第7話 性格の変化
性格が変わってしまうとはどういう事なのか?
簡単に言えば、感情のブレーキが利きにくくなる。
テレビのちょっと悲しい場面でワーワー泣いてしまったり、親父ギャグに大笑いしてみたり。
そのくらいなら「ちょっと変わった人だなあ」で済まされる。
が、些細な事でキレてしまう、となると笑いごとではない。
たとえば、職場復帰したものの、お客さんに怒鳴ったり上司を殴ったり。
家ではちょっとした事で怒るお父さんになってしまい、奥さんばかりか子供たちまで怯えて暮らす毎日。
よく「どこに地雷があるか分からない」と表現される。
残念な事に、性格的な事はなかなか評価が難しい。
だから保険会社では「日常生活状況報告」という書類を作っており、事故前と事故後について、家族に評価してもらうようにしている。
この書類の内容を見ると「言いたい内容を相手に十分伝えられますか」「円滑な人間関係を保っていますか。トラブルはないですか」「うまくいかない事があると家族や友達あるいは同僚のせいにしますか」などの40項目に対して5段階評価する事になっている。
逆に言えば、話が回りくどかったり、人間関係のトラブルを招いたり、悪い事があったら他人のせいにしたりするという事だ。
たとえば電車に乗ったとしよう。
大声で携帯電話に話している人がいたとしても「ちょっと迷惑だな」と思うくらいなのが普通の人だが、高次脳機能障害の人は我慢できない。
いきなり近づいて「おい、迷惑だ。やめろ!」みたいな事を言ってしまう。
相手がびっくりして電話をやめてくれればいいが、中には逆ギレする人もいる。
30分前に診察を終えて出て行った患者が顔面血まみれで診察室に戻ってきた事があった。
家族によれば地下鉄の駅でトラブルになったのだとか。
本人は「先生、40越えたらアカンわ。若い奴には勝たれへん」とか言っているが、反省すべきはその方向じゃないだろ。
こっちも忙しいんだから仕事を増やすのはやめて欲しい。
他にも、時間を守れないとか、あるだけお金を使ってしまうとか、やたらお菓子を食べたがるとか、色々ある。
同時に2つの事ができないとか、仕事の段取りが悪いとか、物を失くす事が多い、というのもあるが、そちらは記憶障害や認知障害の問題だろう。
こういった事で「困った人」になってしまうので、職場や学校では周囲の人が離れていくし、家庭内では腫れ物扱いになる。
事故前は「子供たちに勉強を教えてくれる優しいお父さん」だったりするだけに、事故後の性格変化が悲しい。
ただ、こういった人であっても診察室ではお利口さんである事が多いのが不思議なところだ。
特に大きな声を出すこともなく普通に話をしている。
が、再診予約の日時を守らない事が多い。
念のために家族に電話してみると「暴力事件を起こして留置場に入っているので病院には行けません」などという返事が返ってきがちだ。
こういった人に対して医師としてやるべきことは2つ。
まずは診断書・意見書を作成して損保会社に高次脳機能障害の存在を認めてもらい、しかるべき賠償金(慰謝料)を得ること。
もう1つはリハビリ等で症状を緩和させ、スムーズな社会生活を送れるようにすること。
これらについては後述する事にして、次に高次脳機能障害の画像所見について説明したい。
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