第26話


「窓ガラスが直るまで、隣の部屋だ」



部屋のドアを開けた琥珀が言った言葉に、何も答えず立ち上がり、琥珀の後を追う。


隣の部屋のドアを開けた琥珀。


だから、私は中に入る為に、1歩足を踏み入れ、どうして?と一瞬、思った。


私の部屋と全て同じ。


置いてあるベッドも、シーツの色も、テーブルも椅子も、そしてロッキングチェアまでも……



「今日の君は、どうかしている」



感情のない様に聞こえる言葉が、琥珀の口から出た。


その言葉に答えず、ベッドサイドに腰掛けてから寝転ぶ。



「君が何を思い、何を考えているか、知りたいとは思わない」



点滴の針を、私の腕に刺した琥珀は、そう言うと部屋を出て行った。


私が、琥珀と暮らす意味は……?


私の事を知りたいとも思わないなら、構わないで欲しい。


もう、此処に囚われているのに、限界を感じた。


夜が明ける前に、私は此処から飛び立つ。


だけど、それは、今じゃない。


少しだけ睡眠を取り、次に目が覚めた時が、チャンス。


今度は、違う道を歩いてみよう。


坂を下って、まっすぐ行くのではなく、左に曲がろう。



琥珀が、追って来ない様に。


永遠に、気付かれない様に。


そっと、此処を飛び立つ。



そんな風に思いながら、私は静かに瞼を閉じた。



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