一章
一話 龍英の龍姫
〜
この国ではサクラと呼ばれる花が散ることなく咲いており、その景色はとても美しいものだと呼ばれている。
龍英は『来るもの拒まず、去るもの追わず』を掲げており、他の国より追放された人を龍英に住まわせていると言う、それは鳥人や獣人、玄人も例外ではない。もっとも龍人は他族を好み争うことを嫌う種族であった。
かの四種族の分断時には、争いを止めようともしていた。しかし他三種族により、分断せざるを得なかった。当時の龍王は『
以降龍王は国を一つにまとめようとはせず、何らかの理由で国を追われる身になった他種族の受け入れを始めるのであった。
龍人は他を尊重する種族であり、とても温厚な種族でもあった。そのお陰で龍英に住む他種族とも良い交友を結ぶことができ、豊かな国を築くことが出来た。しかしながら国を一つにまとめ『
時は四国分断時より500年 創暦1500年
ここ龍国『
─『
「姫様ー!!どちらに居られるのですかー!!」
メイド服を着た女の龍人『
「まったく姫様は、お勉強もしないでどちらへ……」
「おや?芽瑠ではありませんか?どうしたのですか」
芽瑠が振り返るとそこには腰に刀を携え、黒いスーツを纏った男の龍人がいた
「あ、
「姫様?……申し訳ありません。僕はお見かけしておりません」
芽瑠の質問に答えたこの龍人、名は『
龍国『
「また何か問題でも?」
「まだそう言うことにはなってないと思いたいですぅ」
「もしかするとまた城下町の方に行かれたのではないでしょうか」
「あわわわわ、何かが起こる前に見つけないと!!急いで城下町に行かなくちゃ」
慌てふためく芽瑠。そんな芽瑠を落ち着かせようと声をかける鋭輔
「慌てるのはよくないですよ芽瑠。周りを見て行動してないと……」
「え?あわわわわー!!」
バシャーン
足を滑らした芽瑠は庭園の大きな池の中に。
幸いそれほどの深さはなかったので服が濡れる程度で済んだのだが
「うぇええん、ひめぇざま〜どごぉぉぉ。みつけないとメイドちょうにぃおこられるぅぅぅ〜。というかふくぬらしたじてんでおこられるの確定だよぉぉ〜」
主は見つからず、池に落ちる。そしてどう転んでも確実に上司に叱られると思ったのか、赤子のように泣き始めた。
「はぁ……、やれやれですね。しかし何事も起こらなければいいのですが」
空を見上げ、流れ行く雲を見つめる鋭輔は、行方知らずの『姫』がまた何か問題を起こすのではないかとしみじみと感じていた。
─同時刻『
「♪〜♪〜」
少女は片手に三色串モチを持ち、紺色のセーラ服を身にまとい、浅紫色の髪をなびかせながら、鼻歌交じりで街を往く。頭の上に生えている琥珀色の角は彼女の横を通り過ぎる龍人たちの目を奪う
「おっ!姫様お散歩かい?」
「あっ、
この少女こそこの龍国『龍英』の
「今日は天気もいいし、はぐっ、ほひはへはばはほはんほひへふほ」
「いや姫様モチ食べながらだと何言ってるか分からないよ」
「んは!?……ごくん………ごめんごめん。今日は天気もいいし、モチ食べながらお散歩してるの」
「ははっ姫様は相変わらずだねぇ。そら今日取れたモモだ!持ってってくれ」
「え!?いいの!!ちょっと待ってて縁出すから」
「いいんだいいんだ。姫様には来ないだ山野を運んでくれたからそのお礼だ」
「え!?……おじさん、経営大丈夫?」
「はははっ、姫様が、いつも多く縁を払ってくれるお陰で店を閉めなくてすんでるんだよ」
そう言って山野屋の店主は青蘭に言い聞かせた。
「この国の店はみーんな姫様が支援してくれるお陰で店を閉めなくていいんだよぉ」
「いやでも
「その余縁が多いんだよ。そのお陰でみんな楽しく生きているんだから、姫様は気にするな」
「…………ふぅ、ありがとうございます」
青蘭は自分がしてきていることが
「あ!!
「こ、こら姫様をそんなふうに呼ぶんじゃないよ!! すみません姫様うちの子が」
「あら姫様、この前はお庭のお掃除手伝ってくれてありがとうね」
「姫様!!店の手伝いしてくれてありがとよ!!お陰で今やうちの店は大繁盛だよ」
と街の龍人たちからは沢山のお礼の言葉が贈られていた。そんな言葉に青蘭は
「ふふっ、
と満面の笑みで答えた。しかしその笑みはこの街の龍人にとって、縁では買えないものだと言うことに当の本人は気づいていない。この街にとって、いやこの国にとって
その時だった。大きな爆発音が聞こえ、こちらに向かって一人の龍人が走ってきた
「たっ、助けてくれ!!また反乱が起きちまった!!」
その一言で和んでいた場が一気に冷めてしまった
「な、何だって!!」
「また、龍英で反乱が起きたなんて」
周りの龍人が慌てふためいている中
「じゃあ
と青蘭が、まるで「部屋の掃除は任せて」と言わんばかりに言った
「で、でも姫様に何かあったら」
怯える龍人たちをよそに、長い浅紫色の髪を後頭部で束ねながら
「みんなも知ってるでしょ?
と自信満々の笑みで爆発音が聞こえた方に方角を変え、龍人たちが瞬きをする合間もなく刹那の如く目の前から消えてしまった。
「は、はへぇ…………」
その場にいた龍人たちは目を見開いたままその場に立ち尽くしていた。
─三十刻後 龍守隊隊舎 隊長室─
「はーはっはは、姫様は今日も行方知らずか」
大笑いしているこの大柄な龍人は龍守隊隊長
「笑い事ではございませんよ隊長」
龍守隊隊舎に戻った鋭輔は隊長である操弥に姫である青蘭が城を抜け出したことを報告していた。
「いやぁ〜すまんすまん。姫様が城を抜け出すなんて何時ものことだがよぉ。おりゃ笑っちまうんだよ」
「そんなこと、わかっておりますよ。それよりも巡回中の兵にこのことを伝達いたします」
「おお、そうだな。鋭輔よろしく頼むよ」
「では、これにて僕は失礼…」
『失礼します』と鋭輔が言おうとした瞬間、隊長室の扉が勢いよく開き
「た、隊長!!報告します!!」
一人の龍守隊員が慌てふためいた様子で入室した
「どうしたのですか?そんなに慌てて」
「ふっ、副隊長もご一緒でしたか!!……そ、それが龍兵街で…………」
「何だって?」
─二十刻前 『龍兵街
龍兵街にある『四種通』と呼ばれる区画では文字通り四種族が共同で生活している区画であり、様々な店が並んでいる。もちろん他種族が暮らす住宅街でもある。
「龍山将軍の怠慢を許すな!!」
「我々龍人の力を見せるべく三ツ
「他種族どもよ!!龍英から出ていけ!!」
「今よりここは我々『
撃龍軍と名乗る龍人が数十名、店や
「龍守隊など恐れるに足らん!!この俺、
「ひいぃ…り、龍人は温厚な種族ではなかったのか!?」
怯える老年の
「おやおや、観光か商売で来た
「いやぁぁ、縁なら払う!!だから命だけは!!」
「富のことしか頭にねぇジジ
「ひいぃぃぃぃぃ!!」
和火斗は喉元に突き立てていた刃を押しこもうとした次の瞬間……薙刀は空中に舞っていた
「っ!?…ってめぇ何しやがる!!」
「そっちこそ玄人のおじいちゃん相手に刃物を突き立てるなんて……駄目だよ♪」
薙刀を飛ばしたのは目の前に現れた紺色のセーラ服を着た浅紫色の髪をした龍人の少女
「てめぇは龍山青蘭!!何しにきたぁ!!」
「あなたたち………げ……えーっと、あ!
「いやちげぇよ!!影画組ってなんだよ!!娯楽影像撮りに来た集団じゃねぇよ!!撃龍軍だ!!」
「あ、撃龍軍ねぇ………。ダサくない?」
「っぅぅぅぅ~!!!!!もういいぶっち殺すぅぅ!!!!」
青蘭の「ダサくない?」の一言に和火斗は怒りをあらわにした。
「あちゃー、『
〜『
『逆鱗』とは龍人に許されし能力であり、自身の抑えきれない怒りによって生み出される力である。力を解放すると通常時の約2倍ほど身体能力が上昇する。精神力が弱い龍人ほど『逆鱗』を発動しやすいが暴走しやすい。また『逆鱗』が発動しにくい龍人ほど高い効果を得られると過去には記されてもいる。
『逆鱗』の発動後身体には特に異常は起こらないが、『逆鱗』発動してしまえば目の前の敵を殺すか自身が戦闘不能にならない限り止めることは出来ない。
「殺ス殺ス殺スコロスゥゥゥゥ!!!!」
「あれ?もしかして暴走しちゃったのかな?」
和火斗は一心不乱に青蘭を目掛けて拳を振りかざす。目にも止まらぬ拳は、逃げ惑う人々や仲間を恐れさせた。一人を除いて
「あははっ、遅いね〜」
「ぐぅ〜。ぐがぁぁぁぁ!!!!」
まるで落ちる花びらを避けるように拳を避ける青蘭
「動き遅くなってきてるよ~」
「うなぁ!?」
「それじゃあ……
青蘭は一瞬の隙を見極め懐に入り、和火斗の腹部に右手を添え
「
衝撃波を放つ、数秒硬直したのち和火斗は後方にいた部下全員を巻き込みながら吹き飛んだ。その威力は凄まじく100離程(100m程)離れた位置まで撃龍軍たちは飛んでおり、店や家屋についていた火は消し飛んでいた。
「あちゃー、加減間違えちゃったかな〜。ま、いっか」
「お、お嬢ちゃん……大丈夫かい?」
青蘭の後ろにいた老年の玄人は恐る恐る尋ねた
「私は大丈夫です!!それよりおじいちゃんの方こそ怪我はない?」
「あ、ああ大丈夫だよ」
「よかったぁ〜。あ!!それより急いで道の修復しないと、パパや弟君たちに怒られちゃう」
そう言って青蘭は自分が壊したであろう道と四種通の復興を始めるのであった。
これは
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