第10話 死闘
と言われても、もちろんボブを見放す気になどなれない。
私たち3人は逃げたふりをして、壊れた城壁の影に隠れて様子を伺った。
ボブは首を絞められ続けている。
グリフィス「お前のことは粗方知っている。
みなし子でありながら、その声の美しさを買われ、音楽家ルシアに育てられた。
歌がうまければこの国の人間の女は、コロっと騙されてくれるからな、我々の戦力にもなろう。
しかし、お前は15歳で厳しいレッスンに根を上げ、ルシアの家を飛び出した。
いかに声が良くても根性なしで上手くなれないなら、使えないと思っていたが…
何故かとっくに人間界に飛び出した後、20代も半ばの5年前から、めきめきと力をつけてきたと聞く。
大器晩成型だったのだな。
ボブ、命が惜しいなら、今からでも遅くない、こちらにつけ。
味方が根こそぎやられてしまって、ヴァンパイアは人間にとっての穏健派ばかりになってしまったが、
わしの戦闘力と、お前の歌唱力があれば、旨い女の血は沢山手に入れられる、穏健派もその味の誘惑に勝てずに寝返るだろう。
今なら側近にしてやろう」
ボブ「バカなこと言ってんじゃねえ…
俺はルシアの家で音楽を強制されて、上手く歌えない時は頬を叩かれてきたんだ…
そりゃ歌うのも嫌になるし逃げるさ…
俺がここ最近で上手くなったのは…
姫様に褒められたかったからだ!」
アナベル「…ボブ」
ボブ「お前らの為に歌うなんて意味がねえ!」
グリフィス「そうか…残念だ」
グリフィスはボブの左肩に噛みつき、音がこちらにも聞こえてくるような勢いで血を吸い始めた。
ボブ「うっ…うわあああ!」
ラファエル「寝返るなら今のうちだぞ」
ボブ「お生憎!
でもよ、リクエストにお応えできないお詫びに、そんなに俺の歌が好きなら聞かせてやるよ、将軍様…
ほんとは先に姫様に聴かせたかったけど…」
♩届かない百合の花に 僕はいつも跪く
何度も崖を登るから 少しでも微笑んで
ルイス「わあ、本当にうまっ…
って、まずいですこれ! 耳栓してください!
強化f分の1ゆらぎが入っています!」
ローレン「えっ!」
ボブ。
いつの間に滅びの歌を習得したんだろう。
ルイス「そういえば、ボブさんと同室の時は、よく『黒魔術の本、面白そうだから見せてよ』って言われたなあ」(唇読み取り)
なるほど。
とはいえ、異種族の技をものにするとは。
やっぱり彼もまた、剛腕シンガーか…
グリフィスは一瞬うとうとしかけたが、寝落ちる直前に何かを察したのか、耳を塞いだ。
ボブはその隙に離れようとしたが、グリフィスの太い脚に腰を挟まれてしまった。
口を塞がれ、歌が止まった。
ボブも負けじと指に噛み付く。
グリフィス「…この野郎!」
押さえ込もうとするグリフィス、歌おうとするボブ。
もどかしい。
みんなが私の為に、こんなに命を賭けているのに。
私は何も…
考えるんだ。
なんとしても状況を打開するんだ。
次の瞬間。
目に入ったのはダイナマイトで半分ほど破壊された、2本の巨大なシャンデリアだった。
蝋燭の炎が、まだついている。
アナベル「ローレン! ルイス!
あれをあいつの頭に叩きつけて!」
ローレン•ルイス「お任せください!」
重いシャンデリアを持って走っていくので、どうしてもドタドタドタッ!と足音がしてしまう。
当然、グリフィスにはすぐに気付かれた。
ラファエル「いいのかーお前ら?
そんなものを叩きつければ、まずこいつがお陀仏になるぞ?」
ラファエルはボブの口を押さえたまま、彼の体を自分の盾にした。
ローレンとルイスの歩調が弱まる。
すると、ボブは後ろ脚でグリフィスの胴体を思いっきり蹴った。
ボブ「脚を引っ張ってたまるかっての!」
その勢いで遠くへ飛び出す。
それを見届けたローレンとルイスは、シャンデリアをグリフィスの頭に叩きつけた。
パリン! パリイイィン!
グリフィス「ぐっ!」
気がつくとボブが私のところに来ていた。
ボブ「姫様! 俺のぶんのシャンデリアは?」
アナベル「ご、ごめん、もうないの」
ボブ「くそう、ここまできて、とどめをさすって時に俺だけいないとか、あってたまるか!
もうこれでいいや!」
ボブは壊れた柱を担いでラファエルの所へ向かった。
パリン! パリン! パリイイィン!
シャンデリアと柱はどんどん小さくなっていき
、もう叩きつけられないほどの大きさになった時には、
グリフィスはすっかり息絶えていた。
三人は破片で切り傷だらけになりながら、顔を見合わせて頷いた。
私が駆け寄ると、全員で大きくハイタッチをした
ーと同時に、ボブがこちらに倒れ込んできた。
そうだ!
もう血が足りないんだ!
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