第2話【P.T.O.】推しの正体が幼馴染だったなんて聞いてない【正体バレ① 続】

俺は急いで“音瀬しずく”に電話をかける。


プルルル……


早く出ろ……!!!


「もしもし? なに?」


「いいか、落ち着いて聞け。いいな?」


「は? な、なによ……?」


「お前はVTuber“ドロプレット軍曹”だな?」


「ひゃいい!? なななななななに言ってんの!? そんなわけ……!!!」


なんか俺、どっかの名探偵みたい。

いやそんなことより___


「事情はあとで話す! お前、今配信切り忘れてるぞ!!!

わかってるかと思うが、文化祭のスクリーンでも映りっぱなしだ……!!」


「…………っ!? ……うそ……これ……まだ……っ!?」

突然、アバターが跳ねるように動いた。


「配信、切れてない……!? やば、やばい、ちょっと……!」

慌てた操作音。


ぶつっ──


その瞬間、配信が切れた。

画面が暗転し、コメント欄だけが数秒、静かに流れ続ける。


配信は切れたものの、電話はまだ通話中。

「ていうか陽翔PAでしょ!? 気づいたんなら、せめて文化祭のスクリーンはけしておいてよ!!!」

……たしかに。


「でも俺だって呆気に取られてて、それどころじゃなかったんだよ……!」

「とりあえず、身バレは避けられたっぽいな……よかった……」


「陽翔には……バレた……」


「……とりあえず学校に来い。」


「わかった……」


「今回は、P.T.O.──“パンツ・トラップ・オペレーション”、失敗だな……」


「だまれ!!!」


プツッ

電話が切れる。


……気づいてるのは、この会場で、恐らく世界で――俺だけだ。


「……マジかよ……」


膝がガクガクして、座っていた椅子の肘掛けを握りしめる。

まさか、こんな形で“推し”の正体を知るなんて。

VTuber“ドロプレット軍曹”は、俺の幼馴染“音瀬しずく”だった。


中学の文化祭で、しずくがスカートで転んでしまったとき、

俺が瞬時に音響トラブルで“音を消した”──

そのとき、しずくが感謝の意味で勝手に名付けたのが、

あの謎の作戦名“P.T.O.”。

パンツ・トラップ・オペレーション。


それを、さっきしずくは口にした。


あれは、俺としずくにしか通じない暗号だ。

間違いない。

――確信に変わった。

これが、俺の文化祭“第一の正体バレの衝撃”だった。

___そう、まだ“一つ目”。


「……真中くん」


PA卓の横から声がして、ハッとする。

司会を務めている早乙女ひなたが、スマホを片手に話しかけてきた。

今思えば、この時の早乙女ひなたの提案は、断っておくべきだった。


今年の文化祭は、騒がしすぎる結果となるのであった……。


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