第三話:おまんま【語り手:Ⅰ原ミコト(給食調理員 二十三歳)】 火曜日(放課後)午後四時八分

 私、この春から給食調理員、いわゆる『給食のおばさん』として働くことになったんだけど、 初めての赴任先が、この靴ノ下中学校だったのね。

 給食調理員って、君たちの身近な存在だけど、一日のスケジュールって意外とわからないでしょ?



 まず全員で打ち合わせをして作業の確認をする(AM8:00)

  ↓

 手洗い消毒を念入りにする(AM9:00)

  ↓

 作業の工程表を見ながら指示通り調理をしていく(AM11:30)

  ↓

 生徒が運ぶ食缶に配食をする(PM12:00)

  ↓

 食缶を取りに来た給食係の生徒たちに受け渡す(PM12:30)

  ↓

 給食後、返却に来た給食係から食缶を受け取る(PM13:30)

  ↓

 食器の洗浄、消毒。そして調理場の清掃をする(PM15:30)

  ↓

 作業後の打ち合わせ(PM16:00)



 お昼ご飯の給食のために、朝から夕方まで時間がかかるの。

 それで、異変というと、働き始めた初日からあったわ。

「I原さん、これ、衛生帽の裏地に挟んでおいて」

 調理着に着替えているときに、主任からある物を渡された。それは、板ガムくらいの大きさの白いお守りだったの。

「主任、これは……?」

「うちの中学校だけだと思うけど、げん担ぎというか魔除けみたいなもんね。必ず入れておいてね」

 げん担ぎと魔除けって、正反対のような意味合いだよね……? 

 変だなぁ、と思ったけど、言われたようにお守りを衛生帽の裏地の折り返し部分に挟んだわ。


 その後、みんなで集まって打ち合わせをしてる時に、


「今日のおまんまはT中さんね。よろしく」


「はい。配膳までしっかりやります」

「I原さんにおまんまのことは教えておかなくていいんですか?」

「うーん……それはまだ早いわよ?。一年はしっかり勤めてもらわないと?」

「そうですね。失敗したらとんでもないですから」

みんなでこんな会話をしてるんだけど、私は、ちんぷんかんぷんだった。

「あの、『おまんま』って何ですか……?」

「いいのいいの。I原さんは知らなくていいからね?」

 主任にそう返されたら、それ以上何も言えなくて。


 それから始まった調理は問題なく終わって、給食の時間がきて、係の生徒に渡して。和やかに給食の時間が過ぎたわ。

 食器の返却が全て終わって、あとは片付けって時に、

「じゃあ、おまんま用意します」

 見ると、T中さんが四人分ぐらいありそうな大きなお茶碗を用意していたのよ。

 そこに、調理で残ったご飯をどんどん積み上げていく。

 蟻塚みたいな小山ができたところで、今度は生徒たちの食缶に入っている食べ残しの給食をかき集めて、小山お茶碗にべちゃべちゃと載せ始めた。

最終的に、お茶碗を載せたお盆からもはみ出るくらい、大きな残飯の塊のようなものができあがったの。

「おまんま、できあがりました」

 T中さんはそう言うと、脱衣ロッカーに行ってしまった。

 ん? と思っていると、白装束っていうのかな、白い着物をはおって、白い鉢巻きで目を隠した状態で戻ってきたわ。

 そして「お願いします」というと、主任が桶を持って来て、中に入っていた液体を、T中さんの頭からバッとかけた。

 あたりに臭いが立ちこめたから、それがお酒だってことがわかったの。

 全身お酒を被った白装束のT中さんは、「ありがとうございますありがとうございます……」 とブツブツつぶやきながら、小山お茶碗が載ったお盆を持つと、調理室の外へフラフラと出ていった。



「お達者で」

「お達者で」

「お達者で」



 主任をはじめ、残された先輩たちは口をそろえてそう言うと、頭を深々と下げた。私も見よう見まねで頭を下げたわ。


 頭を上げると、渡り廊下の方へいく白装束のT中さんの姿が見えた。


「えっと……T中さん、おまんま? をどこに持って行かれたんですか……?」

「さぁ。知らないわね」

「え?」

「知らなくていいことは知らなくていいのよ。


じゃないと、処分されちゃうでしょ?」


 何だかわからないけど、身体の奥がゾクリとして私は何も返せず黙っていると、主任が明るい声で言ったのよ。


「黙々とお仕事をこなしていれば大丈夫だからね。あ、そうそう。明日T中さんの調理や清掃作業、I原さんお願いね。

 明日はT中さん、高熱が出てお休みするから」


 それからしばらく経つけど、私はこの妙なルールに触れることなく、靴ノ下中学校で調理員を続けてる。

 ちなみに、衛生帽の裏地に挟む例の白いお守りだけどね。一度こっそり中を開いて見てみたことがあるの。


 そこには、誰かの黒くて長い髪の毛が何本か入っていた。


 これらの出来事って、あなたたちが探してる異変っていうので合っているよね……?



***


ユウ:調理員さんたちが給食を作ってくれる給食室で、こんな

謎の作業が行われていたなんて……。

チヒロ:この妙な配膳がいつから行われてるのかわからないけど、

やはり靴ノ下中学校には何かの存在がいるって思っていいだろうね。


テンマ:『おまんま』とやらの配膳をする給食調理員さんが渡り

廊下を歩いていったってことは、特殊教室校舎のほうだよな。

他の給食調理員さんたちに聞きこみするか?


チヒロ:いや、正面から聞いてしまったら何だか危険な気がする。


ユウ:I原のお姉さんにも迷惑がかかってしまうかもしれませんよ。

テンマ:そうだな……。ひとまず異変の一つとして留めておいて、

他の異変探しをしよう。


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