第29話


日が登る。


少しずつだけど、確実に日が登る。


どれだけ歩いたかなんて分からない。


ひたすら、足を前に進めた先には、家なんてなかった。


私の視線の先に、見えたのは、海?



サブーン!


サブーン!



初めて、踏み締めたのは、砂?


1度も来た事がないのに、何処か懐かしく感じる。


頭の中の記憶を辿ってみるけど……分からない。


なのに、凄く懐かしい匂いだと思えた。



ずっと、昔……遥か昔……私は、この海で遊んだ。


それが、いつだったのか……分からない。



何故?こんなに懐かしく感じるのだろう?



歩き疲れた私は砂の上に寝転んだ。


目の前には、何処までも、続く青い空。


記憶を辿る作業は出来るのに、霧がかかった様に靄が架かる。



『曼珠沙華は、血の色』



ふと、浮かんできた言葉。


琥珀でもなく、永遠でもない。


大人の女性の声だった様に思うのは、私の勘違い……?



『人の血を吸って、曼珠沙華は、赤く染まるのよ』



誰が言ったのか、覚えていない。


なのに、今になって、頭の中に浮かんできたのは……何故……?



……分からない……


……覚えていない……



どうして、私は、何も覚えてないんだろう……?



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