反撃開始

 朝早く、ルロナとファレナ、ラズとケイスは王都を出発した。

 そこから1日半かけ、魔王軍の極東拠点へとたどり着いた。四人は物陰から様子を見る。特に動きはなく、監視係だと思われる飛行型の魔物も、地上へ目を向けてはいない。

「此れなら、少なくとも侵入は容易だな」

 ラズは笑みを浮かべる。その隣で、ケイスも頷いている。ラズはファレナへ目を向けて言った。

「では、ファレナとやら。お前の力を見せてくれ」

「へ!?」

 ファレナは目を丸くし、敵の拠点とラズ、ルロナの順に視線を移す。

「ル、ルロナ…。どうしよう…」

 そんなことを聞かれても「とりあえず、あなたの思うようにやってみては?」と答えるしかないだろう。ファレナは目を瞑り、杖を強く握りしめた。

 そして、目をカッと見開き、立ち上がった。

「やってやるわよ!」

 杖の先を拠点に向け、魔法を唱えた。

「ウォーターアサルト!」

 すると、すさまじい量の水が、高所から落ちる滝のような勢いで敵拠点へ向かっていく。

 大きな門を突き破り、建物の内部へ侵入する。怒号や叫び声が周囲に響き渡り、その様子を見たラズは感心したように言う。

「水責めか…。成程。ただ建物を破壊し、馬鹿正直に真正面から戦闘するよりも、水で相手の動きを制限し、効率的かつ確実に敵の数を減らした方がいい。自信なさげだった割に、上出来じゃないか」

「へっ!?あ!どうも!」

 そこまで深く考えていなかったファレナは、少し目をそらしながら引きつった笑いを作った。

 すると、ケイスが敵拠点側に目を向け、呟いた。

「来る」

 見ると、飛行型の魔物が水流を辿ってこちらへ向かってくる。ルロナも立ち上がり、ズボンについた土をはらった。

「さあ、私もちゃんと働きましょう!」


 ルロナが魔法を使って魔物を撃退していく横で、ラズは光り輝く何かを手のひらに出した。

「"調律の鞭"よ。薙ぎ払え」

 ラズがそう唱えると、"調律の鞭"と呼ばれたそれは、まさに鞭のようになり、黄金の軌跡が空を裂き、鞭と魔物の悲鳴が混じり合う。


 空の敵を一掃し、四人は敵拠点へ侵入した。

 内部は要塞のような作りになっていて、高頻度で敵とも遭遇する。しかし、一匹一匹は大した力を持っていないため、問題なく対処することができる。

 質素ながら強固な造りになっている廊下を駆け抜ける途中、ルロナは小声でラズに話しかけた。

「ラズさん」

「どうかしたか?」

「あなた、スキルを二つ持ってますよね?」

 その言葉を聞いたラズは、鋭い笑みを浮かべた。

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