奇襲
「皆さん、タイミングを合わせて行きますよ」
ルロナの呼びかけに、ニカリ、ニコリ、ファレナの3人は真剣な面持ちで頷く。
そして、相手の動きに一瞬の緩みが生じた。その瞬間をルロナは見逃さなかった。
「今です!」
四人の突撃に動揺し、反応の遅れたトカゲの魔物の首をルロナが斧で切り落とし、翼が邪魔になって狭い空間で思うように動けないアソに斬りかかる。
その背後では敵の岩の肉体をものともせずに短剣で追い詰めるニカリとニコリの姿があった。
ニカリとニコリは互いに視線を交わし「スキル発動」と唱えた。
すると2人の体を緑色の光が覆い、鏡合わせに立った。
「やろうか、兄さん」
「うん!覚悟しなよ!岩の人!」
そう言ってニカリが魔物に飛びかかる。魔物がそれを振り払おうと腕を上げた隙に、ニコリが滑り込むように右腕の付け根へ短剣を突き立てた。鋭い一閃、岩のような肉体が砕ける。
そしてそのニコリを対処しようとすれば今度はニカリが襲いかかる。岩の魔人はろくに対抗することもできぬまま倒された。
彼ら2人のスキルは「コンビネーション」。その場にスキルを持った2人が揃っているとき、お互いの思考を共有し、身体能力を飛躍的に向上させるという能力だ。それに加え彼らは素の身体能力もかなり高く、まさに鬼に金棒であった。
ルロナにとって、最大の武器であるスピードを活かせないアソは敵ではなく、戦闘は一方的な蹂躙となった。
ボロボロになったアソは壁によりかかり、ルロナを見据えた。
斧を手に持ち歩み寄るルロナ。アソに対抗する力は残されていなかった。
無言で振り下ろされた斧。鈍い音と共に、アソの頭蓋が砕け散った。抗う術もなく、彼の命は終わった。
アソの肉体が塵となって完全に消えてしまうと、ルロナを頭痛が襲った。つまり、スキルを奪うことができたのだ。
ー特別個体の殺害を確認。スキル発動。個体の固有スキル、蘇生を獲得ー
ースキル蘇生とは、殺されたときに一度だけ蘇ることができるスキルです。また、スキルの持ち主が変わった場合、回数はリセットされますー
それを聞いたとき、ルロナの口元が僅かに歪む。たった一度、されど一度、死を恐れる必要がなくなったのだ。そんな生命を超越した力を使えるようになって、ルロナが気持ちの昂りを抑えられるはずもないのだ。
しかし、彼の背後にはファレナがいる。なんとか抑え、ルロナは彼女の方へ向き直り、平静を装って言った。
「さ、2人と合流しましょう」
(今、笑った…?)ファレナは微かに違和感を覚えたが、それ以上に早くここを抜け出したい。という気持ちが先行し、深く考えることはなかった。
「そうね、早く行くわよ」
暗い空間から外に出ると、木々に遮られているにも関わらず、思わず目を細めてしまった。
そしてすぐに、周辺の緑が目を癒した。
「いやー!終わったねー!」
「そこまで苦労はしなかったね」
「お疲れ様です」
ニカリとニコリの2人とも、ここで別れることになっている。ルロナはもう少しこの特異点冒険者の力とスキルをはかっておきたかったが、諦めるしかない。
手を振る2人に背を向けて、ルロナとファレナはラクラの待つ街に向かった。
「意外とあっけなかったわね。ま、まあ、私は何もできてなかったけど…」
「いえいえ、ファレナさんがあそこで魔法を使っていたら、敵もろとも私達はやられていたでしょう。なので、ファレナさんが魔法を使うことがなくて助かりました」
「それフォローになってないけど…?」
冗談交じりの会話をしながら、傾く太陽を背に2人は歩いていった。
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