第3話:Erectrical Communication
<ああ、そうだ。私はまだ夢の中にいる>
<彼が、私に書き換わっていく>
<僕は消える>
<彼の中に私が混ざりこむ>
<AとNが混ざる>
……NとA…
「ちょっ!!それってNAS砲!?ネオアームストロングでサイクロンジェットな――――」
ガバッ
アニーを泊めた翌朝。
ソファーで寝ていた彼が、唐突に大声で叫び起きた。
「~~~~~っなんだアニー!いきなり叫んで!!」
寝言混じりの叫び声に、隣の部屋で寝ていた琉樹までつられて起きる。
「ああ、琉樹……うん、夢を見たんだ」
「…あっそ」
他人の夢の話なんて、つまらないものに興味はない。急に起こされて不機嫌な返事をする。
「夢の中で……ボクの……
「は?」
なんつった?
聞き逃せないone wordが含まれていたぞ。
「余りにも大きい
あー。うん。
そっかあ。
……そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。
夢の世界で、自身の一本槍で神に叛意を示した男を無視して携帯端末を取り出し、保護者を呼ぶことに決めた。
『おはよう。琉樹君。どうしたの?』
「名護さん。おはようございます」
昨日のうちに連絡先は交換していた。
有事の際には遠慮なく連絡してくれと言われていたのだ。
……もう有事だろ。これ。
「今すぐこちらに来ていただけませんか?」
『あのね、琉樹君。朝一で女性を呼びつけて、直ぐに来いだなんて、関心しないわ』
電話先、名護の語気は少し荒い。
恐らくこの電話で叩き起こされてしまったのかもしれない。
「アニー氏の様子が、ちょっとおかしいというか。なんというか」
『……急に電話で叩き起こされて、煮え切らない言い方での説明は苛立つわ。君が何を思っているか知らないけど、何も考えず事実だけ正確に伝えて頂戴』
やはり、この電話で起こしてしまったようだ。それはそれとして。
……ホンっっ当に正確に伝えて良いんだな。
「えっと、起きるなり彼が見た夢を語ってきたのですが」
『……それが何か?』
「彼の
『あのね、琉樹君。朝一で女性を呼びつけて、セクハラなんて…本当に関心しないわ』
言いたくて言ったワケじゃねえよ。
アンタが始めた物語だろ。
「そういえば、琉樹、聞きたい事あったんだけどさ、チ*ポジって何? *ンポジってよく聞くけど、結局何なのかわかんないんだ。
『……琉樹君、一体アニーに何が起きているの?』
(こっちが知りてえよ)
携帯端末をスピーカーモードにしておいてよかった。
現場の状況は、彼女に正確に伝わったようだ。
アニーは、琉樹の背後で【
「こんな感じなんすけど? 起きるなりこんな感じですっげえ愉しそうに言ってるんすけど? これが北谷アニー氏の平常運転?」
『――――10分で行くわ。ちょっと待ってて』
・
・
「本当にきっちり10分で来てくれた……」
「私はねぇ、嘘はつかないようにしている主義なの。で、アニー? 何でそんな事言ったわけ?」
「何でって。喜んでくれるかと思って。そういうものじゃないの?」
ワケが分からない。
いきなり部屋に転がり込んできた男に、下ネタ連発されて男子高校生がどこの世界にいる。
まあ、とりあえずは――――――
「えっと。1…1…0…っと」
「待て待て! 琉樹君!? 警察呼ぶの止めてくれないかしら?」
「はあ。……そもそもこいつ、何なんですか」
一応は年上の男性であるアニーを敬意の欠片もなく指さし、コイツとのたまって説明を求めた。
「アニーが何かって言われると、説明は難しいのだけれど。そうね」
名護は、「まあ、掻い摘んで言うなら」と言いおいて。
「制御型新規電信応答ベクターのRNAi直接導入によるShankの発現抑制・制御に合わせてトロンビン発現によるミエリンの強制乖離でJunkな記憶が大脳内の特定モジュール、デフォルト領域と身体運動領域のニューロンネットワーク軸索中の液晶化最適化脂質二重層の強化に加えて大脳から脳幹にかけての反射神経の起こりの減作処置を施してから草津か湯田中温泉で3泊4日食事つき旅行マジ行きてえなぁ~って感じのアレよ」
と、日本語になっていない説明をした。
どこをどう、掻い摘んでいると言うんだ?
なんか適当言ってないか?
最後に誰かの願望流してないか?
「そう、このボク、北谷アニーは改造人間であるっ!」
テレビを見ていアニーが、簡単な答えを言っていくれた。
どういう改造を施されたかは知らんが、改造人間という事ならば、昨晩の超人的な動きも納得だ。
なんでコイツは、改造なんてされているかは知らんが。
「ちょっと…こう…言いづらい表現になるけど、アニーは、色々頭の中もいじくられてるワケだから。ちょっと変な事を言い出したのは、そのせいかもしれないわね」
名護がもやっと言葉を濁しながら、彼の下劣な品性を考察をする。
当のアニーは、テレビにかぶりつき、朝の情報番組のスポーツコーナーに見入っていた。
「名護さん。昨日…俺に襲い掛かってきた少年の事なんですが」
それはそうと、彼が改造人間というのであれば、それと相対した少年の事が気になる。
「アニーが撃退したって子の事?」
「その子が誰か、名護さんには心当たりは無いんですか?」
「いや、無いわ。そもそも君のデバイスカードがちょっと特別って話は知ってる人間は限られるわね」
嘘を吐いていないのであれば、その通りなのだろう。
名護はまだ、琉樹に配られたデバイスカードが一体何なのか、この中に入っている姉の姿をしたAIが何なのか説明してくれていない。
それについても問いただしたいが、まず、医者に確認したいことがある。
「……それでですね、アニーがその子の股間を思いっきり蹴り飛ばしたんですけど。改造人間の力でそんな事されたら……」
「……祈ってあげましょう。私にはそれしか出来ないわ」
【さあ、ここで昨夜の試合のハイライトシーンを紹介しましょう。先ずは阪神、中山選手の豪快なホームランです】
アニーが見ているテレビの中では、野球の結果を放映している。
阪神の選手がフルスイングで撃ち込んだタマが場外にカッとんだ。
液晶画面の世界で動く試合の様子が、琉樹が見た痛ましい景色とオーバーラップする。
「祈り…届かなかった時は?…彼は…どうなって……」
悲惨な結果を想像した琉樹が、震える声で問いかけた。
名護は少し目を細めて、首を横に振った。
……医者が黙って首を振る姿は、見たくなかった。
・
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昨晩のうちにコンビニで買い込んだパンで朝食を済ませ、時刻は9時を回ろうとしている。
「そういえば、名護さん、お仕事はいいんですか? お医者さんなんでしたっけ? どこの病院?」
医者というものは激務という印象があるのは21世紀半ばも変わらない。
そろそろ勤めに出なければいけないのではないだろうか。
「ああ、それなら安心していいわ」
「なんで?」
今日は非番という事なのだろうか。
或いは名護は診療所を経営していて、今日は休診日という意味なのだろうかと琉樹は思った。
「心配するな 私は無職だ」
「なぐ…名護…さん? 安心できる要素 is 何処? ねぇ大丈夫なんすか本当にっ!!」
急激なカミングアウトに、思わずさみだれ式に問いかけた。
医者と言っていたが、どうやら本当に今は勤め先を退職しているらしい。
無職が全く怖くないほど……そんなに儲かるのだろうか。
「あ、そういう話ならボクの方も安心していいよ」
この流れ…嫌な予感しかしない。
「心配するな ボクは無職で無免許で無一文だ」
「わぁい☆無敵だー……って、だから安心できる要素が無ェっつってんだろがああああああああああっっ!!!」
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