第六話:カーテンコール【語り手:M下ユメノ(一年生 十三歳)】 水曜日(昼休み)午後一時七分
今思うと私の夢、というか勘違いだったかもしれないんですけど……。
その日は、三時間目に英語の小テストがあったので、朝から教室の空気が張り詰めていましたが、テストが終わってしまうとみんな開放的になっていました。
四時間目が始まるまでの十分休みは、クラスでも地味でおとなしめな私でも、いつもよりテンションが高くて、仲良しのY橋ちゃんと窓際で楽しく話してたんです。
トイレに行きたくなって「一緒に行こ!」って誘ったら、「私パス?」なんて言うから、「裏切り者~!」って返して廊下に一人で飛び出しました。
そのまま小走りでトイレを済ませて(ちゃんと手洗いましたよ)、すぐに教室に戻りました。
何たって休み時間は十分しかないんで、その間ちょっとでもぼっちになるのは嫌だし。そこは必死なんですよね。
で、教室に駆けこんで窓側を見ると、Y橋ちゃんの姿は無くて、代わりに(ベージュ色って言うのかな?)窓にかかってるカーテンが、ちょうど人間一人分の大きさでこんもりしてるんですよ。
あ~、Y橋ちゃん、隠れて、近づいてきた私をおどかそうって作戦だな?、って思いました。
なので、ゆっくり音を立てずに近寄って行って(笑いをこらえるのが大変でした)、
「わぁ!」
って大声出して、両手でカーテンのこんもりを押したんですね。
そしたら、たしかにカーテンの中に誰か人がいる感触がありました。
私はニヤニヤして、Y橋ちゃんが出てくるのを待ってたんですが……反応がないんです。カーテンの膨らみが全く動かないんです。
「……や、Y橋ちゃん……?」
何だか申し訳ない気持ちになって来て、やんわりした感じで声をかけてみました。
けどやっぱり反応がないんです。
「……ごめんって。けどY橋ちゃんだって私にドッキリしかけるつもりだったでしょ? だから、おあいこというか何と言うかごめんってぇ……」
私がごにょごにょしてると、
「じゃあしたみせて」
カーテンの膨らみから、声が返って来たんです。
でも、Y橋ちゃんの声じゃない。
男子か女子か分からないような、無機質っていうんですかね? そんなスーーって一定のテンポの声なんです。
「へ? は? じゃあした?」
「した」
「下?」
「あなた、ごめんっておもってるんでしょ? それならつぐなわなきゃいけないよね?
じゃあ、そのおいしそうな舌、みせて」
一瞬で、不安な気持ちが身体全身に行き渡りました。
冗談で言ってるわけじゃないのが、声の雰囲気で伝わって来て、泣き出してしまいそうでした。
なんなの? なんで私の舌が見たいの? 舌を見せるくらいかんたんだけど、見せたらどうなるの?
だめだだめだ、見せてしまったらいけない気がする…………。
恐怖で色んなことをぐるぐる考えてたんだけど、ハッと気付いたんです。
今は休み時間で、ここは教室じゃん、ってことに。
クラスのみんながいるじゃん、ってことに。
私の周りは味方だらけで、カーテンの裏側で私に意地悪する誰かは一人なんだよ。
そう思ったら、だんだん腹が立ってきちゃって、
「誰か知らないけど、いい加減にしなよ!」
私は強めに言い捨てて、カーテンをつかむと、バッとめくったんです。
「え……」
そこには、誰もいなかったんです。
今の今までこんもりと膨らみがあったのに。
突き飛ばした時の感触を思って、右手を一瞬見てから目線を前に移しました。
カーテンをめくったことで、大きく現れた窓。
その窓に、私の背中越しの教室が映っていたんですが、
大勢いるクラスのみんなが全員、動きをピタリと止めて私の方を見て、舌をべろーんと出してるのが見えたんですよ。
私は大きく目を見開いて固まると、しばらく間を置いてゆっくりと振り返りました。
そこには、いつも通りの思い思いの休み時間を楽しむクラスのみんながいました。
そしてY橋ちゃんが教室に入ってくるのが見えました。
「Mピ?戻ってたんかよ?。なかなか帰ってこないから、まさか迷子になったんか、私がいないと何もできねぇなーしょうがねぇなーって感じでトイレに見に行ったらいないもんだから、教室に戻ったらあんたいるんだもんなー」
とか早口でまくし立ててくるんです。
私はとまどったまま、「ご、ごめん……」とわけがわからない謝罪をしました。
これが、私がこの前体験した異変です。
やっぱりこれって、ボケッとしてた私の夢か何かだったんでしょうか?
けど、今でも両手でグッと押したあのこんもりと膨らむカーテンの感触、誰かの柔らかい感覚が手に残っているんですよね……。
***
チヒロ:真っ昼間に見る夢を『白昼夢』っていうんだけど、これは一体なんだったんだろうな。
テンマ:夢にしては妙な生々しさがあるよな。けどこれは怖いと言うより不思議な話だな。
ユウ:そのカーテンに隠れる誰かは、M下さんの舌を見たかったんでしょうか……?
テンマ:う~ん……。ひきぬいて食べる? 飾る? 身につける?
ユウ:さっき一年の教室に行って、クラスのみんなにカーテンの異変について聞いてみたけど、誰も心当たりがなかったし、M下さんに向かってみんなで舌を出した事も、身に覚えがないって言ってましたよ。
チヒロ:覚えていないのか? それとも、そもそも舌出し自体やっていないのか?
テンマ:やってないってなると、やっぱ夢ってことになるよな。
チヒロ:いや、あの時、あの三時間目と四時間目の間の休み時間に教室にいたM下さん以外の全員が、
『別の誰か』
だったという可能性があるんだよ。
テンマ:うわ……それ想像したら、一気に不思議と言うより怖い話になるな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます