かごのなかのとりは
ここは◯✕県にある市立
深夜、四年生のとある児童たちが肝試しと称して学校に侵入した。彼らは全員同じクラスであり、肝試し参加者は十七名。
事前に窓の鍵を開けておいた一階の窓から侵入した彼らは、懐中電灯片手にそれぞれ分かれて探索を始めたのだ。
彼らの目的は、学校の七不思議である。
従来のものではなく、この学校には一風変わった七不思議があることで有名だったので、彼らはそれを見に来たのだった。
だが、残業の息抜きとして巡回していた、松田という彼らのクラスの教師に見つかった。
そこから、生死をかけた校内鬼ごっこ及びかくれんぼが始まったのだ。
まず最初の犠牲者は、長谷川という少年。松田に見つかり逃げていたが追いつかれ、背中をハサミで刺され失血死した。
その際一部始終を見ていた二人の少女、長良と逢乃はあまりの恐怖に逃げ出して、出会った仲間たちにその事を話し松田への警戒を呼びかけた。
「先生がやった。ハサミで、長谷川くんを刺したの」
その言葉が、彼女達の遺言となった。彼女達が話していた少年――吉河の視界に、鮮血が舞った。
彼女達の背後からその松田が音もなく気配もなく迫っていたにも関わらず、血に染まった顔と鋭い視線を受け全く動けなかった。
不思議そうな顔。それが、長良の最期の表情。背中を刺され、痛みで悶えているところに心臓を一突き。
彼女が刺されたことで、吉河の身体はやっと動き出した。逢乃の手を引き、松田に背を向け逃げ出す。
だが逢乃の足は縺れ、地面に倒れてしまった。そのすぐ後ろには、血まみれの姿でハサミを持ち追いかけて来る松田の姿。吉河は歯を噛み締めて、全速力でその場から逃げ去った。
おいて行かれた逢乃は、泣くしか無かった。転んだ際に足を打ったのか、痛くて立ち上がれそうにない。たとえ立ち上がれても、松田に追い付かれて死ぬしか無い。まさに、一巻の終わりだった。
松田は「可哀想に。怪我はない?」と言いながら、ハサミで彼女の頸動脈を切り裂いた。
✻ ✻ ✻
「だ、だからやめよって言ったじゃん……」
「はぁ?なんだよ神木、ビビってんのか?見つからなきゃ大丈夫だって」
「そうよ陰キャ。将司の言う通りよ」
「う、うん……」
暗い廊下を、将司と呼ばれた少年――鷹狩を先頭にした三人が、懐中電灯で足元を照らしながら歩いている。
鷹狩の右腕にしがみつくようにしている金髪の少女は宮舘。鷹狩の恋人である。
その後方で怯えたように身をかがめながら震える少女が神木。皆とはぐれて以降鷹狩と宮舘と合流して、共に行動していた。
「七不思議、何があったっけ?」
「この近くにあるやつだと、何だっけ陰キャ?」
「え、私……?ええと、音楽室の
『音楽室の
彼らは音楽室の近くの廊下を歩いており、確認のために向かうのは容易だった。
「確か鳴り始めるのは深夜零時……まだまだあるな」
「どうする?」
「音楽室で待っとくか」
そんな会話を続けているうちに、三人は廊下を進み音楽室の表示がある教室へと辿り着いた。
鷹狩がガラガラと引き戸を開ける。途端、宮舘の顔に鮮血が飛び散った。生温かい感触と鈍い鉄の臭いにより、目の前で起こった出来事を脳で処理出来なかった。
「……は?」
気の抜けた声が半分開いた口から漏れる。横で鷹狩の身体が糸の切れたマリオネットのように力なく崩れ落ち、グチャッという音が鼓膜を揺らした。
うつ伏せに倒れた彼の喉元をハサミが貫通し、生々しい傷跡が生まれていた。
「あ……あっ……!?」
声すら出せないままに、宮舘の身体が震え始める。眼前に迫った死の恐怖によって、喉を潰されたかのように嗚咽のようなうめき声が溢れる。
後退りする彼女の肩に手を置く人物。彼女の身体を壁に押し付け、手に持った銀色に光るハサミを首元に突き立て、白い皮膚を刺すようにして切り裂いた。
壁に縋り崩れる宮舘。頸動脈から噴出した紅い血が、周囲にベッタリと付着した。
白に赤い花が咲くかのように、大量の鮮血によって赤く染め上げられたワイシャツ。ポケットからハンカチを取り出して、顔に付いた血を拭う男――松田。
宮舘の首を突き刺した後、音楽室の外の廊下に視線を移した。だが、先程まで視認できていたはずの神木の姿が、跡形もなく消えていた。
松田は宮舘の死体からハサミを抜き、ハンカチで血を拭き取って音楽室から出ていった。
その様子を、グランドピアノの陰で身をかがめ隠れ見ていた神木。隙を突いて音楽室に入り込み隠れた彼女は、安堵に胸を撫で下ろした。
✻ ✻ ✻
五人死亡
廊下――長谷川、長良、逢乃
音楽室――鷹狩、宮舘
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