人質として囚われた姫騎士ですが、何故か敵国の皇女に溺愛されています
笹塔五郎
第1話 目的
『オルヴェスタ王国』は小国である――だが、その国にいる『
まだ十六歳という若さながら、王国においては『最強』と謳われた美しく長い金髪の少女――それが、レスティア・オルヴェスタである。
その名の通り、王家の血筋である彼女は王国の騎士としても活動しており、王国を守る象徴的な存在であった。
――そんな彼女が今いるのは、とある屋敷の中。
手足には枷をつけられて、鎖で繋がれた状態に加え、首にまで鉄製の首輪を嵌められている。
拘束された彼女は白を基調とした薄い衣服に身を包み、それでも毅然とした態度で待つ。
ほんの少し前まで、彼女は牢獄に囚われていた。
ここは王国の地ではない――『リズハイル帝国』の中心部、つまりは帝都だ。
帝国は王国に比べて国土も広く、兵力もまるで違う――まともに戦闘になれば、まず勝ち目はないだろう。
そんな帝国側が兵を率いてやってきて、要求したことはレスティアの身柄であった。
当然、王国内では帝国の要求に従うべきではないという声が多数であったが――仮に戦いとなればどれほどの被害を生むことになるか分からない。
帝国側の要求がレスティア一人であるのなら――決断したのは彼女自身だ。
「――すまない、少し待たせてしまったか」
そう言いながら、扉を開けて入ってきたのは一人の黒髪で赤目の少女だった。
黒を基調とした服は、何度か見たことがある――帝国の騎士の正装であり、少女の顔にも見覚えがあった。
少女はそのまま、レスティアの対面のソファに腰掛ける。
「ローネ・リズハイル――帝国の皇女様が、私に何か御用があるのですか?」
「もちろんだとも。何せ、君をここに呼び寄せたのは私の指示だからね」
「……? 私の身柄を求めたのは貴女、ということですか?」
「それは少し違う。正確に言えば――帝国側は確かに君の身柄を要求したし、目的もある。だが、阻止したのは私だ」
「それは、どういう……?」
全く意味が分からない――帝国は侵略国家として知られており、レスティアの身柄を求めたのは、帝国が王国を従わせるための人質としてだろう。
おそらくは皇族の誰かと婚姻を結ばされることになる――そこまで、レスティアもある程度予想はしていたことだ。
拒否をすれば、それを口実にして帝国が王国に侵攻を仕掛ける可能性だってある。
それだけの力が――帝国にはあるのだから。
いくらレスティアが王国内で最強と呼ばれた少女であろうと、それはあくまで王国内での話――無論、レスティアとてただ従うだけのつもりはなかった。
仮にレスティアの身柄を要求通りに渡したのに帝国が王国への侵略を行った場合――レスティアは帝国内で一人でも戦う覚悟でいた。
厳重な拘束は、それだけレスティアのことを警戒している証なのだろう。
「大方予想はついているかもしれないが、帝国が王国側に君の身柄を要求したのは、従う意があるかを確かめるため。断るようであれば、帝国は王国に対して侵略を行うことも辞さない――何とも過激な話であるが、ここはそういうところなのでね」
「――そうでしょうね。だから、私は要求に従いました」
「独断だったそうだね。さすがに『白雷剣姫』と呼ばれた王国最強の騎士がその身一つでやってくれば――警戒してそれだけの拘束を施すのも理解できる。自分達で言っておきながら、随分と慎重な者も多いのでね」
「……それで、貴女が私を呼び出した理由は? 帝国の目的と違う、というようにお見受けしますが」
「そうだね。君の身柄を求めたのは私の兄であり、その目的は君との婚約を結ぶことだ」
――やはり、予想通りというべきか。
皇族と王族の婚約によって、表向きには同盟関係を結ぶことになるのだろう。
だが、実際には王国を従属させるための人質。
(……?)
そこで、レスティアは違和感に気付いた。
目的は分かっていたことだが、つまりはローネがレスティアを呼び出した理由は、その婚姻を阻止するため、ということになる。
「貴女が私をここに呼び出したのはつまり、婚約を阻止するためである、と……?」
「そういうことになるね」
「それを阻止して、どうするというのですか?」
レスティアは覚悟を決めてここに来た――なのに、婚約を阻止されることになれば、それこそ帝国側に口実を与えることになってしまう。
「――まさか、それが狙いですか?」
レスティアが鋭い視線を向けると、ローネは小さく笑みを浮かべる。
「察しがいいようで助かるよ」
「っ、貴女に何のメリットが――いえ、貴女のことは私も聞いたことがあります。『
「否定はしないよ。私は戦いが好きだ――自分の強さにも絶対の自信がある。だが、君は私より強い」
「……?」
戦ったことのない相手だと思うが、何故かローネはそう言い切った。
だが、やはりレスティアの考えは当たっているようだ。
王国に対し、帝国は戦争を仕掛けるつもりなのだ――正確に言えば、ローネが戦う場所を作るために。
たとえば、ここでレスティアを始末すれば、それも可能となるだろう。
レスティアは小さく息を吐き出すと、意を決した表情で言い放つ。
「……戦いが好きだと言う割には、私を拘束したままなところを見るに、それほどまでに私を恐れているのですか?」
「私は君を恐れてはいないよ」
「ですが、こうして拘束をしたままに呼び出しているではないですか」
「体裁はあるからね。帝国は君を人質として迎えたという。けれど、君が理解している通り――その拘束も直に必要なくなる」
そう言ってローネは立ち上がり、レスティアの傍までやってきた。
顎の辺りに手を触れて持ち上げるような仕草を見せると、真っすぐと見下ろしてくる。
(……拘束されていても、この距離なら)
幸い、後ろ手の拘束ではない。
隙が出来れば――やれる。
「私と君が婚約をする――それが君のためにもなることだからね」
「やはりそういう――はい?」
レスティアは思わず、聞き返してしまった。
隙を窺っていたはずの彼女は今――誰よりも隙を突かれてしまった状況にある。
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