第7話 let's dancing!

俺たちが近づくとスイッチが入り、一聴してエルフ王ミハエル様のそれとわかる、低くて荘厳な声が響き渡った。

『最初の関門はエルフダンスだ。

 下のマットに書いてある所定の位置に3人並べ、モニターの通りに踊ってもらう。

 なに、1人や2人で来た?

 結婚するのにも連帯保証人が2人必要なのに、仲間を募れない奴など碌な者ではない』

クロード「前に来た時にはこんなのはなかったのに…本当に4人で来て良かったなあ」

ボブ「妊娠してるアナベルに踊らせるわけにはいかないから、男3人でやるしかないね!」

コーディ「よっしゃ」

うわー!

こんなことなら、昨日カメリア姫と一緒にダンスレッスン受けとけばよかった!

いや、初対面の庶民が姫様と一緒にレッスンを受けられるわけもないか。

でも、数合わせ的とはいえ、ちょっとは役に立てるんだ。

ボブ「俺は運動神経はある方だから構わないけど、2人は自信は?」

クロード「あまり自信はないけど、このかっこよさでおまけしてもらえないかな?」

ボブ「おいおい…」

コーディ「でもまあ、ダンスに見栄えは大事だよね。

     俺も体力も経験もないけど、モデルで培ったセンスでなんとか…」


3人が所定の位置につくと、モニターにお手本役らしき、可憐な3匹の女エルフが映し出された。

その膝上丈スカートから覗く生脚の不意打ちに、ボブ王子は堪らず…

「むほーっ!」

アナベル「なによボブ! 私のこと面食いみたいに言っといて自分は!」

ボブ「い、いやいや、コホン、俺だってアナベルと同じなのだよ。

   美形に目は奪われても、身も心も綺麗で、自分への愛情がある相手が一番」

アナベル「ボブ…」

ボブ「ちょっと! なにニヤニヤしてんの?」

コーディ「いや、なんか若いなあと思って…」

クロード「ちょ、始まるよ!」


♩ズチャ ズチャ ズチャズチャズチャズチャ

 パパパパパパパパ パラパラパラパラパーラ

なんだこれ…

エルフだから綺麗で妖艶な感じかと思ったら、めっちゃ可愛い感じの音楽と振付だぞ…

30代の男3人でやる代物じゃねえ。

でも、こんな時に恥ずかしがると、姿勢や表情に翳りが出て、余計にカッコ悪く見えるのだ。

モデルだって⚪︎⚪︎コレクションとか大きい仕事に限って、これ服かよ?と言いたくなるようなイカれたデザインの服を着せられたりするので、俺は身をもって知っている。

色付き段ボールみたいな服を着せられたあの時の恥ずかしさを思えば

…こんなの、へのカッパ!

ボブ王子だってノリノリじゃないか

…まあ、女エルフのお手本にニヤついてるだけかもしれないけど。

クロードだって

…まあ、アイドルにでもなった気分で陶酔してるのかもしれないけど。


『おめでとうございます、クリアです』

終わった瞬間に一気に恥ずかしさが込み上げてきて、思わず顔を覆った。

コーディ「なんで36歳にもなってこんな…」

アナベル「でもさすがモデル、画になってたわよ。

     盗賊は向いてなくても、女性相手の詐欺師は向いてるんじゃない?」

コーディ「ちょ、姫様ぁ!」

ボブ「やっぱコーディさんに見惚れてる面食いじゃねえか!」

アナベル「キレはボブが一番だったわよ。

     一番楽しそうなのはクロードね」

ボブ「あ、なんだ、全員まんべんなく見てたの?

   じゃ、まあいいか」


2枚目の扉に進むと、脚部分がドラゴンの爪になっているいかついワイングラスが2脚並んでいた。

『どちらが高級ワインか答えよ』

ボブ「コーディさ〜ん」

コーディ「なんで俺なんですか!」

アナベル「まあ、だって、一番ワインを嗜みそうな見た目だし、妊婦の私が飲むわけにはいかないし、ボブは血しか飲まないもんねえ」

コーディ「あ、まあそうですよね…

     自分でも、ワイン飲めたらもっとかっこいい画が撮れるのに、って思いますし。

     でも悲しいことに、見た目と体質って別物なんですよ、俺は全然飲めないんです」

アナベル「えーーー!」

ボブ「人は見た目によらないなあ」

ほんと、こんな金髪に近い茶色の長い巻き毛で、化粧も服も派手で、おもむろに煙草持ってカッコつけてる奴が酒飲めないとか、悲しい…

コーディ「でもまあ、こっちの普通に飲みやすくて美味しい方じゃねえの?」

クロード「ふっふっふっ、逆ですね、こっちの渋味と酸味が強い方ですよ。

     ワインの値段は口当たりの良さではなく、生産量に対する需要で決まるのです」

ボブ「すげえ」

クロード「宿屋やってるとよく、お客さんに無理やり酒盛りに付き合わされたりするのでね」

アナベル「大変ねえ…」

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