このツインテールは兵器じゃないです!ビリっと電気を放つ髪の毛のせいで実験体に?!―人体実験に使われた少女―

飢杉

あなたは自由を手に入れてほしい

――雷鳴が、世界を割った。


爆発音。鉄を焼く焦げ臭さ。


蒸気と煙が混ざる地下実験室に、スパークが走る。


「警戒区域Bで暴走発生!第七実験体が脱走!隔離急げ――ッ!」


どこかの警備員の絶叫が遠くで響いてる。


でも私には、関係ない。


だって、私は雷電 祭(らいでん まつり)


――生まれながらの失敗作。


けれど今だけは、誰にも止められない。


だって、これが私の“選んだ雷”だから。


だって私、兵器じゃなくて人間なんだからさ!!



***――――――***



「“自由”ってさ、なんなんだろうね」


電気も通らない分厚い鉄の壁に、私は頬をくっつけてつぶやいた。


返事なんてないのは、分かってる。


ここは喋っちゃいけない場所だもん。


でもね、喋らないと…怖くなるんだよ。


誰かの叫び。薬品の匂い。


冷たい床。あれこれ考えちゃうじゃん。


私は“失敗作”なんだって。


研究員たちはそう言った。


「第七実験体、制御不能。情緒不安定、能力暴走傾向あり」


――まるで病名みたいだよね。


でもさ、電撃を出すだけで“壊れ物扱い”されるの、正直ムカつく。


「おかしいよ、ぜったい。ちょっと雷が出たくらいで」


私はぶすっとしながら、ツインテールを引っ張った。


前にね、怒ったら警備員のズボンが燃えたことある。


あれ、ちょっと楽しかったな。


…まあ、そのあとで思いっきり叩かれたけど。


それでも。


あのときだけは、ほんのちょっとだけ、“自由”だった気がした。


***



「喋るなって言ってんだろ、クソガキが」


警備員が鉄棒で檻の柵をガン、と叩いた。


スパークが一瞬走るけど、すぐ消える。


私の中にある電気は、無限じゃない。


怒りと連動してるっての、研究員たちは分かってるみたい。


「…怒らせたらどうなるか、忘れたの?」


睨みつけてやった。


けど、あいつはニヤッと笑って去っていく。


あーもう、ムカつく。


ああいうやつに限って、いざって時は一番最初に逃げるんだ。


私は鉄格子のすき間から、通路の先を見た。


…その向こうに、いた。


灰色の髪。肌は雪みたいに白くて、クマがひどく、目は灰色だ。


静かに座って、こっちを見てる。


「ねえ、そっちも檻?」


「そう見えるなら…、そうかもね…。」


「…意地悪っ!」


思わず声が出ちゃった。


けど、その子はくすっと笑った。


それが妙に人間っぽくて


――研究所に来てから、初めて見た“普通の笑顔”だった。


「アンタ、名前は?」


「高台 暗(こうだい あん)。No.6…。」


「雷電 祭!実験体No.7!ビリっとツインテールがトレードマーク!」


ツインテールをビシッと指差す私に、暗は小さくうなずいた。


「あなた…、失敗作だって…噂の。」


「うっわー……いきなりそれ言う!?」


私はガーンと肩を落としつつ、でも笑った。


こいつ、性格悪いけど、妙に気が合いそうだ。


それから、私たちは“隠れて話す”仲になった。


「…もっと怒ったほうが…いいよ。」


「なんで?」


「怒ると雷が…出る。使いこなす…ここのやつら…一発。」


「簡単に言うなって……。私、コントロールできないんだよ。


 怒ると、勝手に出ちゃうんだよ……」


そのとき、暗の目がほんの少しだけ、柔らかくなった。


「……それで、出せる…って…。なんで失敗作…。」


「?」


「私…、最初から…“成功”。何にも感じない…調整された。


 喜…怒…哀…楽…訓練。あなたは“感情”…ある。――それ、…羨ましい。」


その言葉、胸にグサッときた。


だってさ、私はずっと、失敗作で、


欠陥品で、怒ると周りに迷惑かけてばっかりで――


でも、羨ましがられたの、初めてだったんだ。


その日、研究所はいつもより静かだった。


朝の注射も、無言で、機械的に済まされた。


看守も目を合わせない。


研究員は一言、「午後、実験体No.6を移送」とだけ言って消えた。


……No.6。暗だ。


「移送」ってのは、要するに“黒い竜の組織”って呼ばれてる場所だ。


行ったやつは、帰ってこない。


「暗…。」


私は、鉄格子越しに声をかけた。


「…平気。私は…成功作。黒い竜の組織に…拾われるだけ。」


それ、いつもの暗だった。


冷静で、綺麗で、笑わない。


だけど私には分かる。あれは、強がりだ。


「行かせない!黒い龍の組織ってなんなの!?」


言葉が勝手に出た。喉の奥から、勝手に湧いてきた。


「行かせない!行かせないってば!!」


私の胸の奥で、パチパチと音がした。


心臓じゃない。――雷だ。


バチッ!!


檻の柵から、火花が弾け飛ぶ。


警備員が慌てて叫ぶ。


「沈静剤を用意しろ!」


「させないって言ってんの!!」


ゴウッ!!!


私のツインテールが光に包まれる。


バチバチっと。


雷鳴が、檻の中で炸裂する。


研究所中の照明がバチバチと弾け、サイレンが鳴り響く!


“暴走個体、確認。雷電エリア、緊急封鎖”


そんなアナウンス、聞こえない! 


私には――ただ、怒りしかなかった!


「暗を、助ける!!」


床が砕ける。壁が黒焦げになる。


警備員たちが次々に吹き飛ぶ。


私は、進む。ただ真っ直ぐ、実験室へ――


鉄扉の前に、立ちはだかる警備員。


「止まれ! これ以上暴れれば、命の保証は――」


ドン!!!


雷が警備員を吹き飛ばす。


言葉なんて、いらない。


感情が、電流になって溢れ出してる。


私は、扉を開けた。


そこに、暗がいた。


手足を拘束され、白い手術服を着せられて、


無表情なまま――こっちを見た。


「来たの…?」


「来たよ!!」


暗の目が、ほんの少しだけ揺れた。感情の光が、そこにあった。


「…泣いてるの?」


「泣いてない!!」


私は笑って、そして叫んだ。


「私、失敗作って言われてた。


 でもさ、どうでもいいんだよ。


 誰かを救えるなら、怒れるなら――」


「それが、私の力なんだって!!」


その時――


――ピシャァン!


大きな音と共に、大地を揺らしながら…


研究所の天井を突き破って、


黒き竜の影が――視界を遮った。


大きな唸り声が私の耳に響いてくる。


「暗…?」


さっきまで…!


私の目の前で…!


笑ってたのに…!


「自由を手に入れて…そして、…また助けに来て!」


竜の向こう側から、暗の声が聞こえてくる。


自由…?


「私は、大丈夫。組織に…加入するだけ…。逃げて、祭!」


組織…?


「No7を捕まえろ!!」


追ってくる警備員。逃げなきゃ。


「祭、もう一度――あなたが“羨ましい”と思った。」


後で絶対…


黒い竜の組織から…


絶対助けるから!


私は――走った。


雷と、沈黙。


怒りと、冷静。


二人は対照的で、でも重なり合ってた。


爆発する廊下、鳴り止まない警報。


背後から追ってくる警備員たち。


バチバチッ!


でも、前だけを見てた。


出口は見えなくても――


扉を蹴破って、地上に出た。


夜空が広がっていた。


空気は、少しだけしょっぱい。


汗と血と、涙の味。


「自由…!」


夜空を見てた。


そして、空に向かって両手を広げた。


「私は雷電 祭!! 


 ツインテールは兵器じゃない、自由の証なんだよ!!」


夜空がピカッと光った。


ツインテールの光と共鳴するように――


どこか遠くで、雷が鳴った。


だって、これが私の“選んだ雷”だから。




  雷電 祭の物語は、これから始まるんだ!!


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