異世界救世主〜退魔も冤罪もお清めも〜
あっぴー
第1章 傾国のblood
第1話 即席パーティで逃亡
私はアナベル、25歳。
メロディ王国の姫である。
その名の通り音楽が盛んな国なので、毎日宮廷に音楽家を呼んで歌わせているのだけど…
ローレン(33)「♩闇夜に囚われた氷姫!
僕が温めましょう!」
今日の人は…聞いたこともないぐらい、歌い方のしゃくり癖が凄すぎる。
戦慄の旋律だ。
しかも、頭を振り乱しすぎだし、服の前がはだけてるし…
まあ、元々呼んだ音楽家は風邪で休んで、急遽この人を呼んだんだから仕方ないか…
ルイス(12)「…はい、どうぞ」
このコは、お人好しの父上が雨の中拾った小悪魔。
身寄りがないので宮廷で手伝いをさせている。
彼が差し出すフルーツを頬張りながら、ため息をついた。
このルイスってコも、12歳とはいえ、人見知りがひどくて、気が利かないし
(なによ、フルーツつまむって時にレモンを多めに持ってくるなんて)、
フルーツの味も、最上級だからと言っていつも同じブランドのだし、つまんないな…
この上ない贅沢な環境なのに、耳も舌も目も超えてしまったのかしら…
そんな気怠い気分は、形相を変えて飛び込んできた番兵たちによって、一瞬で破られた。
「姫様!
ヴァンパイアの集団が、姫様の血を狙って殺害しようと乗り込んできています!
全勢力を傾けて必死で抵抗していますがとても敵いません、
早く秘密の地下通路からお逃げください!」
えっ!
そんな。
一人で逃げたって、見つかったらひとたまりもないし、
それ以前に私は生活能力くが怪しい…
そうだっ!
アナベル「ルイス! ローレン!
私についてきなさい!」
ルイス「えっ…」
ローレン「いやいやそんな、鍛えられた兵士で勝てないものを…」
アナベル「なによ! 私は一人娘なのよ、この国の王族の血統が途絶えてもいいの?
私を守り切ったらいくらでも褒美を授けるわ! どう?」
ローレン「本当ですか! では僕には飲食店を2つ開かせてくださいね!」
ルイス「…アトリエほしい」
アナベル「よろしい!
あと、ボブ!
どうせいるんでしょう、出てきなさい!」
ボブ(29)「へへっ、バレてましたか」
このボブもまた、私の血を狙っていつも宮廷の窓に張り付いているヴァンパイアだが…
アナベル「あなただって私が殺されたら困るでしょう? ついてきなさい!」
ボブ「もちろんです。
まったく愚かな奴らですよ、たしかにヴァンパイアの一番の好物は若い女性の血ですけど、
姫様の血は年齢を経ても美味しいヴィンテージもので、殺さず毎日少しずつ頂いた方がお得なことが、匂いでわからないなんて。
あっ、お礼はもちろん、毎日採血レベルの血を分けてくださるだけでいいですよ」
アナベル「決まりね」
宮廷からだいぶ離れた頃。
ローレン「うーん、人目を避けた道を選んでここまで来たけど、もうそろそろ街ですよ。
姫様、その格好では目立って仕方がないのでは」
そう。
私はティアラはとっくに外していたものの、見るからに高い生地でできていて刺繍も精緻な真っ白いドレスを着ている。
もちろん、急いで出てきたから着替えなんか持っていない。
ボブ「ヴァンパイアってやつは、どこで人間のふりして紛れ込んでるかわからないからなあ、新しい服買ってきた方がいいね」
本当に人間にしか見えないどころか、侍女たちからイケメンだと囁かれているボブが言うと説得力がある
(でもメイクは濃いし髪の毛は盛ってるし、服もオシャレスーツだから、実態は怪しいもんだと私は睨んでるけど)。
ボブ「俺、買ってくるから、姫様、寸法教えてください」
アナベル「バカっ! 下心丸見えなのよ!
ルイス、お願い」
ローレン「いや、なんで僕でもなくて、こんな大人しそうな子供に頼むんですか」
アナベル「あなたはあなたで、はだけた服を買ってきそうだからよ!」
ルイス「…まあ、いいですけど、女性のファッションには疎くて。
どんな服がいいんですか?」
ローレン「男3人がみんな黒い服だから、合わせて同じグループな感じを出すのがいいんじゃないかな」
ボブ「女性の服がそんなんじゃつまんないでしょ!
やっぱエロ、いや可愛い服にしなくちゃ!」
アナベル「こらっ、ボブ!
ルイス、ローレンが言うようなので、いいからね」
ボブ「えっ、可愛い服着たくないんですか?」
アナベル「いや、それは…でも命には…」
ルイス「というか、お金は…? 僕、持ってませんよ…」
アナベル「私も、急いで出てきたから…」
ボブ「あるけどこれはホテ、いや、今夜の宿屋代だよ?」
これだから。
ホテル代持ってきて、何しようとしてたんだか。
アナベル「たしかに、野宿は嫌ねえ…」
ボブ「ですよねー、姫様ですもんねえ」
ローレン「あっ、宮廷から帰る為の電車賃があった! 300ハミングお納めください!」
(1ハミング=10円)
アナベル「ありがとう。
これならなんとか2着買えるわね」
帰るための電車賃…
宮廷に住み込みのルイスと、風来坊のボブとは違って…
ローレンは帰る場所があるのに、初対面の私を護る為についてきてくれたんだなあ…
いや、思い上がりか。
ローレンが護りたいのはうちの血族、国の未来なのかもしれないし。
服屋に行ったルイスは、しばらくして大きな袋を携えて、真っ赤な顔で帰ってきた。
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