全ては情熱の丘に通ずる

蠱毒 暦

無題 勉強はお祝いの後で

300年の伝統を持つ、情熱乃丘じょうねつのおか女子高等学校には一際、異彩を放つ『キラキラふわふわ部』という部活があった。


活動内容はバンド、麻雀、ボランティアなどなど。部室でお菓子パーティーをしたり、鍋パを敢行した事もある。


ね?ふわふわしてるでしょ?まっ、難しい勉強以外のやりたい事をなんでも、自由にやってもいい、素晴らしい部…


「モノローグを語る暇があったら、手を動かしなさい。今度の試験で赤点取ったら、廃部なのよ!?」


「ヒーちゃん…わたし。お菓子がないと、力…出ないよ。ぐふっ…」


「?お菓子なら沢山…え…もう全部食べちゃったの!?」


あたしと同じく、赤点組で隣の席に座って勉強をしている、学校一のお菓子狂いのスイが机に突っ伏した。


「じゃあ…あ、あたしも…がはぁ。」


「〜〜〜っ…お、き、な、さ、い!!!」


部室に散らかっているものを必死になって片付けている、学校一カッコ可愛いと評判のヒーが口調を荒げて、あたし達の背中を激しくゆする。


「うぐぐ…部室で勉強するものじゃないぜ…よし、今日の活動はお昼寝にしよう。試験まで、まだ2週間あるし、スイもそれでいいよね?」


「うん…今日…ティーちゃんいないから、お菓子の質も低いし…やる気起きないよぉ。」


「同感。という訳で、多数決の結果…今日はお昼寝に決定しました…じゃ、おやすみ……」


「え。今遠回しに…私、侮辱されてなかった?って、寝るなぁ——!!!」


素早く眠りの国へ逃げようとするが、いつか漫才に出た時に使ったハリセンで、何度も叩かれ…あたしは渋々、体を起こした。


「うう…ヒーが何を言おうと、今日は勉強しないぞ!ティーもいないし…んん?」


おっ…唐突に閃いた。


「ヒー、スイ!明日、ティーにサプライズを仕掛けよう!!今日はその準備をしようぜ!!!」


あたしの言葉に、ヒーはきょとんとして、スイはスヤスヤと寝息を立てていた。


……


ドアをノックする音で、私は目を開けた。


「お嬢様。お加減は…」


「1日休んだお陰で、すっかり治りました。」


(早く学校に行って…皆に会いたいです。)


すぐに身支度と軽い朝食を済ませて…屋敷の外に出る。


「では…行って来ます。」


『お気をつけて行ってらっしゃいませ、ティお嬢様!!』


小学生の頃ならいざ知らず、高校1年生になっても、私を見つけるや否や庭師からメイド、料理人までもが、全力で声を張り上げてくるのが…その。


(は、恥ずかしい。)


だからと言って、皆…私の為に誠心誠意、尽くしてくれてるのだから、口出しも出来ない。


(私はもっと…皆みたいに、普通の女の子みたいな生活を送りたいのにな。)


「お嬢様…お顔が真っ赤ですぞ?」


「っ…いつもの場所までお願いします!」


「はいはい。」


黒塗りの車で高校の近くまで行って、その後は徒歩で高校に向かう。


(今日もいい天気。)


クラスが全員違う事もあって、皆とちゃんと会えるのは、放課後の『キラキラふわふわ部』の部室だけ。


(ふふっ…放課後が待ち遠しいですね。)


……


放課後…私はすぐに部室へと向かった。


ガチャ


「皆さん。昨日は……?」


部室には誰もいなかった。いつもなら眠木ねむきさんか、甘笠あまがささんのどちらかは、いる筈なのに……


私はカバンと、お菓子を机の上に置いて…ようやく気がついた。


「…メモ?」



親愛なる、ティー(ちゃん)へ


昨日の放課後から今まで、あたし達は雲隠れしてます。テヘッ☆


わたし達のいる場所のヒントは情熱の丘。懐かしいね、ティーちゃん。皆と初めて会った場所だもん!


ごめん、ティー。私1人じゃ、止められなかったから、早く来て欲しいな。


ティーの親友

『キラキラふわふわ部』一同より



「…っ。」


気づけば私は部室を出て、スマホを起動していた。


(本当は嫌だけど…)


「…大至急、校庭にヘリを送って下さい!」


……


紅葉の木の下には楽器が置かれ、辺りには話を聞きつけたのか、人が集まって来ていた。


「ティーの為とはいえ…うぅ。皆勤賞が…後で先生に怒られる…」


「はーい、この計画を立てた立案者は、黙って準備してねー…スイは、大丈夫?」


「糖分補給は完璧だよ!」


「いやそこじゃないんだけど…ま、いっか。」


後はティーが来るのを待つだけ。


「おっ。噂をすれば…だ。」


ヘリの音と共に、上から縄梯子が降りて来て、本日の主役がやって来た。


「これは…一体?」


「ヒーちゃんから聞いたよ。今日、誕生日なんでしょ?」


「…!」


「だから、サプライズを用意したのだ…勿論、受け取ってくれるよね?」


感激の余り、口元を手で覆って涙を流しているティーに、あたしは笑ってマイクを手渡した。


……


「時は来た…!これより、ティー参加型の誕生日ライブを始めるぜ。準備はいい?」


「リハなしだけど、やるしかないか。で…これが終わったら、分かってるよね?」


「「!?…う、うん。」」


高校に入学する前までは、誕生日を祝ってくれる友達すらいなかったけど。


「はいっ…私。精一杯、頑張ります!」


ここに来てから、最高の親友が出来ました!!!!

       

「んじゃ…始める前に、はい糖分補給…ティーも、ほら。」


「!……ありがとうございます…あむっ。」


                   了





































  






































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