第49話 解錠師、対策会議に参加する。


 それから1時間近くかけて俺たちはギルドへと戻った。


 ギルド内にいた冒険者たちはすでにおらず、残っていたのは受付嬢のアルカとギルドマスターのクロエさんだけだった。


 

「あっ、ロックさん! どうでした!? シトラスちゃんとアルシェちゃんは無事──」


 でしたか──そう聞こうとしたのだろうが、俺の後ろからゾロゾロと天災セレスターたちが入って来たのを見て、アルカはその場で銅像と化してしまった。


 

「すまない。少しだけ席を借りてもいいだろうか?」


 

 クリスタルから優しく微笑みかけられたアルカは萎縮したのか、それともあまりの美しさに度肝を抜かれたのか、カウンターに立つクロエさんの元へと逃げていった。

 

 まるでおとぎ話から飛び出てきたのかと思うほどに美しい女性なのだ、驚いてしまうのも無理はない。


 クロエさんはアルカとは違い冷静に対応してみせるが、手元が少しだけ震えているのを見てクリスタルが何者なのかを瞬時に察したみたいだ。


 

「ちょっとロック! なんであんなスゴい人までいるのよ! バリオスまではまだ納得してたのに!」


 

 クロエさんが耳打ちでそう伝えてくる。バリオスまでは納得できたのか……。となるとエリスやモアはどうなのだろう?

 

 そんな疑問が湧くが、その話は一旦置いておこう。


 たった1日で大所帯となった俺たちをクロエさんが大きめのテーブルまで案内し、「あとは任せたわ」とさっさとカウンターまで引っ込んでいってしまった。

 

 ここから先はクロエさんやアルカの及ぶ話ではないので、あとでお礼と謝罪の言葉を言っておこう。


 


 ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★☆★ ☆★☆★


 


「……ロック。こうして話し合いの機会を設けてくれてありがとう。感謝する」

 


 全員で席についたところで、クリスタルが俺に深々と頭を下げた。


 シトラスとアルシェの二人は、ギルドに併設されている治療室へと預けている。


 なので全員とは言っても、残されたのは俺含めて厄災ディザスターが3人、天災セレスターが5人の計8人だ。


 この8人で徒党でも組めば、軽く世界征服でもできそうな気がする……なんてどうでもいいことを考えていると、美しい銀髪を揺らしながらクリスタルが口を開いた。


 

「それと、うちのバリオスが迷惑をかけた。キミの元人格であるエグゾードとは因縁があってね。少々冷静さを欠いてしまっていたようだ。どうか彼を許してあげて欲しい」

 

「いや、そんな……」

 


 そう言ってクリスタルはふたたび頭を下げる。


 5対5で座れる十人がけのダイニングテーブル。その中心部に座る俺とクリスタルは対面上となっており、正面から頭を下げられた俺は、なんと返せばよいかがわからずたじろいでしまう。


 

「……バリオスの両親は、エグゾードが起こした『人魔大戦』で犠牲になっている。だから君に対して怒りを露わにしてんのさ」

 

「おいおっさん! なに勝手に話してやがる!!」

 


 萎縮する俺に対し、クリスタルの隣に座っていた『グレイ』という男がそう説明した。


 そうか、人魔大戦で家族を失っていたのか……。


 バリオスが俺に対して怒りを露わにするのはただの八つ当たりだと思っていたけど、ちゃんと理由があったのか。


 

「バリオス。その話についてはその……」


 

 俺が謝罪しようと席を立つ。するとバリオスは舌打ちをして、


 

「やめろ。今のテメェはエグゾードじゃねェンだろ」


 

 右手を突き出して、俺の謝罪を止めた。


 

「……これは俺個人の問題だ。頭ではわかってンだよ、には関係ねェってことは。だから放っておいてくれ」


 

 バリオスはそっぽを向いたままそう言った。

 そう言うことなら彼の意思を尊重しよう。

 

 もしエグゾードをもう一度解き放つときがくれば、そのときは無理やりにでも頭を下げさせると、心の中でそう誓った。


 

「では、本題に入ろうか」

 

 

 クリスタルは両肘を机に置き、指を組んだ状態でそう言った。いったい何を聞かれるのだろうかとソワソワしていると、彼女の視線がアイザへと向けられた。


 

「【終焉ヲ齎ス獄炎竜アイザ・ジ・エンド】。封印されていたキミが、なぜ今こうして外の世界にいる? 床で寝転がっている【魔獣神王ジゴクノバンケン】もそうだ。キミたち厄災ディザスターはどうやって勇者の封印から解き放たれた?」

 

「それは……」


 

 アイザがちらりと隣に座る俺に視線を向けてくる。

 まぁ、そこは聞いてくるよな……。


 見た感じ、このクリスタルって人が天災セレスター側のトップ、いわばリーダーみたいだ。


 世界の秩序を護るのが天災セレスターの役目なのだとしたら、その反対である厄災ディザスターの動向について目を向けるのは当然だった。


 とはいえ、ここでバカ正直に答えていいのかは熟考じゅっこうする必要があるだろう。正直に答えて「なら殺すか」と攻撃される可能性だってゼロじゃないんだから。


 とりあえず、ここはいったん誤魔化すか──。


 

「ああ、それっスか? たしかロックさんがアイザさんの封印を解錠アンロックしたらしいっスよ。ペロコさんはどこからともなく現れたらしいっス。あ、アルカさんすみません、エールとか注文できます?」


 

 なんて考えていると、横からモアが真相をぶっ込んできた。しかもエールを注文しながら。

 

 マジでなに言っちゃってくれてんのこの娘???


 

「……なるほど、か」


 

 それを聞いたクリスタルの眉間にシワが寄る。

 

 これ、もしかしなくとも攻撃される……?

 なんて考えつつ身構えていると、クリスタルは指を組んだまま質問をしてきた。


 

「モアの話は本当かな?」

 

「……はい」

 

「おい、ロック……」


 

 アイザが服の裾を引っ張って止めようとしてくるが、モアがバラしてしまったので俺は正直に答えた。


 それに相手は天災セレスターだ。ウソをついたところですぐに見破られる可能性だってある。だったらここは正直に答えた方がいい。


 それにもし向こうが仕掛けてくるというのなら、俺は解錠師封絶の力を問答無用で使う。


 こんなところで全てを台無しにする訳にはいかないんだ。

 アイザとペロコ、それと一応エリスも連れて、ここから全力で逃げ出してやる……!


 

「……落ち着いてくれロック。何も私たちは、キミたちと戦うためにここへ来たワケじゃないんだ」

 


 僅かに漏れ出た殺気を感じ取ったのか、クリスタルが諭すように言った。

 

 そういえばクリスタルたちは何で俺たちに会いに来たんだ? 監視目的ならバリオスとモア、それにエリス(はちょっと違うかもしれないけど)がいるし、わざわざ天災セレスター二人がここに来る必要性がない。


 そんなことを考えていると、クリスタルの隣にいた王都で見たことのある冒険者 グレイ・ハンマーさんが口を開いた。


 

「俺たちがここへ来たのはバリオスたちの様子を見るためってのもあるが……。ロック、君に聞きたいことがあって来たのさ」

 

「聞きたいこと?」

 

「ああ。──単刀直入に聞くが、君は終焉ヲ齎ス獄炎竜アイザ・ジ・エンド以外の厄災ディザスターの封印を解錠アンロックしたか?」


 

 ずいっと体を乗り上げて尋ねられる。

 

 またその質問か……。確かエリスやバリオスからも聞かれたぞ、それ。


 

「いや、してません。というか他の厄災ディザスターがどこに封印されてるのかも知りませんし」

 

「……だとよ。どう考える? クリスタル」

 

「ああ。そうなると考えられるのは一つしかないな」


 

 クリスタルは指を解き、ふぅ……と深いため息をついた。

 

 ため息をつきたいのはこっちの方だと悪態をつこうとしたところで、クリスタルがこんなことを言い始めた。


 

「勇者のかけた封印は、すべて。恐らく、一つ解錠アンロックしてしまえば、残りの封印全てが解除される仕組みになっているのだろう」

 


 クリスタルがそう言った瞬間、バリオスとモアが俺の方を向いた。


 ……ってことは俺、知らぬ間に厄災ディザスターの封印を解除しちゃってたってことですか?


 

「ロック、キミは魔獣神王ジゴクノバンケンがどうやって封印が解除されたのか聞いたことはあるか?」

 

「い、一応は……。なんか気付いたら外に出られるようになっていて、そこから匂いを辿ってアイザに会いに来たと……」

 


 俺はそこまで口にして、「あれ?」となった。


 そういえばダークネスは誰に封印を解錠アンロックされたんだ? 聞く前に深淵に呑まれちゃったから今となっては確認のしようがないけど。

 まさか本当に俺が解錠アンロックしちゃったのか?


 それに、確かエグゾードを含む5体の厄災ディザスターの封印が解かれたって言ってたよな?


 エグゾードは自身の記憶を封印し「人間」となることで、勇者の封印に縛られない状態だった。

 それからガレスに追放されてアイザに出会い、今に至る。


 他の厄災ディザスターは、アイザにペロコ、そしてダークネス。ここまでで4体だからあともう1体厄災ディザスターがいるハズだ。その厄災ディザスターはどうなってるんだろうか?


 

「……クリスタルよ。貴様はそれを聞いてどうするつもりなのじゃ? 我らを今ここで殺すつもりか? それとも再び封印でもするつもりか?」


 

 最後のもう1体の厄災ディザスターについて考えていると、アイザが魔力を垂れ流しながらクリスタルに問う。


 殺意も一緒に垂れ流しているため、そばにいたバリオスとモアが席から立ち上がり臨戦体制をとった。


 おいおい、ここはギルドなんだから暴れないでくれよ?


 

「──何度も言わせるな。私たちは

 

「……じゃあ何しに来たンだよ」


 

 バリオスの質問に対して、クリスタルはこれまで以上に厳しい表情を浮かべ、厳格な声で言った。




「封印されし最後の厄災ディザスター──

大地ヲ統ベル者スクラヴィ】についてのだよ。

私たちがここに来た本当の理由はこれだ」







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