ラズ・ヒューのスキル

「それを知って、どうする?」

 ラズはルロナに問いかけた。

「別にどうもしませんよ。ただまあ、気が変わる可能性もありますけれど」

「ふむ…」

 ラズは足を止めずに、顔を前に向けたまま続ける。

「原初のスキルの一つ…『調律の輝き』は知っているな」

「ええ」

「私は『予知』のほかに、その『調律の輝き』の二つのスキルを持っているんだ」

 ルロナは驚いた。スキルを奪える自分とは違うこの者が、スキルを複数持っている事実に。ラズはそのことについても説明した。

「そもそも、スキル持ちは珍しい。二つ持っているとなると尚更…。しかも其の内の一つは原初のスキルだ」

 おそらく、二千年に一度いれば多いような確率だろう。ルロナが横目で見ていると、それにラズも目線を合わせた。

「しかし、スキルは人間に元々備わっている力ではない。所持する数が増える程、魂へのダメージが蓄積する。君のように、二つの魂を所持していない限りは…」

「…!あなた、やはり…」

 なんとなく分かっていたことだが、ラズはルロナが転生者であることや、原初のスキル『力の渇望』を所持していることを把握しているのだ。

「そう焦るな。君がして来た事も、これから何をするのかも、他言はしない」

「……。それで、あなたの持つ『調律の輝き』の能力を教えていただけますか?」

「ああ…いいだろう」

 ラズ曰く、大気と光を圧縮し、自在に操ることができるらしいのだ。先程の鞭のような攻撃のほかにも、空気砲や剣として使うこともできるらしい。それに…敵の体内で空気を圧縮し、それを発散させれば…。

 ふと、ルロナの頭に疑問がよぎった。大気と光さえあればスキルを発動させることができる。ということは、ほぼ無条件で相手を即死させることが可能なのだ。それなのに、なぜわざわざ鞭なんて殺しに非効率的な手段をとるのだろう。

 あえて力を加減しているのか、それとも、力の行使に何か代償があるのか…。

 そこまで考えて、今はその時ではない。と判断し、ルロナは作戦に集中することにした。


 魔王軍の各拠点にはそれぞれ司令塔が存在する。そこさえ潰せば、魔王直属の部隊以外は総崩れするはずだ。

 道中の魔物をなぎ倒し、四人は進んでいく。いまだにケイスに関することはよく分からないが、ラズとの距離感を見るに、裏切るような事はないはずだ。

 この作戦を失敗するわけにはいかない。重い責任とプレッシャーとは裏腹に、ルロナの顔には笑みが浮かんでいた。

 魔王軍の司令塔となれば、かなりの実力者であることは間違いないだろう。実力者ならば、スキルを持っている可能性も高い。

 確実に自分が殺す。先走る思いを抑えているはずが、ルロナの目は大きく見開かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る