまえ・ぼうたろう)が缶コーヒーを片手に、チョークの粉のついた汚い白衣を身に纏ったままそう答えた。
「単刀直入に言うけど、あれや。進学希望言うんは聞いとるけどなあ、まだ志望校一校も決まってへんやんか。どないすんねん。そろそろ決めんと受験対策できひんで」
「・・・あ、すんません。まだ決まってないです」
「あかんあかん。特に推薦狙うんやったらそろそろ書類出さな間に合わへんで」
「推薦は考えてないですね。運動部ちゃいますし、取り立てて成績優秀言うわけでも・・・」
「それやったら受験勉強せなあかんなぁ。ある程度志望校決めて、過去問の傾向掴んで対策せんと合格できひんで」
「・・・」
「やろ?あと1週間が期限や。それまでに最低一校は決めとき」
「い・・・1週間!?」
「ワレ以外みんな決まっとんねん。第一志望決まらへんだら滑り止めも決められへんやろ」
んな無茶な。
「下山ぁ。どんな高校行きたいとか、どんな高校生活送りたいとか、どういう部活入りたいとか・・・そういうイメージあるん?言うてくれたら条件合うとこ、知ってる範囲で探せるかもしれへんで?」
「イメージ・・・ですか?」
「せや」
「・・・」
「下山〜、ほなちょっと質問変えよか。将来どういう職業に就きたいとか、そんなんでもええで。そしたら行く大学ある程度絞られるやろ?行く大学絞られたら、その辺狙える高校もある程度決まるやろ?」
「将来の夢・・・ですか?・・・特にないですね。特にお金持ちになりたいとか思わないんで・・・低コストで低リスク、普通に、それなりに自由時間あって、安定した人生を送れたら、特にどんな職業でもええんで」
「・・・それ、今の時代結構難しいこと言うてんねんで?」
宮前先生は小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言わはった。
「一番その希望に合う仕事いうたら公務員やろな。公務員。まあコミュ力やらそういうのはあんまり要求されへんから、性には合うとるんちゃうか思うけど」
「公務員・・・ですか。じゃあ、もうそれでいいです」
「せやけどな。高卒で狙うんやったら行ってからかなり勉強せなあかんで。少なくとも日東駒専レベルに普通入試で合格できるぐらいの対策せな、今時の公務員試験は合格できひん。大卒で狙うんやったら専門枠ある学部行った方がええやろな。教員免許取ったら教職は狙えるで。俺みたいに。あとは理系進学して技術職狙うか・・・文系からの一般事務職は大卒でも競争率高いさかい厳しいで。むしろ試験難易度多少低い高卒枠の方がまだワンチャンあるわ」
「・・・アルバイト、無理な感じですか?」
「アルバイト?そういやワレバイトしとったんやな。バイト、どうしてもせなあかんの?」
「あ、はい・・・趣味にそれなりにお金かかるんですわ」
「趣味?ワレ帰宅部やろ?なんの趣味やっとるん?」
「・・・写真・・・ですね」
「何撮るん?」
「・・・電車・・・とか汽車・・・」
俺が学校では初めてとなる鉄オタカミングアウトをした瞬間だった。
「鉄ちゃんか。ワレ、鉄ちゃんやったんか?」
「あ・・・はい・・・まあ・・・」
「せやったんか・・・聞いたことなかったわ」
「“うわオタクきっしょ”とか言われそうやさかい言うてへんだんですわ・・・」
「ええ趣味やと思うけどな。俺は」
「でも世間一般じゃオタク自体の印象悪いですから・・・とりわけ鉄道は・・・大和路線の一件なんかもありましたさかい、最近マナー関連で色々問題視されてますし・・・」
「あれやろ。鉄ちゃんってこういう、ほれ、どでーんみたいな感じのカメラ使うんやろ?」
「どでーんって形容する人は初めて見ましたけど、そうですね。正式には一眼レフ言うんですが」
「それで、休みの日には写真撮りにあれやろ、結構遠く行くんやろ?橋立の方とか」
「そこまでは行ったことないですけど・・・まだ。でもそのうち北海道とか、九州とか・・・」
「そうかそうか。あれや。電車好きなんやったらこことかどうや?高校やなくて、高専やけど」
先生は「八洲高専」と書かれたパンフレットを差し出した。
・・・
「鉄道員を目指す受験生、集まれ」
「5年間の現場実習で卒業後即、活躍できます」
「運輸、保線、車両、販売、コンテンツツーリズム・・・鉄道に関する業務ならなんでも体験」
・・・
「神奈川や。ちょっと遠いけど、寮もあるし、実習はほれ、奈良の御所から新宮行くやつ・・・何線言うんやったっけ・・・なんかでもやってるみたいやし」
「・・・」
五新鉄道な。
「鉄道関係の部活充実しとるで?部費で、合宿で、自分のカネ使わんと全国撮影行けるで?自分でええカメラ買わんでも部のカメラ借りれんねんで?」
「・・・」
「それにあれや。ここやとそれなりに鉄道に関心あるもんしか集まらへんさかい、さっき自分言うとった鉄ちゃんへの偏見みたいなん?・・・あらへんで。学校で堂々と趣味の話できるで」
確かにそれは魅力かもしれない。
「おんなじ鉄ちゃんの友達、ようけできるかもしれへんで?鉄子の彼女とかできるかもしれへんで?」
「・・・」
「あと、バイトも全生徒義務やで?系列の鉄道会社やら、電鉄系の出資する小売店やら指定やけど。一定時間バイトせえへんだら必須科目の単位でえへんで?」
「いや、でもここ、ガチで鉄道員目指す人の行く学校ですよね?」
「でもワレ鉄ちゃんやろ?鉄ちゃんやったら鉄道員目指さへんの?」
「いや・・・ぶっちゃけそっち方面は・・・あくまで趣味の対象っていうか・・・それに現場は最近相当長時間労働でワークライフバランスが・・・そうなると、将来的に趣味と仕事の両立が困難やと思うんで・・・」
俺は全力で拒絶した。
「そうとも限らんで。それ、私鉄やJRの話や。市営地下鉄なんかの公営やら三セクの大半やらやったら、赤字税金で補填されてるさかい勤務は警察官や消防なんかの現行公務員とほとんど一緒やで?みなし公務員やさかい出世しても給料伸びひんから金持ちにはなれへんけど、生活は安定してるしワークライフバランスもそれなりに整っとる言うわ。下手に公務員試験受けるよりも現業で実績積んでほとんどエスカレーターでみなし公務員や。結構な話やんけ」
「それ、ほんまですか?」
「ほんまほんま。実は義理の弟が神戸の市営で夜間の保線やっとるんやけど、同業他社とは雲泥の差やって言うてるで。むしろ夜勤ばっかりやさかい、給料も公務員よりええぐらいやし」
「・・・でも、それやったら競争率高いんちゃいます?鉄道員志望の求職者が挙って公営に・・・」
「そりゃせや」
「それにはそれなりの努力っていうか・・・」
「せやさかいこの学校行け言うてんねん。ここやったらよほど悲惨な成績叩き出したり、暴力沙汰やら警察の厄介になる非行やら、そういうよっぽどのことせえへんだら、ほとんど希望のとこ内定できるんや。実務経験あるさかいな。他とおんなじ就活ベースには乗らへんねん」
「・・・でも、鉄道員以外の道は閉ざされますよね?」
「そうでもないで。メインの運輸科や保線科はそうかもしれへんけど、測量科とか、販売課とか、経理科とか、ゆるキャラ云々みたいなことやる企画課とか・・・バスやトラックの運ちゃん養成する自動車科なんてのもあるし・・・土木科やら建築科やら機械工学科やら危機管理学科なんかやとそのまま大学に三年次編入して、そのまま大学院行ってとかいう方が主流みたいやで。むしろそういう科は鉄道現場に残る方が少数や」
「・・・」
「ワレ幾何得意やろ。測量科なんかどないなん?」
「・・・そんな・・・今すぐ決められませんわ」
「あれやで。運輸と自動車、あと販売やら企画やら経理やらは全員最初運輸科から始まるんやで。で、3年次始まるまでに最終的な進路決めんねや。あと保線やら測量やら土木やら機械工学やら危機管理やらは最初は一括して基礎工学科で受験して、入学するんや。やからそこまでは今決めんでもええ」
「・・・」
「それにあれやで。運輸科以外でも選択科目で運輸系選んだら、実際に車掌業務体験したり、運転手やったりできんねんで?・・・ていうか、駅務員実習と車掌実習の最低どっちかは全生徒義務や。せえへんだら卒業できひん」
確かに、実際に車両を運転する機会なんて、そうそうないだろう。鉄道員以外の仕事への進路が閉ざされるわけではないし、理系に進学すれば現業系の公務員に就職しやすいメリットを考えたら、ここの基礎工学という選択肢はかなりの好条件かもしれない。
「あと、ここだけの話、うちここの推薦枠な、運輸科と基礎工学科、それぞれひと枠ずつ持っとるんや。一人運輸科に優秀な先輩が在籍しとるさかい。でも、誰も希望者居いひんさかいどっちも開いとるで。内申点は普通でええ。ワレェの成績やったら十分や。パンフレット渡しとくさかい、親御さんとも話してよう考えとき」
「・・・」
八洲高専か。俺はそのまま帰りの電車に乗り、京都市山科区のアルバイト先へ向かった。
神奈川県での下宿生活。両親に反対されるリスクはあるかもしれない。とりあえず先生に勧められたというだけやけど、お袋には早めに相談しといたほうがええやろう。
いつも通りアルバイトを終えた俺は同亀岡区の自宅へと帰路についた。
・・・
「ただいま〜」
「あ、お兄帰ってきたん?」
風呂上がりの妹がパジャマ姿でガリガリ君を手に、いつもにも増して不機嫌そうな態度で睨みつけてきた。
下山安里栖(ありす)。一学年年下。こいつは俺とは違ってこっちへ引っ越してから中学に入ったので、通っているのは亀岡区内の公立中学だ。毎日夕方までバドミントン部の練習をしているが、それでも帰ってくるのはいつも俺より2時間は早い。通学時間が短くて羨ましいことこの上ない。
が、こいつは俺が鉄ヲタだということで、クラスで「テツの妹」と揶揄われ、随分と陰湿なイジメを受けているらしい。バレた原因は俺が吉富のお立ち台でカメラを構えているところを野球部の連中がマイクロバスの中から目撃し、その中に一人「あれ、うちのクラスの下山の兄貴やんけwww」と言いふらしたバカがいるからなんだが、まあ迂闊に近場でテツ活をやっていた俺にも幾分か責任はあるだろう。おかげで彼女は「Fe2O3」というあだ名を付けられ、「テツと遺伝子を共有しているので体臭が鉄臭い」「テツの赤錆臭のする慢年生理女」などなど、随分な言われようのようだ。縞々パンツを履いていった日にスクールカースト上位の女子に男子の前でスカートを捲られ、今では「縞状鉄鉱床」「ストロマトライト」などとも呼ばれているらしい。おかげで「おにー、おにー」と懐いていた小学校までの態度は何処へやら。俺に対しては最近怨念と敵意しか向けてこない。あまりに悪質なので両親も担任に相談したのだが、事なかれ主義の古典教師である担任のババアはうちへ面談に来るなり「安里栖さんへのいじめの原因は明らかにお兄さんである和知さんの趣味にあるので、お兄さんが妹さんの気持ちを考えて趣味を変えるのが一番でしょう。サッカーや吹奏楽など、みんなと心を一つに青春できる健全な趣味は如何ですか?」などと、被害者の血族である俺に説教を始めた始末だ。
・・・
「ワレ、その態度なんやねん」
俺はぶっきらぼうな安里栖に対し、三倍増しでぶっきらぼうな返事を返した。
「ワレちゃうわ鉄!うちは安里栖じゃ安里栖!家族の名前ぐらいちゃんと呼ばんかいボケ!」
「あーはいはいただいまアリス〜」
「なんやどっかの不思議の国のお嬢様呼ぶみたいな口調でえろう腹立つわ。線路脇で草刈っとって轢かれろ鉄!」
「何そんな気ぃ立てとんねん」
「お兄こそ毎朝毎朝勃てんでもええもん勃てとるやんけ!鉄!」
安里栖は俺の下半身を指差して言った。
「生理現象やさかいしゃあないやろ!」
「しゃあないちゃうわ!あれで朝イチのおしっこされると便座やらタンクやら壁やらにびしゃびしゃ飛ぶやろ!あとで臭そなるさかいかなわんねん!鉄!」
「拭いとるさけええやろ!」
「ほななんでうちのトイレ、夏場になったら壁黄ばむん?」
「・・・」
「おしっこ出したら萎むち●●んやったら先萎ませてから出さんかい」
「自分でコントロールできるんやったらハナから勃たんわボケ!」
「ほんまちゃんと掃除せんかったら夜中寝とるとこお邪魔してちょん切ったるわ。それ」
「・・・」
「宦官になってもうたらもう座らなできひんやろ。てか座れや。うちが立ってするん違ごてできんわけちゃうんやろ?」
「いや〜・・・男は座ってしようとすると小さい方出そうと力入れた時に、後ろまで力入ってうんこさんまで出てまうさけ無理なんやわ。堪忍な」
「黙れ鉄!知らんわボケ!」
「あとなあ、座ってするとお●●●んの先っぽが便座に乗っかるさかいなあ、オシッコの残りが便座にべっとりついて、便座カバーが黄色うなってくるけどかまへん?」
「ち●●●拭けや!大体おしっこしたら拭くのんが普通やろ!」
「拭かんでええねん。男は。女の子はホースついてへんさけ毎回拭かなあかんねんな〜。不便やなぁ。ご愁傷様」
「いやいやうちらからしたらなんで男が拭かんで平気なんか分からんわ。いや、やっておしっこやで?液体やん。埃ちゃうねんで?表面張力でひっつくさかい振ったぐらいで落ちひんやん・・・そりゃ遠心力で多少は飛ぶけど」
「振るもんついてへんワレェが表面張力やら遠心力やら机上の空論並べ立てても説得力あらへんで?」
「あのなあ、女の子でも外で催してどうしても我慢できひんようになってその辺に隠れてしゃがんでもうた時は拭かへんの。そういうときはその場でお尻二、三回振ってからパンツ履くん。せやからうちかて振って済ませたことの二度や三度あるんやわ」
「ああ、3年前に保津川の花火大会行った時とかか」
「余計なこと思い出さんでええ」
「ほな振ったら落ちるいう理屈はわかっとるんちゃうん?」
「落ちひんわ!保津川の花火の時もせやったけど、振ったぐらいで落ちる量しれとるさかい、もうそんなんパンツビッショビショになるんやで?やからこれは机上の空論ちゃう。経験則や」
「なるほど女の子側の事情はわかった。が、それは別の話。男はホース振ったら完全に落ちるんや。男の俺がいうんやから間違いない」
「ほななんで先っぽに残ったおしっこが便座カバーに引っ付いたらカバーの前の部分が黄ばむん?ほんまに全部落ちるんやったら黄ばまへんで?普段それがそのままパンツについとるいうことやで」
「パンツは毎日洗濯するけど、便座カバーはそんな頻繁に洗えへんやろ?」
「やっぱりビッショビショになるんやんけ!」
「いや、やからビッショビショ言うようなレベルちゃうねん。ほんのぴっと、よう見たらついとるなあ・・・いう程度」
「ほななんでお父ん、時々ズボンに十円シミつけとるん?きちゃないきちゃない」
「あれは拭く拭かへん云々の話ちゃうんやで。前立腺肥大症いうん知っとるか?キレが悪うなるさかいな、出し終わってブルブル振ってパンツの中にしまった後も、ホースの中に残っとった分がポタポタポタポタ出続けとるんやわ」
「・・・」
「ホース長いさけ出した後残るねん。中に。若いうちはキレがええさけ絞り出したらそれでええんやけどなあ、年取ると前立腺が巨(い)っこう巨っこうなってきて絞り出しきれんようになるんやわ」
「・・・」
「大体ワレェ、ロシア人なんかうんこさんでも拭かへんねんで?それに比ベりゃマシちゃうか?」
「どこでそんなガセネタ仕入れてきてん?」
「ガセちゃうで。図書館行ってISBN4-480-81639-9で検索かけてみ?」
「著者誰?」
「米原万里」
「・・・タイトルはな?」
「パンツの面目ふんどしの沽券」
「そんな本こっ恥ずかしいて借りれんわ!」
安里栖はそのまま自室・・・とはいえ真ん中にパーテーションを置いてあるだけで、半分は俺の部屋でもあるのだが・・・に入り、ドアをバタンと力任せに閉めた。
俺はご立腹の安里栖は放っておいて、とりあえずリビングに向かった。
「おかえりカズちゃん〜」
「・・・」
「どないしたん?」
「今日先生から進路の話振られてな・・・色々考えとんねん」
「進路?ああ、それなんやけどな、実はお母さん、お父さんからええ話聞かされてたんよー」
「ええ話?」
「お、カズか」
サンタクロースの正体・・・もとい親父がTシャツ姿のままひょっこり顔を出してきた。
「あ、ただいま」
「なんや先生に進路の話振られたんか。気ぃ早いなあ。まあええわ」
「・・・」
「ええ学校進めたろか?」
「なんや先生からも進められたところあんねんけど」
「鉄ちゃんの学校行かへん?」
え・・・?
「実はなあ、お父さん来年度から東京の八王子に転勤になったんよ〜」
「え・・・また?」
「そうなんよ〜。クラスでえらい目に遭うとる中府大会目指してバドミントン頑張ってきたとこ申し訳ないけど、安里栖も転校させなしゃあない・・・」
あいつがやたらカリカリしとったんはそのせいか・・・。まあでも八王子でもバドミントンはできるんやし、今の状況考えたら転校した方がええかもしれへんな。
「で、八王子のあたりに良さそうな高校あらへんかな〜思うて探してたら、隣の相模原にこんなんあったんやて〜」
お袋は先生から貰ったのと同じ、八洲高専のパンフレットをちらつかせながら言った。
「ごめんな〜。中学入ってすぐにお父さん、篠山に転勤になってもうたばっかりで。お母さんあちこち頼み込んで越境通学とお父さんの自動車通勤認めてもうたさかい転校はせんでもええことになったけど、並河から近江八幡までって結構遠いやんか・・・高校までそんな苦労かけさせとうないんやわ〜」
「・・・」
「万が一また転勤になってもうたら、ここやったら寮入れるんよ。あと、あんた汽車好きやろ?」
「・・・」
「ええでええで。汽車の学校行きーさ」
こうして、俺は半ば周りに振り回される形で八洲高専への推薦入学に進路を決めた。
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