サトリ

稲富良次

第1話 「一浦 勇気」

プロローグ


2016年 夏


一浦勇気警部査問委員会事情聴取


「きみは何について査問されているのかわかっているのかい」

頭が禿げ丸眼鏡をかけた主席査問官が尋ねた。


「大田区の立て籠もり犯への発砲

その前に行った犯人説得の失敗・・・ですか・・・」


「よろしい、現状認識の誤認、心神喪失による錯誤があったと認めるかね」


「認められません」


「よろしい、否認するということだね。

それでは警察官として自分の処遇がどのようなものであれば適当と判断するか

その根拠と自分の意見を述べることを許すよ。どうぞ」


「ありがとうございます。述べさせていただきます」

一礼する。

「まずは・・・」


結局、警部から警部補への降格処分となった。

直属の上司は厳重注意に留まった。

軽い方か・・・


SITから警視庁六課という部署に転属となる。


いわゆる「赤い一週間」事件の警視庁内の幕引きとなる。


後は東京地検が引き継ぐのだろう。


正直なところ、この処分には承服しかねるが・・・

私を必死に庇ってくれた上司の行為に報いなければなるまい。

SITの隊長という責務は重いが

充実していた、誇りでもあった。

それが五課を飛び越して六課への転属

表向きは懲罰人事ではないことになっている。

資料整理課

歴史編纂室

もっとあからさまな窓際でないことを有難く思えか・・・

私としてはどちらにしても牙をもがれ、動物園の檻に入る事と同義だ。


「警視庁第六課」

地下一階にあるその倉庫の非常口らしき看板を見てため息をついた。


ドアを回し入る。


「一浦勇気警部捕、現時点をもちましてこちらに配属となります!

よろしくお願いいたします!」

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