第3話 クロードの励まし

食事はイカスミパスタやら、炭の入ったスイーツやらでやたら黒かったが美味しかった。

できればイカだけじゃなく、大好きなエビやカニも入れて欲しかったなあ。

「ボブ王子は…」

「んー、ヴァンパイアだから血しか飲めないけど、赤ちゃんに栄養を送らなきゃいけないアナベルから貰うのも気が引けるなって」

「だからって何も摂らないのは良くありませんよ、俺のをあげます」

それぐらいしかできないし…

「助かります。

 んっ、煙草臭いけど結構おいしいな、こりゃ間違いなく無罪だわ」

嬉しいけど…煙草までわかるんだ?!

てか、俺が本物の盗賊で血がまずかったらどうする気だったんだよ。

「さすが、姫様夫妻に唯一付き添ってる凄い方ですね」

「いーえ、俺は宮廷の裏口と宝箱を開けた解錠技術の凄い盗賊だと勘違いされた、旅にはなーんの役にも立たないただのモデルですよ!

 強いて言えば運転手と、ボブ王子のご飯!」

「ああ、エルフ王の扉を開ける為に…

 それなら是非とも僕を。

 解錠は我々魔法使いには初歩の初歩なので。

 ほら、この通り」

クロードがパチンと指を鳴らすと、俺の手錠が嘘のようにパカッと開いた。

「わあ、ありがとうございます!」

しかし、国王様が、盗賊だと思い込んでる俺にやむを得ず頼んで、その俺にもできずに悩んでた解錠が

…魔法使いには初歩の初歩か…


ボブ「本当にいいんですか?」

クロード「休業にするだけですからね。

     今は閑散期で予約もありませんし、こちらにもメリットのある話ですし。

     エルフ王様に、このまま永遠の若さと美しさをお願いしたいのです。

     まあ、今はなんとかなってますけど、34歳ともなるとキープが大変で…」

とは言うが、若くしてとかもっと美しくしてとかつけない辺り、なかなかの自信家だなあ。

アナベル「それこそ魔法でなんとかなるのでは…?」

クロード「そういったキープ系や回復系、ボブ王子への風評被害のようなものではない本当のお清め系などは魔法使いではなく、エルフの範囲の白魔術にあたるのですよ。

     不老となると、本当にエルフ王様ぐらいしかできないでしょうね」

ボブ「でも鍵は開けられるなら、さっさと一人で行ってお願いすれば良いのでは…?」

クロード「そうはいきませんよ。

     皆様、エルフ王様がどんな方か知っていますか」

コーディ「知らねえけど、壁を越えてこないと会えねえとか、ぜってー頑固オヤジだろ」

クロード「ミハエル様は31歳ですから、オヤジというほどではありませんよ」

コーディ「えっ?! わっか…」

ボブ「俺より1歳上なだけ…」

クロード「エルフ王の座は血統ではなく力で決まりますから」

ボブ「ヴァンパイアと同じか…」

クロード「だから外国の王族というだけでは顔パスでは会わない、何らかの実力を示せという感性になるし、外国人客に壁を越えさせるのは、まずは国内の民を助けるのに忙しいからなのです、偉い人とはそういうものです」

アナベル「たしかにそうかもね…」

クロード「そして、解錠すればいいだけの壁を越えても、その向こうには知性で解かなければならない扉が7枚もあるのです」

3人「えええー!」

クロード「エルフ王の魔法がかかっている扉は、魔法使いでもどうにもならず。

     途中で1つでも間違えれば最初の扉まで戻されて問題はシャッフルされますし、僕のような凡庸な知性の者が一人で行っても、とてもとても」

ボブ「たしかに4人で行った方が、よっぽど芽はあるね!

   でもクロードさん、アナベルに手を出したら打ち首ですからね!」

クロード「えっ、まあそりゃ普通に不敬罪でしょうけど…」

コーディ「あー、気にしなくて大丈夫、というか寧ろ喜ぶべきですよ。

     その発言、ボブ王子からのイケメン認定みたいなもんですから」

クロード「フッ、それはやっぱり誰が見てもそうですよねー」

なんだこの人…

俺でも、そのまんま自分かっこいい!とは言わないぞ…


話がついたところで、ダークでゴシックな部屋に案内される。

なるほど。

この宿屋の見た目や料理は、魔法使いっぽさを出す為に、敢えてダークな感じにしてるのか。

この国の宿屋は基本二人部屋。

ご夫婦の仲を邪魔する気はないので、もちろん俺は広い部屋に独り。

いつもの癖で煙草を手に取り

…ベランダに行こうとしてやめた。

今でこそ閉まっているが、万が一隣のお二人が窓を開けたら大変だ。

今は姫様のお腹にいらっしゃる次々世代の我が国の元首が、俺の副流煙で少しでも身体を悪くしたらと思うと恐ろしすぎる、そんなでかい責任取れないぞ。

とはいっても、口寂しいというかスッキリしないというか…

未練がましく指先で煙草をいじっていると、たしかにドアが開いた。

「クロードさん」

「僕は姫様や王子様でもない上に歳下ですから、クロードでいいですよ」

「じゃあ俺のこともコーディでいいよ、たぶん歳そんなに変わらないでしょ」

「まあ、2歳下だからそうですね」

「で、何か…サービスでも?」

「いやまあ、これから旅路を共にする訳ですから、友好を深めようかと」

「なら俺達はお互いタメグチで。

 この旅の最中は周囲の全員に敬語使う、なんて状況、疲れるでしょ」

「たしかに!」

「…ところで、いきなりすっごく情けないお願いがあるんだけど」

「なに?」

「俺、さっきもちょっと言ったけど、盗賊の解錠技術で扉を開けたら無罪にしてやるって国王様に言われて、冤罪を立証もできないから仕方なく同行してるだけで、解錠技術はない訳よ。

 だから、開けるのはクロードになるけど、俺が開けたことにしてくれないかな…と」

「いいよ」

「えっ、いいのか」

「こっちは願いが叶えばそれだけで万々歳で、更に手柄とか別にいらないから。

 コーディは唯一、ミハエル様に直接何かを頼むわけじゃないのにわざわざ出向くんだもんね、それぐらいの恩恵はあっていいはずだよね」

「ありがとう!」

「それでも、一般国民は知らなくても、宮廷の方々からは盗賊だと思われたままなんだから足りないぐらいだよね」

「そうなんだよなあ…理不尽だ」


「ところで、入ろうとしたら煙草をいじってるのが見えたんだけど、ずいぶんとサマになってたね」

「あ、ありがとう」

この人は他人のかっこよさも認められるタイプのナルシストなのか

…よかったわ。

「モデルだって言うから、ロビーにお客様用に置いてる中からメンズファッション雑誌見たら、いきなり一冊目に載ってたし。

 でも、雑誌の自信満々ぶりに比べると、今はちょっと…アンニュイ強め?」

「そりゃさすがに、冤罪で牢獄にぶち込まれて、旅路でも役立たずだと思ったら自信なくすって…」

「でも、冤罪なんだから、誰が何と言おうと胸張って堂々とカッコつけてなよ、解決すればまたモデルはできるんだろうしさ、かっこよさが台無しだよ?」

「そうだな…ありがとう。

 ほんとお互い早く解決するといいな!」

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