第5話【ハーモニーにならない】

〇 稽古場(夕方)


全員がそろっている。

翔太が数日ぶりに姿を現した。

少しだけ気まずい空気。


力丸

「お、帰ってきたな。舞台、降りたって聞いてねぇぞ?」


翔太

(目をそらしながら)

「……すんません。」


圭吾

「何か言うことあるだろ。」


翔太

「……俺、やります。最後まで。自分の役。」


緊張がほぐれるが、圭吾だけが複雑な表情。



〇 カフェ(夜)


ゆい子と圭吾が向かい合って座っている。ゆい子から誘ったようだが、話は進まない。


ゆい子

「圭吾くん、最近…冷たくない?」


圭吾

「そうか?」


ゆい子

「もえさんのこと、好きなんでしょ。」


圭吾、驚いたように沈黙。


ゆい子

「ごめん、言いたいこと言っちゃった。

でも知っちゃってるんだもん。」


圭吾

「……ごめん。」


ゆい子

「別に謝ることじゃないけど。。」



〇 公園(夜)


もえとあこが缶コーヒーを手に並んで座っている。肌寒い。


あこ

「みんな、ちゃんと自分の気持ち言っててすごいよね。」


もえ

「そうかな?みんな、

“ちゃんと”なんて言えてないよ。私も。」


あこ

「気になってる人いるんでしょ。」


もえ

(驚く)

「え……なんで、そう思ったの?」


あこ

「……わかるよ。だって私も同じだから。」


静かに視線がぶつかる。

もえは笑ってみせるが、あこは複雑な表情



〇 稽古場(翌日)


ペアでダンス練習中。もえと圭吾がペアになる。ゆい子がそれをじっと見ている。


力丸(心の声)

「この空気、音にならない不協和音みたいだ。」


もえ(劇中セリフとして)

「心が揺れても、身体は一緒に動いていた

──それが、愛のはじまりだった。」


圭吾がそのセリフに目を見開く。動きが止まる。



〇 リハーサル終わりの帰り道


翔太とゆい子が一緒に歩いている。気まずい沈黙。


翔太

「圭吾さん、あんなにわかりやすく動揺すんの、

珍しいっすね。」


ゆい子

「……見たくないよ。

もえちゃんも力丸くんも圭吾くんも」


翔太

「うーん、みんな色々な感情がぶつかってって。

でもぶつかってるだけいいのかなとか。」


ゆい子

(苦笑)


翔太

「……俺、ゆい子さんの声、好きっすよ。

嘘ついてない。」


ゆい子、一瞬立ち止まるが、何も言わず歩き出す。



♪挿入歌(コーラス:力丸・もえ・翔太・ゆい子)


🎵「僕らはまだ ハーモニーになれない

 音と音がぶつかるたび

 自分のキーを見失ってしまうけど──

 それでも舞台(ここ)に立つ

 その理由だけは 消えないから──」



〇 稽古場(夜)


稽古が終わったあと、力丸が圭吾に声をかける。誰もいない。


力丸

「圭吾。……お前さ、もえのこと、好きなんだろ。」


圭吾

(沈黙のあと)

「……ああ。ずっと、見てた。

でも、手を出さないって決めてた。」


力丸

「それ、俺に気を遣ってるってこと?」


圭吾

「お前のこと、尊敬してる。嫉妬もしてる。

……だから、余計ずるくなってた。」


力丸

「だったら──」


圭吾

「だったら何だよ。」


一瞬、空気が張りつめる。静かにカットアウト。

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