第4話 変わりゆく日常


 まずは武器を準備しないとだけど、短剣なんて一体何処に売ってるんだよ。西野川樹里さんの持っていたあの短剣…格好良かったなぁ。僕もあんなのが欲しいんだけど。


 次の日、陽太郎は休み時間にスマホで検索をしていた。もう頭の中は異世界と西野川樹里の事で一杯である。

 先ずは何より武器になる物と方位を調べられるコンパス、これを調達する必要がある。部屋の中を漁ってはみたものの、武器になりそうな物と言えばカッターナイフか鋏くらい。それではいくらなんでも心許ない。


 家の包丁を持ち出す訳にもいかないし。あ!これなんて良いんじゃないか!?


 陽太郎が見つけたのはアウトドア用品を扱うネットショップだった。商品を検索してみると様々なナイフやコンパスまでもが売っていた。陽太郎は自分の財布と睨み合いながらも待ち切れずに、ポチッと注文ボタンを押したのであった。


 移動教室で廊下を歩いていると、反対側から友達に囲まれ周囲にキラキラエフェクトの掛かった西野川樹里が歩いて来るのが確認出来た。陽太郎は思わずいつもの癖で廊下の陰へと隠れてしまう。そしてそこからじっとその姿を見つめるのである。

 異世界では普通に会話をしてしまっていたが、いざ日常でこうして姿を見たらとてもでは無いが自分から声など掛けられる訳も無く。陽太郎はただその姿が通り過ぎて行くのをじっと見つめていたのであった。

 

 『陽太郎、お前四組の西野川さんと知り合いだったのか?』

 『え!?何で!?』

 帰り道に智也と一緒に帰っていると唐突にそんな事を言われたのだ。

 『いや、西野川さんが陽太郎の事を知ってる様だったからさ?全然見掛けないけど学校には来てるよね?って聞かれたんだよ。』

 『そ、そう。そうなんだ。』

 『うん。まあそれだけなんだけど。』

 智也はそう言うと何事も無かったかの様に話題を変えていた。しかし陽太郎の心臓はバクバクと早鳴っていたのである。


 西野川樹里さんが僕を探してくれていた!?これはやはり!異世界トークに花が咲いたりしてしまうのだろうか!?


 智也の話など上の空な陽太郎は次こそ見かけたら自分から挨拶をしてみようと、心に決めていたのであった。


 ◇◆◇◆


 休日の土曜日、陽太郎は動きやすいジャージに着替え靴を履き、リュックサックを背負うと押し入れの中の異世界へのゲートを潜り抜けて行く。

 あれから結局西野川樹里と話すタイミングは無く、こうして休日を迎えてしまっていた。

 ゲートを潜り抜けて小屋へ出てみるが、人の気配は一切無く扉から外の光が漏れていたのみだった。


 ここで待っててくれたりとかは…無いよな。逆に待っていたら西野川樹里さんがそのゲートから出て来たり!?


 そう思いしばらく小屋で待機してみるも、西野川がゲートから現れる事は無かったのである。

 仕方なく陽太郎は小屋を後にする。

 購入したコンパスを頼りに南西の方角へとひたすら森の中を進んで行く。途中木の根元に青いスライムを見つけると、購入したばかりの真新しいキャンピングナイフでそのスライムの核を突き魔性石を手に入れた。


 『取り敢えず三つ手に入ったけど、これで十五ベリエになるって事か。十五ベリエってどれぐらいなんだ?』


 そんな事を考えながら歩く事約一時間、ようやく森を抜けるとそこには人工的な道があった。そしてその先を見ると遠くに家々が立ち並ぶ村の様子が伺えたのである。


 『あれがヤットリー村か?思っていたより大きな村だな。』


 陽太郎はそう呟きながら、村を目指して歩いて行った。

 ヤットリー村へと到着すると、村人は金髪や赤髪で白人系の人々が多く、日本人である陽太郎は明らかに浮いている。しかもジャージにリュックサックを背負っているのだ、場違い感が半端ないのである。

 村人達は怪訝な顔をして陽太郎の事を見ているだけで誰かが話し掛けてくれる様な事は無かった。仕方なく陽太郎は何やら露店を出しているおばさんへと話し掛けてみる。

 『あの、すみません。言葉は通じてますか?』

 『いらっしゃい。大丈夫だよちゃんと通じてるさ。あんたもしかして異世界人かい?』

 『はい!そうです!異世界からやって来ました!高村陽太郎と言います!』

 陽太郎が元気良くそう挨拶をすると店主はケラケラと笑って言うのだ。

 『じゃあジュリんとこから来た訳だろ?何となく顔立ちも似てるから同じ国かい?』

 『ジュリ…西野川樹里さんですか?』

 『ああ、確かそんな名前だったかね。なんだ?知り合いかい?ジュリならさっき村を出てっちまったけどね。』

 『え!?西野川樹里さんはこちらへ来ているんですか!?』

 まさか先に西野川がこちらへ来て居たとは思わなかった陽太郎は驚き声を上げた。

 『ああ、今朝来て今日は街まで行くってさっき出発してったよ。夕方には帰って来るって言ってたけどね?』


 くそぉ。すれ違いじゃないかぁ。


 陽太郎は自分の間の悪さにその場へ崩れ落ちたのであった。

 取り敢えずせっかく村に着いたので何かをしなければと思い立った陽太郎は店主に冒険者ギルドの場所を聞いてみたのだが。教えられた所へ向かってみるとそこは冒険者ギルドらしからぬ簡素な建物であり、ただ外の看板に剣と盾をあしらった紋章が掲げられただけの即席カウンターの様な場所であった。


 『あのぉ、すみません。ここは冒険者ギルドであっていますか?』

 陽太郎が恐る恐るカウンターで頬杖をついていた女性に声を掛けてみると。

 『はーい。そうですよぉ。一応冒険者ギルドの出張所って感じですねぇ。何か御用ですかぁ?』

 受付嬢と思われる女性はそう言うと陽太郎の格好を足元から頭の先まで見上げるとぷっ!っと吹き出したのである。明らかに小馬鹿にされており陽太郎は若干ムスッとして尋ねたのだ。

 『あの!冒険者登録をしたいんですけど。ここで登録は出来ますか?』

 『ああ、登録ですか?大丈夫ですよぉ。そしたらこれにご記入お願いしまぁーす。』

 そう言って用紙を渡されたのだが文字が何て書いてあるのかさっぱりわからない。そう思って悩んでいると頭の中でその文字が変換され始めたのだ。

 『あれ!?読めるぞ!?』

 『はい?』

 『いえ、何でも無いです。あの…住所が無いんですけど…異世界から来たもので。』

 陽太郎が申し訳なさそうにそう言うと。

 『ああ、異世界人?そしたらそこ異世界でいいですよ。ジュリちゃんと一緒ですよねぇ?そしたらここもここも全部異世界って書いといてくださーぃ。で!最後にこれ、ここに指を当ててくださーい。ちょこっと血を採りますんでぇ!』

 『血を採るんですか!?』

 『チクッとするだけですよ。痛く無いから。』

 陽太郎は言われるがままにそこへ指を置いたらチクッと何かに刺されたのだ。一瞬ビクッとすると受付嬢がまたプッ!っと笑いを吹き出したのである。

 『はい、じゃあこれがギルドカードになりまぁす。それでこれが規約とか書いたパンフレットでぇす。一応紛失したら再発行は出来ますけど有料になるんで気を付けてくださいねぇ。冒険者ランクは先ずはFランクからですねぇ。』

 『あの!これスライムを退治して手に入れたんですけど、買取とかは?』

 『ああ、魔性石ですか?大丈夫ですよぉ。これだと一つ五ベリエなんで三つで十五ベリエですけどぉ。どうします?』

 『あ、じゃそれで換金をお願いします。』

 受付嬢から十五ベリエを受け取った陽太郎は冒険者ギルド(仮)を後にしたのであった。





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